第39話
ベルデの森での騒動から四日が経過していた。
あの後クエック達と別れようとしたのだが、額に切り傷のような形の模様の入った子どもクエックが俺から離れようとしなかった。
一緒に連れていくにはまだ子ども過ぎるという事で「大きくなったら一緒に冒険しようぜ」という社交辞令的な約束をすることでようやく離れてくれた。
そう言えばこのゲームってモンスターを使役するテイム機能とかあるのだろうか?
この四日間で行ったのはひたすらにレベル上げだ。
新たに手に入れた職業【盗賊】をメインにレベルの強化を図ろうとしたのだが、盗賊のレベルの上げ方に最初は苦労した。
モンスターに見つからないように草むらの陰から奇襲したり、足音を立てないように抜き足差し足で歩いてみたりなどといった盗賊っぽい行動をいろいろ試してみた結果、徐々にレベルが上がり始めた。
現在の職業レベルは剣士24、鍛冶職人25、料理人26、そして盗賊12といった感じだ。
鍛冶職人と料理人が上がっているのは鉄鉱石などをインゴットにした時とフリーマーケットに出品する料理を作った時に上がった分だ。
料理人に至っては作る量が量なので一気に4段階も上がってしまい我ながら呆れてしまった。
相変わらずではあるがフリーマーケットの売れ行きはムカつくほどに超絶好調だ。
ちなみに新しく手に入れた盗賊のスキルは3つで【気配感知】と【隠密】と常時発動型の【盗賊の心得】だ。
気配感知並びに隠密の説明は不要だと思うが一応説明すると、敵の位置を察知する能力と自分の気配を相手に悟られないようにする能力だ。
一番気になる盗賊の心得は一体何なのかと言えば、罠解除をする際に罠を解除する成功確率が少し上昇するというものだった。
新たに手に入れたスキルは3つともレベルによって精度や効果が上昇するらしく、今では半径200メートル圏内のモンスターの気配を察知できるようになっていた。
隠密も最初はすぐにモンスターに見つかっていたが、今では不意打ちされるまで俺がいたことに気付きもしないほどに精度が上がっている。
盗賊の心得は肝心の罠付きの宝箱に出会っていないため罠解除などができていないが他のスキルの能力向上を鑑みるにかなりの精度で解除できるだろう。
そうだ、肝心な事を言い忘れていたが先ほど説明した内容は四日間の内訳で言うと二日だ。
では残りの二日は何をしていたのかと言えば、単純な言葉で言うなら【自宅待機】というやつだ。
実はベルデの森から帰還しすぐさまログアウトした後家のパソコンで今回のイベントとアップデートに関する情報を見ていたのだが、それがこれだ。
いつもフリーダムアドベンチャー・オンラインをご利用いただきありがとうございます。今回はフリーダムアドベンチャー・オンライン初となるイベント【冒険者たちの武闘会】と新たな要素の実装をお知らせいたします。
まず【冒険者たちの武闘会】ですが、始まりの街にすでに設営が完了している円形闘技場コロシアムが武闘会の会場となります。
そこには3体の強力なモンスターが待機しておりプレイヤーの皆様はその中から好きなモンスターを1体指定していただきます。
指定したモンスターと闘技場で戦っていただき戦いの内容に応じて評価ポイントが出され、そのポイント数に応じた報酬が支払われる仕組みとなっております。
尚ポイントの算出方法はイベントを大いに楽しんでいただくため非公開とさせていただきますが獲得したポイントによる報酬の一覧は以下の通りとなっております。
10000ポイント以上 → ??????
7500~9999ポイント → シルバー系の武具、鉄系の武具、上級&中級ポーション詰め合わせ、4等級以上の素材アイテム
5000~7499ポイント → 鉄系の武具、革系の武具、中級&下級ポーション詰め合わせ、3.5等級以上の素材アイテム
3000~4999ポイント → 革系の武具、下級ポーション詰め合わせ、3等級以下の素材アイテム
2000~2999ポイント → 革系の武具、下級ポーション、下級解毒ポーション、2.5等級以下の素材アイテム
1000~1999ポイント → 下級ポーション、下級解毒ポーション、2等級以下の素材アイテム
1000ポイント以下 → 下級ポーション
獲得したポイントは再挑戦後はリセットされますが、最高ポイントは記録として残ります。
円形闘技場コロシアム内での戦闘で死亡してもデスペナルティーは発生いたしません。
イベント期間中にそれぞれ3体のモンスターと戦える機会は一度しかありませんので十分な準備をして挑まれることをおすすめします。
次に新たに追加される要素についての説明に入ります。
新たに実装される内容は以下の通りです。
1、新フィールド【鉱山】の解禁
新たなフィールドとして鉱石が採掘可能な【鉱山】が追加となります。
通常のルートでは侵入不可能でしたが、今回のアップデートで実装となります。
2、全てのアイテムに等級制度を導入
フリーダムアドベンチャー・オンラインに登場する全てのアイテムにレア度を示す等級制度が追加されます。
レア度は星で表示され最低ランクは星0.5、最高ランクは星5の十段階でレア度を表します。
また呼び方として星3のレア度は3等級、星3.5は3.5等級という呼び方になります。
3、新鉱石【銀鉱石】の追加
新たな鉱石として銀鉱石が追加され、それに伴いシルバー系統の装備も追加されます。
銀鉱石は鉄鉱石と比べ柔らかいため加工が容易にでき、さらに攻撃力や防御力は鉄よりも向上します。
4、新たなデスペナルティーの追加と変更
現在のデスペナルティーは死亡時に修得している全職業レベルが1段階低下するものでしたが、今回のアップデートで新たに所持金額の20%の消失と低下するレベル数を1段階または2段階に変更します。
以上が今回のイベントとアップデートの内容となります。
全てのアップデートを実装するため〇月〇日の午前0時より18時間のメンテナンスに入りますのでそれまでお待ちください。
これが公式サイトに掲載されていた内容だったが、実際FAOに再びログインできたのはメンテナンス開始から二日経ってからだった。
なんでも実装するはずだったプログラムに致命的な欠陥が見つかり、当初18時間を予定していたメンテナンス作業が大幅に遅れ、蓋を開けてみれば再ログインできるまで丸二日を要してしまったのだ。
これだけ大掛かりなアップデートは初めてだったので仕方ないと言えばそうなのだろうが、もっとしっかりして欲しいものだ。
それにしてもなんだかすごく事が大きくなっているのは俺の気のせいだろうか?
イベントもそうだが新しい要素特に等級制度が興味深いな。
全てのアイテムに表示されるということは料理ならばレア度だけでなく美味さも等級で変わってくるのかな?
あと個人的に痛いのはデスペナルティーの追加だな。
所持金の20%ロストはまだ許容の範囲だが、レベルの低下が1または2とかかなり厳しい。
1と2、数字としては一つしか違わないが、その一つがデカいんだよな……。
兎にも角にも、以上がこの四日間の出来事だ。
メンテナンスが予想よりも長引いてしまったため予定としては遅れている状態だ。
これはなにか“お詫び”的なものはあるのだろうか?
とりあえず二日ぶりに再ログインしFAOの世界へと舞い戻る。
するとメッセージが届いていることに気が付きそれを確認すると、どうやらメンテナンスが大幅に遅れてしまったことに対するお詫びとして50000ウェンを支給するという旨のものだった。
50000ウェンね、なんでも金で解決すればいいってもんじゃないでしょうに……。
さらにもう一件メッセージが届いていたのでそれも確認すると。
『ジューゴ・フォレスト様、こちらはフリーダムアドベンチャー・オンライン運営です。今回のメンテナンスにより武闘会の準備期間が大幅に削られてしまったことを深く謝罪いたします。大変申し訳ないのですがこちらの都合上武闘会開催の日程を遅らせることができず残りの日数で武闘会に備えていただくことになります。つきましては貴方様お一人に限り支援策として素材アイテムを送らせていただきます。日数的に苦しいかと思いますが何卒よろしくお願いいたします』
メッセージに添付されているアイテムを確認すると鉄鉱石や銀鉱石などの鉱石類の他にオラクタリアピッグの肉などの食材といった今後必要になってくる素材が多数添付されていた。
これで素材を集めるのに時間を削らなくて済むのでとりあえず怪我の功名はあったと思う事にする。
さてここから現実的な話をしよう。
武闘会開催まで残すところ十日だが、その間にクリアしなければならない課題は3つ。
一つ、職業レベルの向上。二つ、新たな武具の作成。三つ、実践的な戦闘スタイルの確立。以上の3つだ。
職業レベルの向上は言わずもがなな話だが、このFAOというゲームにおいてステータスを向上させるためには職業レベルの上昇は必須項目だ。
他のゲームとは違い操作するキャラクター自身にレベルの概念はなく、修得している職業のレベルを上げることでステータスを向上させることができるためだ。
二つ目の新たな武具の作成も重要な課題の一つで、特に今まで着手してこなかった防具の作成が今回のカギとなるだろう。
三つ目の戦闘スタイルの確立とは今まで何となくの感覚で戦ってきたが、そんな曖昧なものではなくしっかりとした戦う術、いわゆる“戦術”を覚えるべきだと俺は考える。
以上3つの課題を残り十日で行わなければならない。
時間数的にはログイン時間を確実に確保することができる土日を挟んでいるので大体50時間の猶予がある。
逆に言えばその時間内で来たる武闘会に備えなければならないため正直間に合うかどうかは現時点では不明だ。
しかしながらやるべき課題が最初から見えているため何をすればいいのか迷う事はない。
「とりあえず工房に行くか」
まずは武具作成の大まかな代案を出さなければならない。そのためにもまずはプロの意見を聞くべきだろう。
いつもの宿から出ると俺は工房へと向かった。
「新しい武器と防具ねえ……それで最近鉱石をインゴットにしてたわけか」
「親方なら何か良い案がないかと思ったんだけど、何かないかな?」
「そんな急に言われてホイホイ出るもんじゃねえよ。だがまあ、そうさなあ、武器にしろ防具にしろ使う素材は銀鉱石だろうからシルバー系装備になるのは確定として、要はどんな系統の装備を作るかって話なんだが……」
「シルバー系って言ってもさ、それこそ装備の組み合わせなんて何通りもあるから最初に的を絞っておかないと最初の構想だけで十日経っちまうよ」
装備と言っても多種多様に種類があり使う素材の量やどこにどんな素材を使うのかも微妙に違ってくる。
それを最初から全て考えていると時間なんてあっと言う間に過ぎてしまうだろう。
「もういっその事兄ちゃんが作りたいものを作った方がいいんじゃないか? あれこれ難しく考えずによぉー」
「難しく考えずにか……」
とりあえず武器はもちろん剣を作る。これは順当な答えだろう。
材料は銀、鉄、銅の三種類あるが銀が最も攻撃力の高い剣を作成できる。
頭の中にある構想の一つとしてこの三つの鉱石を組み合わせて銀単体で作成した剣よりも強力な物ができないかという考えがある。
ファンタジーでよく登場する加工合金というやつだ。
とりあえず試作として銀単体で剣を作ってみて、その後合金を作成し、その合金で剣を作ってみるというプロセスで行こうと思う。
余裕があれば遠距離での攻撃がほぼ皆無なため牽制用の投げナイフをいくつか作ろうかと考えている。
防具に関しては今修得している職業ではフルプレートしか作れない。
現在装備しているのは動きやすさを重視した軽鎧系の防具のため防具を作成できる職人に素材を預けて枠組みを作ってもらい、できたものに取り外し可能な薄いプレートをはめ込むことで防御能力の向上を狙う。
「という考えが一応はあるのだが、どうだろ――」
「ほとんど決まってんじぇねえかよ!」
俺が言い終わるよりも先に親方の豪快なツッコミが炸裂する。
仕事に集中していたNPCの職人たちや生産職プレイヤーが何事かとこちらに視線を向けてくる。
「まあとにかく一応構想はあることだし、やるだけやってみるよ」
「おう、頑張りな」
その後親方に腕のいい防具職人を紹介してもらえるよう依頼を出したあと俺は持ち場にしている作業場に向かう。
どこまで実現できるかわからないが、時間が限られている以上やることをやるだけだ。
俺は深呼吸をした後収納空間からハンマーを取り出し、作業を開始するのだった。
※今回の活動によるステータスの変化
【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト
【取得職業】
【剣士レベル24】 パラメーター上昇率 体力+150、力+99、物理防御+97、俊敏性+48、命中+40
【鍛冶職人レベル25】 パラメーター上昇率 体力+155、魔力+48、力+92、命中+25、賢さ+26、精神力+64、運+6
【料理人レベル26】 パラメーター上昇率 体力+137、魔力+82、力+58、命中+49、精神力+48
【盗賊レベル12】 パラメーター上昇率 体力+58、魔力+20、物理防御+28、俊敏性+66、命中+45、賢さ+27
【各パラメーター】 【補正後(10%)】
HP (体力) 498 → 588 → 647
MP (魔力) 190 → 220 → 242
STR (力) 236 → 259(+25) → 285(+25)
VIT (物理防御) 100 → 137(+21) → 151(+21)
AGI (俊敏性) 51 → 123(+9) → 135(+9)
DEX (命中) 109 → 167(+9) → 184(+9)
INT (賢さ) 34 → 63 → 69
MND (精神力) 111 → 122 → 134
LUK (運) 26 → 29
スキル:時間短縮、鍛冶の心得、十文字斬り、身体能力向上、縮地、気配感知、隠密、盗賊の心得
称号:勇ましき者
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