幕間「乙女たちのさえずりPart2」
ジューゴから紹介されたカエデとアカネという女性二人に会うためミーコは冒険者ギルドに向かっていた。
今までソロや野良パーティーに混ざって活動していた彼女だったが、一人でプレイするよりも仲間を作ってプレイしたほうがより安全で確実だと判断し今まで様々なパーティーを渡り歩いていた。
しかしどのパーティーも決め手に欠けていると感じ結局どこにも所属せず今もソロプレイを続行していた。
(今回はあのジューゴさんの紹介だもの、きっといい人たちに違いないわ)
人付き合いがあまり得意ではない彼女だったが、いつまでもそうは言っていられないと一念発起して自分から積極的に行動することを心がけようとしていた。
その第一歩として固定のパーティーに所属し仲間たちとこのFAOをプレイしようと考えたのだ。
冒険者ギルドに到着したミーコはすぐにカエデとアカネの姿を捉えるべく首を左右にフリフリと動かしながら彼女たちを探す。
すると受付カウンターにジューゴから教えてもらった彼女たちの特徴と合致する二人組の女性を発見する。
(きっとあの人たちだ。こっ、声を掛けなきゃ)
そう思い一歩足を踏み出したその時あり得ないことが起こる。
なんと彼女は何もないところで躓き顔面から床に着地してしまったのだ。
大きな音に周りの視線がミーコに集中する中一番近くにいたカエデたちが駆け寄ってくる。
「大丈夫かい? 物凄い音だったけど怪我はないかい?」
「おーい、生きてるかー?」
「ふぁ、ふぁい、しゅびばしぇん」
現実の世界だったらかなり痛いシュチュエーションだが、ゲームの世界だからか大きな音の割には大した怪我もダメージもなかった。
何もないところでコケてしまい羞恥心が込み上げてくるもそれをぐっと押さえ込み二人に話しかける。
「は、初めまして。わ、わたしの名前はミーコと言います。ジューゴさんの紹介で二人に会いに来ました。わたしを二人のパーティーに入れてください!」
「え? ジューゴ君が私たちを?」
「ふ、ふーんアイツがね……」
そこで一瞬沈黙がその場を支配するもとりあえず立ち話もなんだからとギルド内に設置されているテーブルと椅子がある場所に移動する。
数脚の椅子が置かれた丸テーブルの一つに三人とも座ったが依然として三人の間に気まずい雰囲気が流れていた。
何とも居たたまれない居心地の悪い雰囲気だったがその沈黙を破ったのは意外な人物だった。
「それで、ミーコちゃんはジューゴとどんな関係なの?」
「え? 関係……ですか?」
この時ミーコは“なぜそんなことを聞くのだろう?”という心境だったが筆舌に尽くしがたい彼女の真剣な眼差しで彼女は瞬時に理解する。
(この人もジューゴさんの事を?)
そう理解するのが早いか牽制の意味も込めこちらの手の内を悟らせないよう慎重に言葉を選んで返答した。
「そうですね、まだ知り合ってそれほど時間が経ってはいませんがいろいろと仲良くさせてもらってますよ」
「そ、それはどういう意味なのかな?」
明らかに動揺した態度でアカネの語気が少し荒くなる。
その態度で自分の推測が正しいものだと悟ったミーコは逆に向こうの手札を探るべく打って出る。
「ご想像にお任せしますよ。ところであなたはジューゴさんとどんな関係なのですか?」
「うぇっ!? あた、あたしは別に……その……」
彼女の初心な態度に心の中でニヤリと口端を歪めたミーコはさらに追撃を加えようとするも、それはもう一人の人間によって阻止されてしまう。
「そんなことよりもまずは自己紹介をしようじゃないか、私はカエデだ」
「あ、ああそうだな。あたしはアカネ、このカエデとは親友でいつも一緒に行動してるんだ」
「先ほども言いましたが、ミーコです。見ての通り中学生です」
「中学生だって?」
そうアカネが怪訝な表情を浮かべると改めてミーコの全身を頭の先から足の先まで値踏みするように視線を巡らせる。
太陽のように輝くブロンドの金髪に栗色の瞳、顔立ちも整っており何とも愛くるしい。
そして何よりも中学生にしては不相応な胸部の膨らみは同性であるアカネから見ても大きくて雌としての色香を放っていた。
(マジかよ、今どきの中学生ってのはここまで発育がいいもんなのか?)
アカネの女としての本能がミーコの脅威を感じ取っていた。
彼女の性格上こういう人の心の機微に関して無頓着なイメージなのだが、こと恋愛という分野においては如何なくその能力を発揮する。
自分の恋愛に関してはからっきしだが、こう見えて人から恋愛相談されることが多く何十組というカップルを成立させてきた恋のキューピットなのだ。
ジューゴとの関係を追及したいアカネだったが、今はミーコのパーティー加入についての話し合いを優先し話題をその話に持っていくことにした。
「あたしらのパーティーに入りたいってことだけど、なぜ今になってパーティーに入りたいと思ったの?」
「今までずっとソロとか野良パーティーとかに混じって活動してたんですけど、一人ではさすがに厳しい面もあるのでここからはどこか決まったパーティーに所属したほうが安全面でも効率面でもいいと考えたんです」
「なるほどそんな時にジューゴ君から私たちを紹介されたと」
「はい」
ミーコから事の経緯を聞いた二人はお互いに顔を見合わせどうするか悩んだが、すぐに二人の間で結論は出ることになる。
そして緊張の面持ちで身構える彼女にカエデが代表して二人の出した結論を話し始める。
「私もアカネも君がパーティーに入ることに問題はない。むしろこちらとしてもこれからの事を考えれば仲間を増やすべきだと思っていたところだ。というわけで歓迎するよミーコ君」
「そっそうですか。断られると思っていたのでよかったです」
「まあそれはそれとしてだ……」
ミーコのパーティー加入が決まったところで次の話題とばかりにアカネが反撃に出た。
「ジューゴとどこで知り合ったのか聞かせてもらってもいいかい?」
「……答える必要ないと思うんですけど?」
「……」
「……」
そこでまたしても空気が一変し重苦しい雰囲気を漂わせる。
そのあまりの雰囲気に近くを歩いていたプレイヤーたちが自然と足早に立ち去っていく。
それではご覧いただこう、ここから見苦しい女と女の戦いが繰り広げられる。
「いいから答えるんだこのおっぱい中学生!」
「なんですかその子供みたいな言い方は大体あなたの方が大きいじゃないですか!」
「ああそうかいそうかい、じゃあ今日からお前は【パイ子】だ。わかったなパイ子」
「むー、別に大きくなりたくてなったんじゃないもん!」
ガキの喧嘩とはまさにこのことだ。
おっぱいのデカい女同士が相手のおっぱいのことで罵り合っている。
胸の小さな女性がこの場にいたら殺意を覚えることだろう。胸の小さな女性がいたら……。
「二人とも私の前で胸の大きさについて話すなんていい度胸をしている……これは一度立場を理解させる必要があるようだな……」
「あっ、いや、カエデ、ち、違うんだっ! パイ子がジューゴのことを教えてくれないからっ!」
「そ、そうですよ。大体わたしよりも大きいのにそんなことを言ってくるなんてわたしよりも子供じゃないですか!」
「問答無用!」
「「ぎゃああああ!!」」
その後カエデによる折檻が加えられたが、具体的にどんなことをされたのかはここでは語るのはやめておこう。
アカネは元から知っていたがミーコはこの時理解することになったのだ。
カエデの前で胸の話をしてはならないと。
「まったく、これからパーティー仲間としてやっていくって時に小さなことでケンカをするんじゃない」
「「すみません……」」
あの後カエデ先生から少しばかりの説教を食らった後、アカネとミーコの喧嘩は収まった。
だがふとアカネの頭の中に一つの疑問が浮かんだので彼女はカエデに問いかけてみた。
「あのさカエデ、カエデが胸のことで怒るのは長い付き合いだから知ってるけどさ、ジューゴがあたしを変な呼び方で呼んだとき怒らなかったよね?なんで怒らなかったんだ?」
「そ、それは……」
「へえーどんな呼び方なんですか?」
「答える必要はない」
「【おっぱいオバケ】だ」
「あはははははははは」
「カエデぇぇぇぇえぇぇええええ!!」
女三人寄れば姦しいとよく言うが、まさに今の状況はそれだった。
お腹を押さえて笑い転げるミーコ、自分の恥ずかしいあだ名をバラされて怒るアカネ、親友の恥ずかしい呼ばれ方を公表するも悪びれた様子のないカエデ。
三者三様それぞれがそれぞれ感情をさらけ出すと、アカネがミーコに釘を刺す。
「いいかパイ子、あたしのことをさっきの呼び方で呼ぶんじゃないぞ」
「なんですか? おっぱいオバケさん?」
「貴様ぁぁぁぁ、呼ぶなと言っておるだろうが!」
「じゃあわたしのことも普通に名前で呼んでください。そうしたら呼びません。大体おっぱいオバケって何なんですか?150文字以内で説明してくださいよ!」
「なんで文字数制限があるんだよ!」
「おっぱいオバケとは――」
「説明すんのかい!!」
「黙って聞け。おっぱいオバケとは機動〇士ガ〇ダムZ〇に登場するキ〇ラ・〇ーンへの軽口が元ネタとされる胸の大きな女性を蔑むときに使われる蔑称とされてきたが最近は巨乳愛好家から、「だがそれがいい」という意味合いの愛称にされていたりもする。ちなみに大抵の場合この呼び方を使うのは胸の小さな女性の場合が多い。こんなとこかな」
「「……」」
冗談のつもりで言ったミーコだったがまさか本当に150文字以内で簡潔に説明されるとは思っていなかったため何とも言えない表情を浮かべる。
それはアカネも同様だったようで二人して同じ顔を浮かべていたことに声を出してカエデは笑っていた。
そのようなことがあったが新たにパーティーメンバーとしておっぱい中学生あるいはパイ子ことミーコがカエデたちのパーティーに加わることになった。
当然ではあるが三人の間でこのようなやり取りがあったことはジューゴの預かり知らぬことであったのだった。
【作者のあとがき】
お疲れ様です。こばやん2号です。
このシリーズも第四章まで進みとりあえず基本的なイベントは消化した感があるのですがそれよりも気になることがあります。
最近小説家になろうやアルファポリスのブックマーク登録数やお気に入り登録人数が増え感想コメントをしてくれるユーザが増えました。
それは喜ばしい事なのですが、いろいろなご意見やご指摘が寄せられる度にこう思ってしまいます。
“好きなように書かせてくださいよ!!”と。
プロの漫画家や小説家はこんな感想や意見を何千何万と貰っているのだろうなと考えるとやっぱりプロってすげえなと思いました。
これからも不満や矛盾点など納得のいかないことや疑問に思う点は多々多々あるとは思いますが素人の作品ですのでそこはご理解とご了承ならびに自己責任をもってご愛読いただきますよう謹んでお願い申し上げます。
少々長文で申し訳ありませんでしたが、これをもって作者のあとがきとさせていただきます。
次回第五章はどうなってしまうのか? どうなるのかって? それは……秘密です。では、また。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます