第36話
「ユウトさん、こっちです!」
「はあはあ、じゅ、ジューゴ君、この後どうするんですか?」
「とにかく今は逃げることだけに集中してください!」
一つ愚痴を言わせてもらうが、なぜ俺だけこんな目に会うのだろうか?
デスペナを食らった場所に再挑戦すべく意気込んできてみたらモンスタートレインに巻き込まれ現在目下逃走中と言った状況。
“どうしてこうなった?”そう天に向かって叫びたい衝動に駆られるもそんなことをしている余裕は当然ない。
肩越しに振り返ると目と鼻のすぐ先に迫りくるモンスターたち。
主にベルデウルフや初めて見るベルデゴブリン、さらにグリズリーベアーといったベルデの森に生息する個体ばかりだが、数が数だけにまともに戦っては消耗戦に持ち込まれ確実にやられてしまう。
一匹ずつでは優位に立てる相手でもそれが数十匹ともなれば話が変わってくるのだ。
「どうする、このままじゃこっちの体力が尽きていずれ追いつかれる。かといって立ち止まって戦っても囲まれて数で押し切られるしな」
「ジューゴ君、前!」
ユウトさんの声に前を見るとこちらの進行方向に新たなベルデウルフの群れが現れる。
こちらの姿を捉えたベルデウルフたちが、全速力で駆けてくる。
「こいつめ!」
止まって戦っている余裕はないため突進してくる攻撃の軌道を読んで回避すると同時に急所である腹部を一突きしこれを倒す。
避けては突くという短調作業を数度繰り返すといつものあの珍妙な効果音と共に告知される。
『ジューゴ・フォレストの【剣士】がレベル14に上がりました。スキル【身体能力向上】を獲得しました』
その告知があると同時に若干ではあるが身体の動きが軽くなり先ほどよりも軽快な動きができるようになっていた。
こちらが何もしていないのにそうなったところを鑑みるにおそらく常時発動型のスキルかそれに準ずる系統のスキルを獲得したようだ。
身体能力向上とか言っていたから常にデフォルトで補正がかかるか戦闘中限定などの特定の条件下で発動するスキルなのかもな。
さりとて、いくら身体能力が向上するといってもたかが知れている。
だがあるのとないのとでは明らかに雲泥の差が出てくるものだ。
とある漫画のキャラクターのセリフを借りるのなら「1と0は違う」だ。
「ユウトさん、俺に捕まってください!」
「うぇっ!? じゅ、ジューゴ君一体何を?」
「いいから!」
そう言い放つと俺はユウトさんを小脇に抱え込み全速力で疾走する。
先ほどまでとは比べ物にならないほどのスピードで森を駆けモンスターの群れと一定の距離を取る。
このままユウトさんを抱えながら逃げることはできるが、あれほど大量のモンスターの群れを放っておけば街にまで被害が及ぶ可能性がある。
今いるのは俺とユウトさんの二人しかおらず、戦力的に戦えるのは俺一人だ。
「ユウトさん今のうちに一人で逃げてください」
「ジューゴ君はどうするんですか?」
「俺は出来る限りのことをやってみます」
「わ、わかった。ジューゴ君、くれぐれも無茶しちゃいけませんよ」
短く言葉を交わした俺たちはそれぞれ別の方向へと向かって行った。
俺は短く息を吐き出すと覚悟を決め腰に下げた鉄の剣を抜き放つ。
鈍く光り輝く刀身をまるで灯台のように頭上で振り回しながらモンスターの注意を引き付ける。
作戦はうまくいき全てのモンスターが俺へと進撃してくる。
数の暴力は個の力に勝るとライトノベルでも事あるごとに表現されているが、一つだけ反論しよう。
“それは時と場所と場合、TPOによりけりだ”ということを。
「いくぜ!」
そう気合を入れると俺はユウトさんが逃げた方向とは逆の方向、位置的には森の奥地に向かうルートに向けて走った。
だが先ほどの全速力の走りではなく、ある程度力をセーブし六割ほどのスピードで走る。
それくらいのスピードであればモンスターに追いつかれることもなければ突き放すこともない。
その後スピードを微調整し、モンスターの進行速度よりやや速い速度でひた走りモンスターが俺に追いついてくるのを待つ。
モンスターの中で最も走力があるのはこの森を縄張りとするベルデウルフ、次いでベルデゴブリン、最後にグリズリーベアーの順だ。
他にも見た事のないモンスターがちらほらといるが基本的にはベアーより早くゴブリンよりも鈍足というのが見た感想だった。
そんな中で俺に一番早く接触するのは当然の事だがベルデウルフであるわけで――。
「ふっ、そこ!」
牙を剥き出しにして突進してきたウルフの攻撃を躱し、腹に剣を突き立て素早く引き抜く。
その後体勢を立て直し、補正のかかった身体能力を駆使して再び距離を取る。
再びモンスターに追いつかせ攻撃を躱しカウンターで攻撃する。
単調な作業ではあるものの一歩間違えればフルボッコ必至なので気が抜けない。
その間にもモンスターを倒すことで経験値が加算されていく。
逃げる、躱す、攻撃する、そしてまた逃げる、そのサイクルを何度も何度も繰り返していき気付いたら。
『ジューゴ・フォレストの【剣士】がレベル20に上がりました。スキル【縮地】を獲得しました』
「うん、縮まる地?なんだそれ?」
獲得したスキルがどんなものなのか分からなかったのでぶっつけ本番で使ってみることにした。
地が縮まるという表記だったので間合いを詰める系のスキルだと思いとりあえずモンスターのいない逃走方向に向かってスキルを発動させる。
「うおっ!?」
すると感覚にして数メートルの距離をまるで瞬間移動をするかの如くの速さで移動した。
これこそまさに“地を縮める”と書いて縮地なのだろう。
「よしこれならいけるかもしれない……」
その後縮地を織り交ぜたヒット&アウェイ戦法をとりつつモンスターの数を確実に減らしていった結果。
『BUWHOOOOOOO』
「はいはい、お前で最後だな。とう!」
最後に残ったグリズリーベアーの眉間に剣を突き立て止めを刺す。
どれくらいの時間が経過していたのか定かではないが、日が傾きかけているのを鑑みるに数時間という長い間このなんとも神経をすり減らす作業をやっていたらしい。
体力は残り三割を切っており体もボロボロだ。
身に着けていた装備もところどころズタボロになっているし、あれだけ試行錯誤して作り出した鉄の剣も耐久値がゼロになりロストしてしまった。
幸い予備の鉄の剣を持っていたので丸腰になることはなかったが、今回はなんとか生き残ることができたようだ。
「最後まで死ななかった俺を褒めてやりたい」
途中何度か危ない場面があったものの、収納空間の肥やしになっていた下級ポーションを駆使しなんとか生き延びた。
俺は残り少ないポーションを取り出すとまるで酒を煽るようにぐびぐびと飲み干した。
三つ飲み干したところで体力が全回復したが同時にポーションの在庫も底をつく。
ほとんどの装備をこの戦いで使い果たしたが、それだけ見合う成果があった。
「ん? レベルアップか?」
いつものあの珍妙な効果音と同時にウインドウが展開されたが、今回表示されたのはレベルアップ告知ではなかった。
『ジューゴ・フォレストが所持している全ての職業レベルが20を超えたため新たな職業を選択できるようになりました。以下の中から好きな職業を選択してください』
「ぶふーー」
俺は驚きのあまり吹き出してしまう。
このタイミングで新たな職業選択ができるようになるとは思わなかったのでしょうがないと言えばしょうがないのだろうが、周りに人がいなくてよかったと思ってしまった。
「四つ目の職業か……」
さてどうしたものか、ここで新たな職業を獲得することで今後の活動も随分と楽になるが問題はどの職業を選ぶかだ。
ちなみに選択できる職業は基本的に最初に選択可能な職業だけのようでRPGでよくある上位の職業はないようだ。
それでも追加で職業を得られるのは素晴らしい事なのでその点に関しては不満は一切なかった。
「回復魔法が得意な僧侶や治療師もいいし、生産職の木工職人や皮職人も捨てがたい。くそー、ここにきて俺のプレイスタイルが仇になっているじゃないか!」
俺がどの職業を選択するか悩んでいると足元を小突かれる感触があったのでそこに視線を向けてみる、すると。
「クエー?」
「……」
そこにいたのは見た目が完全に鳥のモンスターが小首を傾げてこちらを見ていた。
※今回の活動によるステータスの変化
【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト
【取得職業】
【剣士レベル20】 パラメーター上昇率 体力+131、力+83、物理防御+85、俊敏性+40、命中+33
【鍛冶職人レベル24】 パラメーター上昇率 体力+151、魔力+45、力+88、命中+24、賢さ+24、精神力+61、運+6
【料理人レベル22】 パラメーター上昇率 体力+121、魔力+75、力+50、命中+42、精神力+41
【各パラメーター】
HP (体力) 370 → 491
MP (魔力) 157 → 190
STR (力) 162 → 231(+25)
VIT (物理防御) 47 → 97(+21)
AGI (俊敏性) 30 → 49(+9)
DEX (命中) 72 → 107(+9)
INT (賢さ) 34
MND (精神力) 90 → 111
LUK (運) 26
スキル:時間短縮、鍛冶の心得、十文字斬り、身体能力向上、縮地
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