第19話
「さて、薬草採取と洒落込みますか」
ミーコちゃんと別れた俺は現在大草原の西側にある小高い丘を目指していた。
目的は言わずもがな薬草を採取するためだ。
前回のログインで作ったオラクタリアピッグのハーブステーキに使う【香草ハーブ】が底を突いてしまったためそれの補充と何か珍しい薬草がないかという探求心から俺は丘へと向かっていた。
言っておくが、ゲッケイジュを見つけるためじゃないんだからね。
丘に向かう道すがら俺はミーコちゃんを襲っていたオラクタリアホッグから獲得した素材を確認してみることにする。
実際に手に入れたアイテムは三種類だ。俺は収納空間から現物を取り出してよく観察してみる。
一つ目は……何これ、白い石かな?石にしては軽いな、何だろう?
二つ目は……うん、これは分かる。皮だな、劣等種のピッグよりも張りがあって丈夫そうだ。
三つ目は……これも石だな。でもキラキラしてて女の子にあげたら喜ばれそうだ。
とまあ観察してみたものの、詳細が不明のため皮以外は皆目見当もつかなかった。
え、じゃあなんで観察したのかって?それは簡単だ。俺が見たかったからだ、うん。
とにかくそれ以上の情報は詳細を見ることにしようじゃないか。てことで詳細はこちら。
【オラクタリアホッグの蹄(ひづめ)】
オラクタリア大草原に稀(まれ)に出没するモンスター【オラクタリアホッグ】から取れる蹄。
ピッグの蹄とは異なり、硬く強靭なため武具の細部に使われることが多い。
だがホッグ自体の出現率が低いためなかなか入手することが難しい。
【オラクタリアホッグの皮】
オラクタリア大草原に稀に出没するモンスター【オラクタリアホッグ】から取れる皮。
ピッグの皮とは異なり、丈夫であるため防具に加工すればかなりの性能を発揮する。
だがホッグ自体の出現率が低いためなかなか入手することが難しい。
【魔結晶 (小)】
モンスターの体内から稀に見つかることがある魔力を帯びた石。
錬金術の素材や薬の材料、武具の装備等々使用用途は多岐にわたる。
この結晶を利用して作られた品は例に違わず高性能となるため素材としての価値はかなり高い。
なるほど白い石は蹄か。武具の細部に使われるってあるけどどこに使うんだろう。
街に帰ったら親方にでも聞いてみるかな。
次に予想通り皮は皮だったな。てか蹄とテキストの感じが似てるじゃないか。運営めこういうところでサボってやがるな。
いや、蹄か皮の片方しか手に入らなかった時の事を考えての配慮なのだろう。そうに違いない。
さあ問題は最後のアイテムだ。
なんだか物凄いレアアイテム感漂う雰囲気を持っているというのが第一印象だ。
使い道が多く尚且つできたものは高性能ってそれかなりすごくね?
これはコレリアンナさんに鑑定してもらった方がいいかもな、うん。
「とりあえず豚の戦利品はこれくらいにして丘に行くか」
俺は手に入れたアイテムを全て収納空間へと戻すと、丘に向かって駆け出した。
十数分後丘に到着すると例の如く先客のプレイヤーがいたがなんだか様子が変だ。
いつもは一定の間隔でプレイヤーが単独で採取をしているのだが、どうやらパーティーで固まって採取をしているように見受けた。
しかもそれが数組ほどいたためどういうことかと首を傾げる。
不可解とは思いつつここに来た目的を遂げるため前回のように地面に視線を向け薬草を探そうとしたのだが――。
「おい、アイツだ」
「間違いないのか?」
「ああ、あの時ギルドにいた奴だ」
そんな会話が聞こえてくるとこちらに近寄ってくる数人の足跡が聞こえ、俺のすぐ後ろで足音がピタリと止んだ。
そして、その中の一人が俺に声を掛けてきた。
「薬草採取をしているところすまないが、いいだろうか?」
「俺に何か用ですか?」
「実はここに高価な薬草が自生しているという情報を聞いて来たのだが、見つからなくてな何か知っていたら教えて欲しい」
相手の顔色を察するに俺がゲッケイジュを納品したプレイヤーだと察しているのだろう。
その俺からそれとなしに情報を手に入れようと近づいてきたといったところか。
だが、あれはたまたま見つけたものだしコレリアンナさんも滅多に見つからないとか言ってたからいくら探したところで簡単に見つからないと思うんだけどな。
「どうやらゲッケイジュを探しているようですが、あれは滅多に発見されることがないので探しても見つかりませんよ?」
「アンタは見つけたんだろ? どうやって見つけたんだ?」
おそらく俺が薬草を換金しているところに居合わせたプレイヤーであろう男が俺へ問い詰めてくる。
別に隠すほどのこともないので包み隠さず正直に話してやることにした。
「テキトーに野草を詰んでいたらその中の一つがたまたま当たりだったってだけだ。特別なことをしてたわけじゃない。まあとりあえずたくさん採取してギルドで鑑定してもらえばいいんじゃないか? そうすりゃ当たりが入ってる確率も高くなるんじゃないのか?」
そうアドバイスすると、全員が顔を顰(しか)めたが俺が嘘を言っていないことはわかったらしく「邪魔してすまなかったな」と言って俺から離れていった。
そんなに簡単に手に入る方法があるならこっちが教えて欲しいっての、まったく。
そんなことを心の中で呟きつつ俺はしばらく薬草採取に勤しんだ。
三十分ほど採取をした俺は一定量の野草が取れたのでギルドで鑑定を受けるため街に戻ることにした。
ちなみに手に入れた未鑑定の野草は二回目の採取とあって五十本近く入手できた。
香草ハーブも八本ほど見つけることができたので今回の採取はこれで切り上げ街へと帰還した。
街に戻った俺はすぐにギルドへと直行する。
クエスト達成の報告をし報酬金を受け取ったあとすぐに薬草鑑定を依頼したのだが、そのことを伝えるとなぜかギルド職員たちがざわめき始めた。
どうやら俺がゲッケイジュを発見した人物だということがギルド内で知れ渡っているようでその俺が薬草鑑定を依頼するという事でかなり注目されていた。
担当してくれたのは俺の中でお馴染みのコレリアンナさんだった。
「まあジューゴ様、今回は薬草鑑定を依頼されたとの事ですが早速ゲッケイ――いや鑑定させていただきます」
今絶対ゲッケイジュって言いましたよね? 言いましたよね、アナタ?
勘違いしないで欲しいが俺は別にゲッケイジュを見つける名人ではないのだ。
なぜか彼女の中ではそうなっているらしく、今も目がゲッケイジュになっていた。
「あの、コレリアンナさん? ゲッケイジュはないですよ? アナタも言ってたじゃないですか、ゲッケイジュは半年に一度見つけられればいい方だと」
「えっ、あっ、も、申し訳ありません。ジューゴ様ならしれっと見つけてくるような気がしてちょっと期待してしまいました」
そう言って、苦笑いを浮かべながら笑い掛けてくるコレリアンナさん。あら可愛い。
俺は心の中でそう思いながら収納空間から野草を取り出し鑑定を依頼した。
オラクタリアホッグの素材は今後のために取っておくことにしたので鑑定には出さなかった。
コレリアンナさんの期待には添えず、野草は半分近くが雑草で普通の薬草が十三本、解毒効果のある薬草が十本という結果だった。それらを売却し、合計で890ウェンの儲けとなった。
他の職員の人たちも残念そうな色を顔に浮かべながら自分の仕事に戻っていった。
いやだから、ゲッケイジュってそんな簡単に見つからないんでしょ? まったく、俺に何を期待しているのやら。
とりあえずギルドでの用事はこれで済んだので、このまま工房に行こうかと思ったがまだあれの鑑定が残っている事を思い出したので収納空間からあるアイテムを取り出すとコレリアンナさんに差し出した。
「ジューゴ様、これは?」
「大草原でモンスターを倒した時に入手したのですが、どんなものか分からなくて。一応見てもらってもいいでしょうか?」
そう言いながら鑑定の依頼をしたのだが、もうすでにこの時点でコレリアンナさんが俺に飛び掛かって来ていた。
そしてゲッケイジュの時と同じく、俺の胸倉を掴むと前後に揺らし始める。
「まったくあなたという人は、またですか! またなんですかぁーー!!」
「ちょ、ちょっと、これ、コレリアンナさん、ゆら、揺らさないでくだ、ください!」
「なんであなたがこれを持ってるんですか! 吐け、吐きなさい!!」
「だからモンスターから手に入れたって言ったでしょう!!」
その後騒ぎを聞きつけた他のギルド職員の手によってコレリアンナさんは引き剥がされた。
それから彼女が落ち着くまで時間を置いた後、取り乱してしまったことを謝罪した彼女の口からこの石の説明を受けた。
コレリアンナさん曰く、モンスターの体内で稀に生成される高密度の魔力が込められた石で【魔石】とも呼ばれるそうだ。
「この魔結晶の凄さはあらゆる分野の素材として使用が可能で、魔結晶で作られた完成品全てが高性能の逸品になるというところなんです。魔法薬なら最上級のものに防具なら魔力を帯びた魔法の防具に剣なら魔力を発する魔剣になり、ありとあらゆる分野で遺憾無く能力を発揮する事でしょう!」
「は、はぁー」
熱く語っているところ申し訳ないのだが、俺的にはそういうのは別にどうでも良かったりする。
それよりも問題は値段だ。彼女の口ぶりからも察しがつく通りかなりのレアアイテムのため相当高いはずだ。
俺ははやる気持ちを抑えながら彼女に問いかけた。
「それでコレリアンナさん、この魔結晶っていくらするんですk――」
「70000ウェンですね」
かなり食い気味に言われてしまったが、ちょっと待て70000ウェン……だと。
嘘だろ。こんな道端に落ちてそうなちょっと綺麗な小石みたいなもんが70000ウェン?
ゲッケイジュの時も思ったが、この世界の物の価値はどこか間違っている気がする。
「こんな小さいものがそんなにするんですか?」
「人によっては先ほどの金額の三倍出す人もいます」
「マジかよ」
「マジです」
ただの小石だぞ?何度も言って申し訳ないが“ただの小石だぞ”――。
まあそれほどの価値があるという事でここは理解をしておくことにしよう。納得はしていないがな。
コレリアンナさんを見るとカウンターに置いていた小石、もとい魔結晶を手に取り様々な角度で舐めるように観察していた。鬼気迫る雰囲気に俺は一瞬声を掛けるのを躊躇ってしまう。
俺の視線に気づいたコレリアンナさんが咳ばらいをすると「どうしますか?」と尋ねてきた。
たぶん売却の是非を問うているのだろう。しばらく思案したのち俺は彼女が手に持っていた魔結晶を取り上げかざして見てみた。
キラキラと光り輝く石はまるで綺麗なガラス玉を思わせるのだが、価値としてはそれの数百倍以上の価値がある。
俺はひとしきり魔結晶の輝きを楽しんだあとコレリアンナさんに視線を向ける。
「これは持っておくことにします」
「そうですか……残念ですが、仕方ありませんね」
本当に残念な表情を浮かべる彼女だったが、俺は気にせず続きを話し始める。
「コレリアンナさん、俺はこの世界で色々なことに挑戦したいと思ってるんです。剣士として強くなること、料理人として料理を極めること、鍛冶職人としていいものを作り上げること。この先も俺の知らない多くのものに出会うことがあるでしょう。この魔結晶もそのうちの一つだと俺は思います。俺が何かいいものを作りたいと思った時将来きっとこいつが必要になる時が来る、そんな気がするんです。だから今は売らずに持っておくことにします。いつかやってくる必要な時に備えて」
「……」
そう言い終わると俺は自分の掌にある小さな石に視線を落とす。
ころころと手の中で転がる石がキラリと光った気がした。
さっきからコレリアンナさんが俺の言葉に反応しないので視線を向けると俺と目が合う。
だがそのまま俺を見つめたままなにもリアクションを取らなかったので不審に思って問いかけた。
「あ、あのーどうかしましたか?」
「ふぇ? あ、ああ、すみません、少しぼーっとしていました」
その時彼女は心の中でこう呟いていた。
(言えるわけないじゃないですか、アナタに見惚れていたなんて……)
この時コレリアンナの中でジューゴ・フォレストという存在が特別な物へと変わった瞬間だった。
だがその事に彼女が気付くのはもう少し先のことである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます