第三章 トンテンカンと知れ渡るジューゴの名
第18話
『ジューゴ・フォレストの【剣士】がレベル3に上がりました』
いきなり剣士レベルが上がったことに驚いた人もいるだろうが、俺は今【オラクタリア大草原】にいる。
前回ログアウトした俺はそのまま晩飯を食べた後、風呂に入ってそのまま就寝した。
翌日の午前八時に起床した後、朝食を食べ再びFAOの世界へと舞い戻ってきた。
ログイン後泊まっていた宿を後にした俺はまず冒険者ギルドへと足を運んだ。
丁度FAOも朝だったらしく、プレイヤーやNPCが途切れることなく大通りを歩いている。
道すがらの露店や街の風景を眺めながらゆっくりとした歩調で歩きながらギルドに到着する。
ギルド内もまたクエストに出かけるプレイヤーでひしめき合っており、喧騒がその場を支配する。
朝の時間帯というのも理由だろうが、ギルドの職員が忙しそうに忙しなく動き回っていた。
俺はクエストボードから前回受けたクエスト【モンスターを討伐せよ】というクエストが書かれた用紙を受付カウンターに持っていく。
「クエスト承りました。お気を付けていってらっしゃいませ~」
クエストの受付カウンターが多少込み合っていたものの問題なくクエストは受理されたのでそのままギルトを後にし、クエストに出かけた。
ちなみに担当してくれたのはコレリアンナさんではなく別の女性職員で眼鏡がよく似合うショートヘアーの女性だった。
そのまま街の外へと繰り出すとオラクタリア大草原を突き進んでゆく。
今回は最初の時と比べるとプレイヤーの数は減っていた。
そのためチャットや公式サイトの攻略掲示板を確認したのだが、どうやら最前線の攻略組は次の街に到達し、現在街の探索をしている様だった。配信開始二日目にして次の街とはかなりハイペースなのではないか?
それが理由でプレイヤーの数が当初よりも減ってはいたもののまだまだ人気の狩場は人が多い。
そのため俺は邪魔にならないように大草原の隅っこまで移動することにした。
移動後周りにプレイヤーが少ないエリアへと移動した俺は早速モンスターと戦うことにした。
オラクタリア大草原に出現するモンスターは情報ではオラクタリアピッグの他にオラクタリアスライム、オラクタリアウィーゼルが主なモンスターであとたまに出現するのがオラクタリアピッグの上位種であるオラクタリアホッグというモンスターらしい。
豚にスライムにイタチか。ホントに基本的なRPGに出てくる雑魚キャラしかいないようだ。
レアモンスター的な位置づけのオラクタリアホッグの強さが気になるところではあるが最初のフィールドなのでそれほど脅威ではないだろう。
「うし、じゃあやるか!」
俺は気合を入れるとモンスター討伐を開始した。
最初に現れたのは前回戦ったことのあるオラクタリアピッグだった。
前回とは違い単体でいたため忍び足で近づくと不意打ちでそのまま倒した。
剣士としてそれでいいのかとも考えたが、馬鹿みたいに「やい、そこの豚俺と勝負しろ!」などと正々堂々戦うのもなんだかなと思うのでここは気にしないでおこう。どんな手を使おうが勝てばいいのだ勝てば。
その後、ウィーゼル二匹とピッグ三匹の群れに遭遇したが、不意打ちでピッグを瞬殺し慌てふためいている残りの二匹は縦斬りと横切りで仕留めた。
そのタイミングで剣士のレベルアップ告知がされたのであった。
その後も順調に狩りが続き、追加でスライムとウィーゼルが四匹ずつ、ピッグは三匹狩った。
それにより剣士のレベルがさらに上がって、現在レベル4になっている。
前回のログインで鍛えた料理人のステータス補正が地味に活躍しており、簡単にモンスターを倒すことができた。
これはなかなかいいシステムだな。これなら他の職業のレベルを上げることでステータスの底上げができる。
なかなか調子のいい展開だったが、日が高くなってきたせいかプレイヤーの数が増え始めたので混雑を避けるためこれくらいにしてその場を後にした。
ちなみに手に入れた素材や食材はスライムからは粘液と核、ウィーゼルからは毛皮のみだった。
ピッグは肉と皮という前回と変わり映えしない戦利品だった。ちなみに具体的な数はこちら。
オラクタリアピッグの肉×20個
〃 の皮×15枚
オラクタリアスライムの粘液×6個
〃 の核×2個
オラクタリアウィーゼルの毛皮×9枚
ソロでの活動のためこの戦利品全てが自分のものになるかと思うと心がウキウキしてしまう。
我ながら子供だなと自嘲的な笑みをこぼしてしまった。いかんいかん大人になれ、俺。
と言いつつもこのFAOをプレイしている時点で大人かどうかは怪しいところだがそこはスルーした。
某ゲーム番組の課長だってゲームをしてるんだ。俺がやってもいいじゃないか。
とりあえずある程度の戦果は上げたので次に俺は西の小高い丘で薬草採取をしようとそこへ向かった。
だが順調な時に限ってトラブルというやつは舞い込んでくるものなんだなと改めて認識させられる事になる。
薬草採取に向かう途中、人気の少ない狩場を進んでいると突然女性の悲鳴が響き渡った。
「何だ一体、あっちか?」
そのまま無視していくのもなんだか薄情な気もしたので、悲鳴のした方へと駆け出した。
しばらくして見えてきたのが一人の女の子がモンスターの襲撃を受けているところだった。
このシュチュエーションってよく漫画やアニメに出てくるがまさか仮想現実で起こるとは。
おっとそんなことを考えていないでさっさと助けますか。
女の子を襲っていたモンスターは一匹でオラクタリアピッグの数倍の体躯を持ち、威圧感が増したそいつはまさにモンスターと言って差し支えない。
だが見た目は所詮アレなので、俺は気負うことなくそいつに向かって叫んだ。
「おい、そこの豚野郎。俺と勝負しろ!」
――BUMOOOOOOOOOOO!!!
獲物を狩る行為を邪魔されたことに怒り心頭のご様子で豚に相応しい咆哮を上げる。
予想通り名前表示は【オラクタリアホッグ】と表示されておりオラクタリア大草原に出現するレアモンスター的な位置にいるモンスターだ。
だが見た目は所詮豚なのであまり戦う気が起きないが、ピッグよりかはマシなので俺は腰の剣をゆっくりと引き抜き正眼に構える。
お互いの視線が交差し、どちらが先に仕掛けるかタイミングを計っているためその場が静寂で支配される。
「はあ!」
先に動いたのは俺だ。
そのままオラクタリアホッグに向かって一直線に走り込み一定の距離まで近づくと足の裏に力を入れそのまま地面を蹴って大跳躍をする。そこから剣を地面にいる奴に向けて振り下ろすように叩きつけた。
だがそんな攻撃を素直に貰ってくれるほど相手も馬鹿ではない、ピッグとは比べ物にならないほどの動きで躱され俺の先制は失敗に終わる。
となれば次は奴の番だ。
そのまま俺の攻撃を躱したホッグは地面に着地した俺に向かってカウンターの突進攻撃を繰り出す。
地面に着地する体勢となっていたため、攻撃を躱すことができなかった俺は突進の直撃を受ける。
「ぐはっ」
体に衝撃が走ったと思ったらそのまま数メートルほど吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
体力を確認すると全体の四割ほどを一撃で持っていかれた。かなり強力な攻撃だ。
あれを何発も受けていたらやられるのは時間の問題だ。
俺は痛みを堪え立ち上がると再び剣を構える。こうなったら見苦しいが粘ってやろうじゃないか。
その後ホッグが追撃の突進攻撃をするも一度経験しているので避けるのに問題はない。
俺は最小の動きで奴の攻撃を躱すとがら空きの横腹に剣を突き立てる。
分厚い肉の壁に阻まれてはいるものの確実にダメージは入っているようで、小さく奴が悲鳴を上げる。
それから大技を繰り出すことをせず奴の攻撃に合わせたカウンター攻撃に徹することで確実にダメージを与えていく。
突進攻撃を繰り出すたびにカウンターを食らい続けたホッグの動きは目に見えて鈍ってきていた。
どこかで決定的な一撃を加えたいところだが、無理をすれば一気にピンチになってしまう。
ここは慎重に確実性を重視すべきだろう。
そしてついにホッグの突進が止み、傷だらけで息も絶え絶えの状態を確認した俺はここから攻勢へと転じた。
だが窮鼠(きゅうそ)猫を噛むという言葉もあるように追い詰められた者というのは土壇場で何をするか分からない。
だからこそ俺は相手の動きをつぶさに観察し、気を窺う。そして、不測の事態に備えつつ奴に向かって走り出した。
「これで止めだ!!」
それは俺が先制攻撃を仕掛けた時に出した、大跳躍からの振り下ろし攻撃だ。
今の奴であれば避ける余力は残っていないはず、こいつで終わってくれ。
俺はそう祈りを込めると、地面を蹴って跳躍し、そこから渾身の力を込めて奴に剣を叩きつけた。
すると、心配していたイレギュラーな事態が起こることなく俺の剣の一撃がホッグに直撃する。
それが文字通り止めの一撃となり奴の巨体が地面へと沈み動かなくなった。
俺は討伐が成功したことの喜びと安堵で地面に座り込みそうになったが、
それまでの戦いを見守っていた人物がいることに気付きその人物に向かって歩き出した。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「えっ、あっ、はっハイ、大丈夫です。助けてくれてありがとうございますぅ~!」
女の子は戸惑いながらも助けてくれた俺にお礼を言った。
そして、地面に座り込んでいた体を起こすと予想外のことを言い出した。
「ま、また会っちゃいましたね」
「うん? ああ君か、確か……」
俺は彼女の名前を思い出そうとしたが、まったくもって覚えていない。
彼女もそれを察したのだろう、眉をへの字に曲げた表情で名乗ってくれた。
「……ミーコ、ミーコです」
「あ、ああごめん、人の名前覚えるのあまり得意じゃなくて」
「そうですか、それじゃあ仕方ないですね、あはは。ところでその、お兄さんの名前はなんて言うんですか?」
「ああ、名乗ってなかったか。じゃあ改めて自己紹介するけど俺の名前はジューゴ、ジューゴ・フォレストだ」
お互い名乗り合ったところでミーコから事情を聞くことにした。
彼女の話によると、一人でこの草原までモンスター討伐に来たところ、運悪くレアモンスターであるオラクタリアホッグと出くわしてしまい、逃げようとしたのだが相手の方が素早く徐々に追い詰められてしまったそうだ。
追い詰められホッグに襲われそうになったところに俺が現れ助けてくれたというよくあるパターンの顛末だった。
「本当にありがとうございました。ジューゴさんが来てくれなかったらわたし……」
「いや気にしなくていいよ。たまたま悲鳴が聞こえただけだし」
お礼を言った彼女の顔は朱に染まり瞳が揺れていた。
ちょっと待て、ちょっと待ってくれ。これはあれか、危ないところを助けた主人公に恋してしまうヒロイン的なヤツか?
俺がそんなことを考えていたその時彼女が俺に問いかけてきた。
「あのジューゴさん、もしジューゴさんが嫌じゃなければでいいんですが、しばらく一緒に付いて行ってもいいですか?」
はいキター、俺がさっき言ったヤツー。完全に惚れられたパターンのやつじゃん。
まあ彼女が本当に俺に惚れたかは別として、一緒に行動する事はできない。
別に彼女が嫌いというわけではないが、今はまだ一人で行動したい。
だがこれが他の男なら喜んで彼女の申し出を受けるだろう。理由は彼女が物凄い美少女だからだ。
つぶらな瞳に整った目鼻立ち、そして年齢に不相応はけしからん二つの膨らみと普通の男なら寧ろこちらから誘うのが一般的だろう。だが、俺は違う。
「ごめん、まだしばらくは一人で行動したいんだ。君のことは嫌いじゃないけど、一緒に行動するのはちょっとね……」
「そう……ですか……そうですよね。わたしなんかがそばにいると迷惑ですよね」
何か勘違いさせてしまったようなので俺は彼女の頭に手を乗せ撫でてやる。
最初は目を見開き驚いていたが今は俯いてされるがままになっていた。
「ミーコちゃん、俺は君だから断ったんじゃないよ。他のどんな人だったとしても断っていたさ。君が嫌だからとかそんな理由じゃないから安心して」
「は、はい……」
その後俺はオラクタリアホッグの死骸に手をかざし素材を回収する。
一先ず手に入れた素材は後で確認するとして、一旦彼女と別れることにした。
日も高くなりちらほらとプレイヤーの数が増えているため彼女一人でも大丈夫だろう。
男としてここで女の子を一人にするのはいかがなものかとは思ったが、俺はこの世界に恋愛するために来たわけじゃない、彼女に悪いとは思うが俺は一言挨拶すると彼女と別れた。
去り際に何か彼女が話しているのが聞こえたが何を言っているかは聞こえなかったのでそのままその場を離れた。
今回のレアモンスターとの対決は俺に軍配が上がったが、危ない場面もあったので気を引き締めていかなきゃな。
※今回の活動によるステータスの変化
【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト
【取得職業】
【剣士レベル4】 パラメーター上昇率 体力+26、力+11、物理防御+14、俊敏性+8、命中+9
【鍛冶職人レベル1】 パラメーター上昇率 なし
【料理人レベル5】 パラメーター上昇率 体力+30、魔力+15、力+9、命中+9、精神力+7
【各パラメーター】
HP (体力) 128 → 144
MP (魔力) 85
STR (力) 22 → 30(+7)
VIT (物理防御) 16 → 26(+21)
AGI (俊敏性) 11 → 17(+9)
DEX (命中) 19 → 26(+9)
INT (賢さ) 10
MND (精神力) 17
LUK (運) 20
スキル:時間短縮
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