第20話



 コレリアンナさんと別れた俺は工房に向かっていた。

 次の目的は何を隠そう、『鍛冶』だ。

 剣士、料理人のレベルは上げたが、まだ上げていない職業である鍛冶職人、これを体験するためである。

 加えてギルドを後にする際コレリアンナさんから忠告があったのだ。

 “ジューゴ様が使ってらっしゃるその剣、もうそろそろ壊れそうですよ”と。



 逆に今まで無事だったのが不思議なくらいだった。やっぱりあるんだそういうの。

 ていうか今思えばよく木の剣でオラクタリアホッグ倒せたな。



 詳しく話を聞くとどうやら武器や防具には耐久値が存在しているが普通に見ることはできない。

 彼女のように鑑定スキルを修得するかそれに準ずる職業に就いていなければ見ることはできないらしい。

 その中の一つに俺が就いている『鍛冶職人』があったが、どうやらレベル不足により表示されていないようだ。

 とにかく剣がこれ以上使えないため鍛冶のレベルを上げて修復するか、新たに武器を作るしかない。



 工房に到着しすぐに親方に鍛冶を教えて欲しい旨を伝える。

 すると料理の一件で気に入られたようで快く教えてくれることとなった。

 人生初の鍛冶なのでどんなものなのか楽しみだ。



「とりあえず、これをやってみな」


「これは?」



 親方が出してきたのはゲームなんかでよくある金属を台形の形に固めた俗に言うインゴットだった。

 よく見れば部下の人たちがマグマの様に赤く熱せられた液体を金型に流し込む作業をしていた。

 その工程で精製されてできたのがどうやらこのインゴットのようだ。

 親方曰く地金とも呼ばれるインゴットは金属を決まった数量で管理するために作られるもので

作るものによっては複数個の地金を使用したりするらしい。



「まあ最初から小難しいことをしろって言われても困るだろうから、今日はこれをひたすらハンマーで叩きな。慣れてきたら次の工程を教えっから」



 それだけ伝えると後はご自由にと言わんばかりに自分の持ち場へと引っ込んでいく。

 それだけですか?もっとこう手本とかを見せるという分かり易いものはないのでしょうか?

 遠くなっていく背中に視線で投げかけてみるも思い届かず、仕事場に戻っていく親方。

 職人気質の人ってどうしてこう説明下手なのだろうと改めて思い知らされる。



「まあ、とにかくやってみっか」



 そう言いつつ俺は親方に作ってもらったハンマーを取り出し早速叩いてみることにした。

 だがどうしたらいいのか分からないため結局は部下の人に聞いてみることに。

 先ほどの親方とのやり取りを見ていた部下の一人が苦笑いを浮かべて「あの説明で理解出来たら神っすよ」と肩を竦めながらやり方を教えてくれた。

 


 コークス炉と呼ばれるぱっと見七輪のような形状をした場所にインゴットを入れ熱を加える。

 炉には石炭がくべられており赤々と燃えている様は見ただけで高温だと理解できる。

 一定の熱が加わったところで、火傷をしないよう皮の手袋をして鍛冶道具セットの一つである鋏(はさみ)で挟んで金床に持っていく。

 そのまま鋏でインゴットを固定した状態にしハンマーを使って形状を叩いて変えていくというのが口と動作で教えてもらった内容だ。



 いよいよ鍛冶仕事開始なわけだが、流石に工房は鉄などを熔解しているためかなり室温が高い。

 俺は着込んでいた外套を脱ぎ収納すると早速作業を開始した。



 作業と言ってもただ当てもなくトンテンカンと鉄を叩いているだけなのでここから何かが生まれることはない。

 ただ工房内の温度の高さとハンマーで叩く度に重い手ごたえが体に伝わり、十数発もしないうちに手が痺れてきてしまった。

 なるほどこれを簡単にできるようにならないと確かに次の工程をするにしたってままならないだろう。



 俺は親方の言っていた意味を理解するとひたすら鉄を叩いて修練を積んだ。

 そのお陰もあってぐんぐん鍛冶職人のレベルが上がっていき鉄を叩き始めてから一時間でレベル6まで上昇した。

 レベル6に上がったところで夜になったため、休憩も兼ねて親方に一言断り一旦ログアウトするため宿に直行する。

 あの無駄にたくましい体つきの店主の宿で部屋を取ってログアウトする。



 現実世界に戻ると昼前になっていたため少しソファーで寛いだ後昼食の準備に取り掛かる。

 食べ終わると食器を片付け、他の家事を済ませた後再びFAOの世界へ。

 宿から工房に舞い戻ると、再びハンマー片手にトンテンカン。

 コークス炉の火が弱まると新たに石炭を加えてトンテンカン。

 今日も今日とて鍛冶仕事、額に汗を流してトンテンカン。



 その後もただただひたすらに鉄を打ち続け鍛冶職人のレベルも順調に上がっていく。

 レベルが8になった時新たに【鍛冶の心得】なるスキルを獲得したのですぐさま詳細を確認する。




 【鍛冶の心得】



 金属加工の工程にかかる負担が軽減されやり易くなる。

 また加工の難しい金属を扱う際にも加工の難易度が優遇される。




 ほうほう、どうやらある程度の修練を積んできたおかげで一定のレベルまで上がったと判断してもよさそうだ。

 試しに鉄を叩いてみると最初の頃とは比べ物にならないほど鉄を扱うのが楽になっていた。



「どうやら大分慣れてきたみてぇだな兄ちゃん。これなら次の工程に行っても大丈夫そうだ」


「次は何をするんです?」



 鍛冶の心得を覚えたタイミングで親方の合格がもらえたため次の工程に移ることにする。

 次はなんと親方と一緒になって鉄を打つようで親方が先ほどまで打っていた鉄を一緒になって俺も打つ。

 作業に入る前になぜか部下の人たちがざわめいていたのが気になったが後になって理由を知った。

 どうやら親方は一人で鍛冶をすることが殆どらしく誰かと一緒に作業をすることが滅多にないそうだ。



 理由としては自分の技術に付いて来れる人間がいないかららしいが、俺はいいのだろうか?

 そんなことを考えていると親方の気合の入った声が工房内に響き渡る。



「いくぞ兄ちゃん、ちゃんとついて来いよおー!!」


「よろしくお願いします!」



 そうしてしばらく親方と一緒に鉄を叩き続けたが、結果としてはボロボロだった。

 親方からはここが駄目だのもっとこういう風に打てだのメッタメタにされてしまった。

 打っているのは鉄なのに俺まで親方にハンマーで叩かれている気分になった。



 それでも習うより慣れろとはよく言ったもので、徐々にではあるが親方の怒鳴り声の回数が減り

最終的には阿吽の呼吸で親方がどこを打って欲しいのかどういう風に打てばいいのかが的確にできるようになった。

 親方が怒鳴らないで誰かと鉄を叩いているのが珍しいのか、部下の人たちが手を止め俺たちの作業を見ていた。

 途中それに気づいた親方が怒鳴ったのは言うまでもないことだろう。



「おし、一旦休憩だ」


「は、はい……」



 どれだけの時間が経過したのか時計を見ると二時間が経過していた。

 再ログインして朝から作業を再開したが、今はもう昼過ぎになっていた。

 人は集中すると時間の経過が早く感じると言われているが、まさにそうだと思った。



 ちなみにこの時すでに鍛冶職人のレベルは11にまで上がっていた。

 最初から飛ばし過ぎではないかとも思ったが、まあさくさくレベルが上がるのは最初だけだろうと思い

頭に浮かんだ考えを黙殺した。その時ふいに親方が話しかけてくる。



「なあ兄ちゃん、もしよかったら俺の弟子になんねえか?」


「はい? どういうことですか?」


「兄ちゃんには鍛冶の才能がある。俺んとこで鍛冶を徹底的に学べばかなりの職人になれると思うんだがどうでい? 別に強制するつもりはねえから考えておいてくれねえか?」


「は、はあー」



 なんかスカウトされてしまった。そんなによかったのだろうか?

 俺は鍛冶に関しては知識もなければ経験もない。

 というよりもこの工房に来るまで鍛冶の具体的な内容なんて全く知らなかった。

 そんな素人に毛の生えたような、というよりも完全ド素人丸出しの俺がプロである親方のお眼鏡にかなうとはこれ如何に?



 休憩後も同じように親方と打ち続けたが、その後は細かい指示を出すだけで終始無言で打っていた。

 飛ばし過ぎと思われたレベルの上昇も二桁に突入したこともあってその後は1しか上がらなかった。

 その日の作業はそれで終了し宿に戻って一夜を明かした。



 ゲームの中での朝が訪れ、工房へと直行する。

 今日も親方と一緒に打つのかと思ったのだが、意外にも親方は一人で打つように指示した。

 その理由はすぐに判明する。



「兄ちゃんの腰に下げてる剣もう耐久値がねえだろ? 材質も木でできてっから修復するよりも鉄に材質を変えて新しく打ち直した方がいい。せっかく鍛冶の職に就いてんだ、自分の得物くれえ自分で作ってみてえだろ? 材料はうちのを使って構わねえからやってみろ」



 どうやら親方も俺の剣の耐久値がわかるようでそんなことを言い出してきた。

 俺も鍛冶職人のレベルが12になったんだからと確認して見たが、まだ表示されてはいなかった。

 てか耐久値の確認にどんだけレベルが必要なんだよ。



 親方の厚意を素直に受けることとした。

 まずはどういった物を作るか考えるためしばらく考えを巡らすことにした。





※今回の活動によるステータスの変化



 【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト



 【取得職業】 【剣士レベル4】

 

        パラメーター上昇率 体力+26、力+11、物理防御+14、俊敏性+8、命中+9



        【鍛冶職人レベル12】


        パラメーター上昇率 体力+61、魔力+10、力+25、命中+6、賢さ+8、精神力+20、運+3



        【料理人レベル5】


        パラメーター上昇率 体力+30、魔力+15、力+9、命中+9、精神力+7


        


 【各パラメーター】

 HP (体力)   144 → 205

 MP (魔力)    85 → 95

 STR (力)     30 → 55(+7)

 VIT (物理防御)  26(+21)

 AGI (俊敏性)   17(+9)

 DEX (命中)    26 → 32(+9) 

 INT (賢さ)    10 → 18

 MND (精神力)  17 → 37

 LUK (運)     20 → 23



 スキル:時間短縮、鍛冶の心得

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