幕間:「乙女たちのさえずり」


 

 【アカネサイド】

  


 あたしの名前はアカネ、今日は【フリーダムアドベンチャー・オンライン】の筐体が初めて家にやって来た日だ。この日をどれほど待ち望んでいたことか。

 本体価格九万八〇〇〇円は高かったけど、うちの父が経営している土木関係の会社でアルバイトしてその報酬として買ってもらったのだ。



 親友二人もなんとか筐体を手に入れることができたため三人一緒にプレイしようと思ったが直前になって一人が急用で来られなくなったため仕方なく二人でプレイすることにした。



「さてと、カエデは来てるかな?」



 昔の西洋風の街並みを見物しながら、友の姿を探すべく歩いているとあたしの進行方向から妙な格好した男が歩いてきた。

 全身を白っぽい装備で身を包んだ男は他のプレイヤーと見比べても明らかにおかしい。

 早くカエデを探して、一緒にプレイしたかったが、今目の前にいる男の方に興味があったためあたしは迷うことなく彼に声を掛けた。ところが――。




「はあ、はあ、くそーどこ行きやがったあの白い奴」



 あの後あたしの質問には答えてもらえず、散々逃げ回った挙句あいつを見失ってしまった。

 あいつは一体何だったのか、それよりも一つだけ訂正したいことがあたしにはあった。



「何が“おっぱい星人”だ。そりゃ他の子よりもちょっと大きいとは思うけどさ……だからって星人はないだろ星人は」



 確かにあたしの胸は大きい、だからといって言っていい事と悪いことは何事にもあるというものだ。

 あたしの場合は胸に関してコンプレックスは抱いていないが、他の子だったら傷ついてしまうかもしれない。

 あたしはそれが許せない。自分のことはともかくとして、身体的特徴をああいう言い方で表現するのはいただけないと思う。

 今度会ったら絶対にとっちめてやるからな覚悟しておけよ、白い奴め。

 


 あたしをコケにしたあの男との再会を誓って、あたしはまだ来ていない親友を探すためまだ慣れない街並みを見渡しながら歩を進めた。

 この世界に来てするべきことができたのは良いことだが、それがお尋ね者を探すことだとは夢にも思わなかったな。人生何があるか分からないとかいうけど、仮想現実でもそうなのかな?

 そんなことを考えながら、あたしは息を整えながら再び歩き出すのだった。






 【ミーコサイド】




 わたしの名前はミーコ、この【フリーダムアドベンチャー・オンライン】初めてプレイする中学生なの。

 今日はパパがわたしにって買ってきてくれた新しいゲーム機が届く日だったから楽しみにしてたんだ。

 実はわたし不登校で学校でいじめられてたんだけど、それを心配したパパが気分転換にってプレゼントしてくれた。

 家にいる間の楽しみの一つとして、TVゲームをプレイしていたから今回新しい次世代のゲーム機が出ると聞いてとても興味が沸いたんだけど、中学生にはとても高すぎるから諦めてた。



 でもこのゲームの会社の取締役とパパが友達でコネって言うのかな、それで手に入れてくれたみたいでそのお陰でこのゲーム機をプレイすることができるからとっても楽しみ。

 午前十一時頃に届いたゲームの筐体を早速組み立ててプレイしてみることにした。



「ここが……ゲームの世界?」



 ナビゲーターとのやり取りで初期設定を終えたわたしはとある石畳が特徴的な街に降り立った。

 すでに街にはわたしと同じようにゲームを手に入れたプレイヤーが大勢街を行き交っている。

 このゲームの概要はVRMMO、つまり一般的なゲームのようにクリアの概念が存在しないからここで何をするのかはプレイヤーの意思次第。



 とりあえずわたしは街の出入り口を確認するため歩き出したんだけど。

 突然呼び止める声が掛かった。そこにいたのは三人組の若い男だった。



「よお、お嬢ちゃん一人かい?」


「一人じゃ危ないからお兄さんたちと一緒に行動しないかい?」


「俺たちは怪しいもんじゃないから安心して~」



 いや全然安心できないんだけど、なんなのこの人たちは。

 さっきからわたしのことを変な目で見てくるし、なんか気持ち悪い。

 もう、これから楽しいVRMMOの世界にやって来たって言うのにいきなり出鼻を挫かれちゃった気分だよ。



「あ、あの一人で大丈夫ですから。わたしこれから用がありますし」



 そうわたしにはこのゲームを楽しむという重要な用事が存在するんだ。

 だからあなたたちに構っている暇はないんですよーだ。



「そんなこと言わずに、いいじゃないかちょっとくらい」


「そうだぜ、ちょっと付き合ってくれるだけでいいんだ」


「ああ、このロリ巨乳は萌えだね~」



 生理的に受け付けない、そういう言葉ってよく聞くけど今のこの背筋がゾクゾク来る感じこれが多分その状態なんだと何となく理解する。

 目の前の男たちは差し詰め血に飢えた獣で自分を小さな小動物の獲物として狙っているという構図だろうか。

 そんなことを考えている場合じゃない、こんな人たちの相手をしている暇なんてわたしにはないんだから。



「ホントに大丈夫ですから、じゃあわたしはこれで……」


「待てよ! ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって!! いいから俺たちと一緒に来い!」



 そう叫んだ男がわたしを捕まえようと手を伸ばしたその時――。



 ――ドンガラガッシャン。



 突然静寂を打ち破って、その場に似つかわしくない物が散乱する音が轟く。

 何事かと思い音のした方向に目をやると、白い軽鎧を付けたの男の人が数人のプレイヤーに追いかけられており、追いかけている先頭の女の人と言い合っているようだった。



「なっなんだあいつらは!」


「あれじゃねえか、チャットで騒がれてた白い奴って?」


「マジか、じゃあ俺らも追いかけた方がよくね?」



 三人組の男たちはわたしに興味を無くしたのか、逃げている男を追いかけていった。

 なんとか三人の手から逃れることができたわたしはほっと胸を撫でおろし当初の予定通り街の門を目指した。




 街の門までたどり着いたわたしは外のフィールドに目を向けたあとすぐに目を見開いた。

 その光景は人だらけでとてもじゃないがモンスターと戦うことはできそうになかったからだ。

 もっともわたしの目的はモンスターと戦う事じゃないから別に構わない、モンスターと戦うには今のわたしは弱すぎるから。

 外のフィールドで親切そうなお兄さんに声を掛けたがこの人もこの街に来るのは初めてとのことでわたしと変わらなかった。

 


 その後一緒に行動してみたかったけど、用があるとのことでその場で別れたがやることもなかったので彼の後をこっそりと付いて行くことにした。これってストーカーみたいだけど、不純な目的じゃないからいいよね?

 そして、彼がやって来たのは訓練場だった。どうやらお兄さんは訓練場で訓練をするらしいのでわたしもそれに倣って今日は訓練をしてみることにした。もう一回聞くけど、これってストーカーじゃないよね? 目的が同じだけだよね?



 残念というべきか、幸いというべきかはともかくとして訓練場でお兄さんと会うことは出来なかった、ちぇー。

 どうやら訓練場でいくら鍛えても職業のレベルは上がらないけど、一通りの動きは覚えられるので今日はしっかりと訓練して一通りの動きを覚えよう。ああ、ちなみにわたしの取った職業は修行僧(モンク)と薬剤師と魔術師だった。

 薬剤師はともかくとして今日は修行僧と魔術師の動きを覚えるぞ。

 その後彼女はその日ログアウトするまで訓練に勤しんだのだった。





 【カエデサイド】




 私はカエデ、とある大学に二年ほど通っている大学二年生だ。

 今日は【フリーダムアドベンチャー・オンライン】という次世代の新たなゲーム機が届く日となっていたはずだが到着予定の時間より少し余裕があったため今は体をほぐすため軽いジョギングの真っ最中だ。

 実は朝に剣道の朝稽古があり、今しがた家に帰って来たばかりだったのだが、全く私はつくづく体を動かすのが性に合っているらしい。



 そして十五分ほどのジョギングを終え、家に戻ってきたタイミングとかち合うように宅配の業者がやってきた。

 業者から荷物を受け取り、ジョギングと朝稽古でかいた汗を流すため軽くシャワーを浴びてから組み立て作業に移ることにした。

 冷蔵庫でも入っているのかという大きな段ボール箱の中にゲームの筐体が梱包されていたのですぐさま組み立てる。

 今日は親友と一緒にこのゲームをプレイする約束をしており、ログインする予定時間を四十分ほど過ぎている、急がねば。



 なんとか説明書の通りに組み立て、指示に従ってゲームの世界にログインした。

 最初はナビゲーターの指示による初期設定があったがそれもつつがなく完了し、いざ街へと降り立つ。

 ロンドンの街並みを彷彿とさせる西洋風の石畳みが風情のある街には夜の帳が下りていた。

 どうやら来るのが遅かったため、暗くなってしまったようだ。



 とりあえず親友であるアカネを探そうとすると、見知らぬ女性二人に声を掛けられた。

 二人とも愛嬌のある顔をしており女性の私から見てもとても可愛らしい。



「あっあの、よかったら一緒に行動しませんか?」


「あたしたち始めたばっかりで二人じゃ不安なんですぅ~」



 さてどうしたものか、いや最初から答えは決まりきっているのだがどう断ればいいかということだ。

 何故かはわからないのだが私はよく女性に声を掛けられることがあるのだが、その理由は全く分からない。

 親友のアカネとユウにその理由を聞いても「アンタは知らなくていいから」、「てゆうか、知っちゃいけないと思うよ」と言われてしまいますます訳が分からないことになっていた。

 余計な思考をしている暇があったら目の前の女性に断りの返事をした方がいいな、うん。



「すまないがこの後先約があるので君たちと行動を共にすることはできない。右も左もわからぬこの世界で不安に思うこともあるだろうが、君たちなら私がいなくとも大丈夫だろう。せっかく誘ってくれたのに無下に断ってしまうことを許してほしい、本当にすまない」



 できるだけ誠意を込めて断りの返事を入れたつもりだったのだが、二人の女性の片方がなぜか急に手の甲を額に当てながら後ろに倒れ込んだ。

 辛うじてもう一人の女性がそれを支えることに成功したので、地面に倒れ込むことはなかったが倒れた女性は失神していた。

 その後、介抱しようとした私の申し出を気絶していない女性が断ったが遠慮することはないと食い下がるも「今度はあたしが気絶してしまいますから」と訳の分からないことを言われたが有無を言わせぬ態度に本意ではないが引き下がる他なかった。



 それから親友のアカネを探すもなかなか見つからず、このままでは埒が明かないという事で一旦宿屋に泊まり朝を迎えることにした。

 このゲームが始まったばかりだからかどこの宿屋もほとんど満室だったが探し始めて七軒目の宿でようやく空きを見つけた。

 だが二人部屋という事で二人で泊まらなければ部屋を貸さないと店主が言ってきたので二人分の代金を払うから泊めてくれと打診するも返事は変わらなかった。



 宿の店主を揉めている最中に新たな客がやって来たのでこれ幸いとばかりにその者と一緒に泊まることにした。

 彼はフード付きの外套を着ており、顔が見えなかったがこの際問題はない。

 とにもかくにもなんとか宿を確保することに成功した私はそこで一夜を過ごした。

 ちなみにだがその男とは何もなかったぞ?ホントだぞ?



 その後一緒に泊まった男はそのままログアウトしてしまったようで私が起きた時には姿が無かったが気にせず部屋を後にする。

 戻ってきた彼が私がいないことを気にするといけないので店主に伝言を託し、私は宿を出た。

 その後すぐにアカネと合流できたのだが、なにやら私がいない間にトラブルに巻き込まれていたようで私はまたかという気持ちを乗せてため息をついた。



 それからアカネの愚痴のような報告が延々と続き、その日はそれだけでログアウトすることになった。

 それにしてもアカネが追いかけていた白い奴という男、アカネの事を【おっぱい星人】と呼んだらしいがなんとも言いえて妙な呼び方に私は心の中でニヤケ顔を作るのだった。



 次のログインはもう少しゲームらしいプレイをしたいものだ。












 【作者のあとがき】



 第一章お疲れ様でした。なぜか本編より幕間の方が文字数が多くなってしまいましたがこれでも少なくまとめたつもりなのでその点はご容赦いただきたいです。

 それでは第二章もお楽しみいただけるよう頑張りますので次回作もご期待ください、では。

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