第40話
さあやってきました生産パート、皆さん準備はいいですか? 森山十護の飽くなき鍛冶への挑戦だ。
……ちょっとヒップホップ調な感じの言い回しになってしまったが、まあいいだろう。
改めて、新たな武器の生産を開始しよう。
まずやるべきことは新鉱石である【銀鉱石】で精錬した銀インゴットを使用して一本の剣を作成する。
「いっちょ、やりますかね」
赤々と熱せられた炉にインゴットを投入し、加工できる温度まで持っていく。
しばらくしてインゴットが赤く熱を帯び出し加工に適した温度に到達する。
インゴット精錬時に分かったのだが、銀の加工は鉄よりも硬度が低いため容易にできる。
だが力任せに叩き過ぎれば大きく変形してしまい望んだ形に持っていくことができない。
従って、ハンマーを打つ際の力加減を鉄を加工する時よりも繊細に調節する必要がある。
その分一打一打を打つ時の集中力が鉄の比ではない。
だがそこは鍛冶職人のスキル【鍛冶の心得】の助けもあって何とかイメージした形に作り上げていく。
そしてできた一振りがこちら。
【秀逸なシルバーソード】
若手鍛冶職人の手によって作成された逸品で通常のシルバーソードよりも高い攻撃力を持つ。
性能は鉄の剣を凌ぐものの使用されている鉱石の特性上耐久値がそれほど高くないためこまめな手入れが必要となる。
攻撃力+36 俊敏性+5 命中率+5 耐久値:500 / 500
製作者:非公開 レア度:3.5等級(星三つ半)
うん、なかなかいいものができたな。これだけなら通常の運用でも問題ないが、もう一声欲しいところではあるな。
どうやら銀の特性として耐久値がそれほど高くなくすぐに劣化していくようなので手入れは怠らないようにしないとな。
俺がそんなことを考えながらシルバーソードの出来具合を確認していると後ろが何やら騒がしいので振り返る。
「うーん、素晴らしい剣ですね」
「流石はジューゴ・フォレストといった所でしょうか」
「通常のシルバーソードよりも遥かに性能がいい、こりゃ高く売れそうだ」
「確かに、こりゃすげえな」
いつの間にか俺の作業場にNPCの職人や生産プレイヤーがまるでマグロの解体ショーを見学するが如くの様相で俺の作業を食い入るように見ていた。
というかなんで親方まで一緒になって見学してるんだよまったく。
「こらこら、見せもんじゃないぞ。さっさと自分たちの仕事に戻ったらどうだ?」
「まあそう固い事言うなよ兄ちゃん。兄ちゃんの鍛冶の技術は今やこの街でも屈指のもんだ。その技術を盗んで自分のものにしたいっていう職人は沢山いるんだぜ。この俺も含めてな」
「あんたここの親方だろ……それでいいのかよ?」
「……テヘペロ」
いい歳こいたおっさんが“テヘペロ”って勘弁してくれよ……。
これでは作業に集中できないので犬を追い払うように手でシッシッとやると渋々ながら自分たちの持ち場へと戻っていった。
もうそろそろ自分専用の工房が必要なのではと考える俺だったが、当然そんなものはFAOにはない。こりゃ運営に要望を出しておかなくちゃな。
ひとまずシルバーソードの見本は作成できたので、次はこの剣以上の性能が出せる合金の作成に取り掛かるとしよう。
と言ってもさっき俺が作ったシルバーソードの作成時間は三十分以上掛かっている。幸い明日は仕事が休みのため多少ログイン時間が長引いても問題ないが、できるだけ効率よく作業できるよう心掛けた方がいいだろう。
時間というのは無限にあるわけではないのだから。
現時点で合金についての知識が全くないので、メニュー画面からインターネット経由で情報を収集する。
公式掲示板やチャットもそういった情報などはやり取りされるのだが、現状それほど詳しい情報はなく現実世界の情報を参照して作成する方がいいという結論になった。
しばらく調べていると興味深い情報を見つけた。それによれば鉄と極少量の炭素を混ぜ合わせた合金で我々とって馴染み深い言い方で言えば【鋼】だ。
別の言い方として鋼鉄とも呼ばれるそれは通常の鉄よりも強靭さを持ち加工性にも優れているらしい。
「決まりだな」
俺はそう呟くとさっそく鋼を作るべく作業を開始した。
作り方はコークス炉の中に精錬した鉄インゴットを投入し加熱する。しばらく鞴を使って鉄を加熱し続け鉄の融点である1500度まで持っていき鉄を溶かす。
鉄が融解し始めたのを見計らってそこに少量の砕いた石灰石を入れ火かき棒を使って鉄と石灰石を混ぜ合わせる。
この時混ぜ方を均一にしないと材質の強度などにムラができるためできるだけまんべんなく混ぜていく。
まんべんなく混ざり合ったのを確認すると炉から取り出ししばらく放置する。
まだ熱が残っていて素手では持てないが二十分ほど放置してできたものがこれだ。
【鋼合金】
純度の高い鉄に炭素を少量加えることで純粋な鉄よりも強度を増した合金。
製作者:非公開 レア度:3等級(星三つ)
とりあえず合金自体は完成したが、問題はこれを使って作った剣が先ほど作ったシルバーソードの性能を上回るか否かだ。
俺が作業場に入ってすでに一時間半が経過して要るため鋼合金を使用した剣の作成は次のログインまで取っておくことにした。
ちなみに敢えて言わなかったが、俺が作業している間もプレイヤーが俺の所に来ては武器や防具の作成を依頼してきた。だが今はそんなことをしている余裕はないため全て丁重にお断りしていた。
今のイベントが終わったらゲームバランスが変化しない程度の装備をフリーマーケットで出してみるのも悪くないかもな。
その後ログアウトする時間になるまでひたすら鋼合金を生産し続け十分な量を確保できたため今日はそれでログアウトした。
いくら時間がないとはいえゲームの中で残業するつもりは一切ない。自分の体調が一番大事なのだ。
ログアウト後晩飯を食べ風呂に入り寝る支度を済ませるとそのまま就寝した。
明けて翌日とりあえずこの一週間で溜まっていた家事をこなし後顧の憂いを断った後に再ログインする。
最初に防具職人の状況を確認するため工房に向かう。工房に赴くとちょうど親方と一緒に俺の防具を作ってくれる職人がいたのでそちらに歩いていく。
「おう兄ちゃん、ちょうどよかった。こいつが兄ちゃんの防具を作ってくれる職人だ」
「どうも初めまして、ジューゴ・フォレストと申します」
「ほおーあんたがジューゴ・フォレストか噂は聞いてるぜ」
親方が紹介してくれた防具職人さんは親方に負けず劣らずの職人面をしておりいかにもいい防具を作ってくれそうな風貌だった。
長い髪とこれまた長い髭を蓄えまるでその姿はファンタジーで登場するあの有名な種族にそっくりだ。
「あの、一つお聞きしたいのですがあなたはドワーフですか?」
「ハハハ、この長ぇ髪と髭でよく勘違いされんだけどよ。俺は正真正銘の人族さ」
「そうですか。それは失礼しました」
「なに気にすんな。よく言われることだしな」
「それで兄ちゃん、本題なんだけどよ」
そう親方が切り出しそのまま仕事の話になった。
新たに防具を作成することは問題ない、だが――。
「問題は素材だ。最近鉱山が解禁されたり闘技場が加わったことで装備関連の注文が殺到しちまってあんたの防具を作るための素材が確保できねえんだ。だから素材の提供は依頼主であるあんたにやってもらうことになるけど問題ねえな?」
「問題ありません。とりあえずこれを使ってください」
そう言うと俺は以前戦ったオラクタリアホッグの皮と蹄、それにベルデビッグボアの鱗と皮の入った袋を取り出しそれを防具職人に渡した。
すると大きく目を見開いた彼は俺に向かって詰め寄ってくる。
「おいおいこりゃとんでもねえ素材じゃねえか。こんないい素材どこで手に入れたんだ?」
「倒したら手に入りましたけど、何か?」
「……」
「ガハハハ、兄ちゃんはそういう男なのさガッツ。兄ちゃんと付き合っていくならいちいち驚かないこった。さもねえと身が持たねえぞ」
なんだか褒められている気がしないのは俺の気のせいなのだろうか。
それにしても防具職人さんってガッツって言う名前なんだなかなか元気のありそうな名前だな。
「と、とにかく素材はそれで問題ありませんよね?」
「あ、ああ十分すぎるくらいだ。てかこんないい素材なら俺の最高傑作ができるかもしんねえ」
「そこで相談なのですが……」
俺はガッツさんの作った防具に薄い鉄の板をはめ込むことで防御力の向上をしようと思っている旨を伝えたところ。
「それならその板も素材として俺んとこに持ってこい、はめ込むよりも取り付けた方が防具の性能が上がるからな」
「では先に渡した素材で防具を作成していただいてこちらの板ができ次第、取付け作業をお願いしてもよろしいですか?」
「おう、任せとけ」
こうして防具職人ガッツさんとの交渉も成立した。
できるだけ早く欲しいとお願いすると優先的に取り掛かってくれるとの事だった。
どうやら俺が最初の闘技場で戦うプレイヤーだと薄々分かっているようで「当日は俺も見に行くから頑張れよ」などと言われてしまった。
その後防具に使用する鉄の板を様々な厚みに作り、できたその日のうちにガッツさんに届けた。
時間的には1時間ほど使ったがまだ余裕があるためそのままプレイを続行する。
次は鋼合金を使用した剣の作成をする予定だったが一旦鍛冶作業を後回しにして他の職業のレベルの底上げに切り替えることにした。
レベル的には盗賊を優先すべきだが、一度料理人のレベルも上げておきたいのでそのまま工房の給仕室に向かった。
さて、クエックの卵も手に入ったし、新しい料理に挑戦するとしますかね。
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