第15話



 さあやってきました。森山十護もといジューゴ・フォレストのVRMMOクッキング~。

 ……ていうのは冗談で、普通に料理をしていこう。



 次に着手するのは米を炊いてそれをおにぎりにすることだ。

 簡単な手順のようだが、実はお米を炊くのって難しかったりする。

 そりゃリアルの世界には【電子ジャー】という某大魔王様が封印されていた電子機器が存在しているが、このFAOにおいてそんな便利アイテムは存在していない。



 だからこそ米を美味しく炊くという調理はこの世界においては難易度が高かったりする。

 まあ料理という点においては単純な工程だ。米を研いで、鍋を使って炊く、これだけだ。

 だが米の糠(ぬか)を取る作業に炊く時の水の量、そしてネックは火加減に注意することだ。

 火加減を間違えればお粥のように柔らかすぎたり逆にものすごく固い米になったりする。



「とりあえず、まずは米を研ぐところからだな」



 そう言うと俺は大きい方の鍋に市場で手に入れた米を入れてゆく。

 ここで豆知識を一つ言うとなぜ米は『洗う』ではなく『研ぐ』という表現なのか知っているだろうか?

 それは玄米から精白した際に米に付着している米粉または白糠と呼ばれるものがある。

 この米粉には油分が含まれているため単純に米を一粒一粒水で洗っても取り除くのが大変なのだ。



 そこで米と米をこすり合わせるように水で洗うことで米に付着している糠を取り除くという『研ぎ』という方法が生み出された。

 これにより無駄な糠を取り除くことで美味しいご飯ができ、日持ちの良い米に仕上げることができるのだ。

 だからこそ米は洗うというよりも研ぐという呼び方になったのかもしれない。



 さて一つ知識を披露したところで実際にそれを実践しようじゃないか。

 鍋に入れた米およそ三合半、グラムにして約五百グラムの米を水を使用して研いでいくわけだが最初にこの給仕室に来た時に確認した甕の中にあった水で研ぐことにする。

 だが流石にいきなり使うのは不安だったので、甕の近くに置いてあった柄杓を使って甕の中の水を飲んでみた。



「美味い、何だこの水ミネラルウォーターか?」



 まさに水を飲んだ感想としてはこれ以上ないほどに的を射た感想はなく、とても美味しい。

 どっかの山脈から汲んできたのかというほどに口当たりとのど越しがよく、この水を使えば物凄い名酒が作れるのではないかと思ってしまうほどだ。



「流石はゲームの世界、こんないい水があるなんてな。現実世界に持って帰りたいな、はは」



 などと言ってみても実際は無理な話なので、これでこの話は終わりとした。

 とにかくこんないい水で米を研ぐのは勿体ない気もするが、この水ならばいい米が炊けそうだ。

 俺は早速この水を使い米を研ぎ始める。



 研ぎ方としては先ほどの知識の通り、洗うというよりも米と米をこすり合わせることで表面に付着している糠を取ることを意識して研いでいく。

 しばらく研いでいくと水が白くなったので一旦水を捨て、新しい水に入れて再び研ぎ始める。

 


 シャカシャカと米を研ぐ小気味いい音が給仕室に響き渡る。

 また水が白くなったので再び水を入れ替えて研ぎ合計で三回それを行った。

 ここで勘違いしやすいのが米を研いだ時に水が白く濁らなくなるまで研がなければならないのかというとそういうわけではない。

 あくまでもこの米を研ぐという行為は米に付着した糠を取り除くためのものであるため過剰にやり過ぎると米の旨味成分まで洗い流してしまう可能性がある。そのため精々が三回、多くても四回で留めておいた方がいいだろう。



 研ぎ終わった米が入った鍋に水を入れる。

 今回は三合半の米に対して六百ミリリットルほどの水を入れておき、しばらく置いておく。

 計量カップが欲しいところだが、今はないため目分量で量って入れた。

 今やっているのは『浸水』という工程で、特に今回のように電子ジャーを使わず鍋を使って米を炊く場合にスムーズに米の芯まで火を通すために、事前に水を吸わせておく必要があるのだ。

 今回はそれほど時間を掛けたくはなかったので十五分ほどに留めたが、通常であれば三十分から一時間ほど水に浸けておくのが望ましい。



 その十五分の間待っているのも暇だったので、オラクタリアピッグのハーブステーキを量産しまくった。

 手順はもう確認済みなのであとは流れ作業のようにすれば万事オーケーだった。

 ちなみにステーキ量産中に規定の経験値を得たのか、料理人のレベルが上がってレベル2となった。

 そして、五枚分のステーキを量産し終えたところで十五分が経過したため、米の具合を確認しいよいよ加熱の工程に移る。

 


 加熱の前に鍋の底面に対して平らになるように米を均してから蓋をして鍋を火にかける。

 最初から強火で加熱するのではなく沸騰するまで中火くらいの強さになるよう竃の火と鍋の距離を調節して加熱していく。

 しばらくして鍋の中でぶくぶく音がし始め沸騰したことを確認するとそのまま二分ほど加熱した後、鍋の高さを調節して弱火になるようにしそのまま十分ほどかけてじっくりと火を通していく。



 その間ももう一つの竃に火を入れ、再びステーキを量産する。

 米の調理と同時進行で行っているためだろうか、その十分間で料理人のレベルがまた一つ上がった。

 米に火を入れ始めて十五分ほどが経過したところで一度確認のため鍋の蓋を開け中の米の状態を確認する。

 この時に鍋の中に水分が残っていれば再び加熱して水気が無くなるまで火を入れるのだが、今回は水気が無くなっていたのですぐに火から上げて蒸らすために十分ほど放置する。



 合間の時間が勿体ないのでその時間は都度ステーキ量産に当てた。

 そのお陰でオラクタリアピッグの肉3個分の内の半分くらいに相当する十二枚のハーブステーキの量産に成功した。

 蒸らしの時間が終わったので、改めて鍋の蓋をゆっくりと開けるとそこには湯気がもくもくと立ち上り、そこから顔を出した白い宝石のような米が現れた。



 よく『お米が立っている』という表現があるが鍋の中の米はまさにその状態だった。

 いい水と米自体の品質もいいのか、立ち上る湯気は少し甘い香りが漂ってきた。

 日本人がこの香りを嗅がされた日にゃたまらないだろう。実際今の俺の口の中は唾液で一杯だった。

 俺は口の中の唾液を飲み込むとさっそく味見することにした。どんな味か楽しみだ。



 市場で食材を買う前に金物系の露店で食器なども買い揃えていたので収納空間にあったお茶碗を取り出ししゃもじがなかったのでスプーンで代用しご飯をよそった。早くしゃもじを手に入れねば。

 茶碗によそった米は一粒一粒が自己を主張するかのように光り輝き、俺に食べてもらうのを今か今かと待ち望むかのようだ。

 できれば箸を使って食べたかったが、それも市場になかったので今回はスプーンで食べることになった。



「では、いざ」



 スプーンにご飯を掬ってそのまま口に投入する。

 噛んだ瞬間米の甘みが口の中に広がると同時に、米一粒一粒の歯ごたえが何とも快感を感じさせる。

 噛めば噛むほどに味に深みが増し、飲み込むその瞬間までそれは続いた。

 飲み込んだ後も米独特の後味が残り最後の最後まで俺を愉しませてくれた。



「はあ~、最高だ。マジでこのゲームに出会ってよかったぜ」



 そんなことを口走ってしまうほど、この米の破壊力は凄まじいものだったのだ。

 だが忘れてはいけない、これは飽くまでも“米”であって目的の料理ではないのだ。

 とにかく米は無事に炊けたのでこの米を使っておにぎりを作る工程に移ることにした。

 ちなみに米の詳細情報はこちら。




 【炊きたての米】



 丁寧に研いだ米を適切な調理方法を用いて調理された一品。

 このまま食べても美味しいがこの米を使ったおにぎりはまた格別なこと請け合いだ。



 製作者:ジューゴ・フォレスト




 なんだか詳細の内容が万人に向けたものではなく個人的な感情が見え隠れしているような記述だったが

確かにこんないい米でおにぎりを作ったらさぞかし美味しいだろうと納得する部分があるためあまり記述に関して気にしないことにした。それよりもこの米を使って今からおにぎり製作に入ろうと思う。



 おにぎりと言ってもその作り方は米を握るだけだと思いがちだが、このおにぎりにもうまく作る調理法というものがある。

 それは“お握り”という言葉どおり、握り方にある。

 例えばすし職人が一人前になるのに十年かかると言われる所以は下積みを経験して一通りのことができるようになる年月が十年であるが、その下積みの中で握りにかかる修行は大体三年ほどだ。

 その三年間ですし職人はまともな寿司が握れるよう修行し、その後も生涯を賭けて握りの技術を研鑽し続けるのである。



 閑話休題、ここでおにぎりの話に戻ろう。

 すし職人の握ったすしも今回のおにぎりも同じように握ることでできるものだ。

 だからこそすしと同じような握りの技術で美味しいおにぎりを作ることができるのだ。それを今からやってみよう。



 まずは手に水を含ませおにぎりを握りやすい状態にし、一定量の米を手に取るとそのまま握り始める。

 この時注意するのは強く握りすぎないようにすることだ。

 某グルメ漫画でも紹介されている内容だが、握っている過程で一定の空気を含ませながら握ることで

噛んだときにほろりと程よい抵抗感で崩れてくれるため食感がいいものになるのだ。



 この技術はすし職人の間でよく使われているが、一般人にはあまり馴染みのない技術と言える。

 だが俺は美味いものを追求するあまりその技術にたどり着き、見事に体得したのだ。

 それが功を奏し年に一度の親戚の集まりで食事会が開かれるのだが、毎年そこには俺の作ったおにぎりが豪華な料理の隣に並ぶほどだ。

 親戚曰く「お前の嫁になる女は幸せもんだな。こんなうまい握り飯が毎日食えるんだからよ」だそうだ。



 とにかく俺はひたすらに握り飯を作り続け、三合半のお米は見事におにぎり10個分へと変貌を遂げた。

 握っている最中に例の空気を含ませる握り方を実践していたせいだろうか、また料理人のレベルが上がりこれでレベル4にまで上がった。

 最初の一つを塩加減の確認のために味見したが、あまりのうまさにその場で踊り出しそうになった。実際に踊ってしまったんだがな、テヘペロ。



 ともかく今回で作った料理はオラクタリアピッグのハーブステーキが十二枚とおにぎりが9個だ。

 さて、目的の料理もできたので俺は今回の料理を工房の親方たちとカエデとアカネに振舞うことにした。

 人数的にはちょうど残ったおにぎりの数でもある九人分なので、ぎりぎりだったが足りてよかったなと安心した。



 取り出した皿におにぎり1個とハーブステーキを乗せると、一つの料理が完成した。

 この時不思議な現象が起こったのだが、皿に盛りつけた料理が完成した時にどうやら料理が完成すると皿も料理の一部となるようで収納空間に使った皿が収納されていた。

 これなら皿を大量に用意する必要もないため楽ではあるが、こういうところはゲームなんだなと改めて実感させられた。



 人に料理を提供するのは初めてではないが何度経験しても美味しいと思ってくれるかという不安は拭えないものだ。

 だが味見はちゃんとしたし、今回は自信もあるので不安だが美味しいと言ってくれることを信じよう。

 俺は作った料理を収納空間にしまうと使った調理器具の後片付けをして、給仕室を後にした。

 




 


 ※今回の活動によるステータスの変化



 【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト



 【取得職業】



 【剣士レベル2 パラメーター上昇率 体力+10、力+3、物理防御+4、俊敏性+2、命中+2】


 【鍛冶職人レベル1 パラメーター上昇率 なし】


 【料理人レベル4 パラメーター上昇率 体力+25、魔力+11、力+7、命中+6、精神力+5】



 【各パラメーター】

 HP (体力)   98 → 123

 MP (魔力)   70 → 81

 STR (力)    13 → 20(+7)

 VIT (物理防御) 16(+21)

 AGI (俊敏性)  11(+9)

 DEX (命中)   10 → 16(+9) 

 INT (賢さ)   10 

 MND (精神力) 10 → 15

 LUK (運)    20


 

 スキル:なし

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る