第25話 姉が路地裏にやって来る

「今日はシチュー♪」

放課後、帰り道。

部活が終わった中学生・鈴(りん)は、寄り道せずにまっすぐ歩いて帰るいい子。

「おねえちゃんの手作りシチュー♪」

夕飯は大好きな姉・涼(りょう)の手料理らしい。ウキウキな鈴は乙女チックスキップまでしている。

「ホワイトかな?ビーフかなぁ?」

唐突な疑問につい立ち止まる。

校門を出て数分は寂れた商店街、そこを抜ければ田んぼ道、さらに800 m歩いてたどり着くさくらんぼの木々に囲まれたログハウス、そこが鈴の家。

なのに鈴は…

「とり肉かな?牛肉かなぁ?」

シチューのことを考えすぎて…

「ブロッコリー、苦手だけど…頑張って食べるっ」

薄暗い路地裏に迷い込んでしまった!!!


「あれ??」

道幅1 m弱、隣接した建物の高さは約5 m、進んだ先は行き止まり。

正直、いくらシチューのことを考えていたとしても帰り道を間違えるはずがない。

「??」

鈴の通学路は一本道なのだから!!!


「戻らなきゃ!」

といっても、来た道を戻ればまた見慣れた商店街。回れ右をして数歩進めばいい、簡単な話だ。

しかし…

「あらお嬢さん。ダメじゃない、一人でこんなところ入ったら」

背の高いキレイな女性が道をふさいできた。

「えへへ、ちょっと道を間違えちゃって」

「うーん、間違えて入るような道かしら…」

鈴は人見知りしない上に女性ということもあり、特に警戒することなく自然に会話が生まれる。

「それじゃあり…わ、私!帰ります!」

気が緩み始めたところで、鈴が改めて商店街に戻ろうと歩き出したら、

「んふふっ」

ぎゅっ

「んんっ」

超絶急展開、女性は歩いてきた鈴をそのまま抱きしめた!!!!!

ハグだ!!!!!!

「んむぅ」

さらに、身長差で鈴は女性の胸に顔が埋まる形になる。

そこそこ巨乳だ!!!!!!

「むぅ、やあらはい(やわらかい)」

そのため鈴は話すことができなくなった。

腕ごと抱きしめられているため、抵抗も叶わない。

ちなみにこの女性、涼ではない。

「っとっとっと」

トン

鈴は視界と体の自由を奪われたまま、奥の壁まで追い詰められた。


そう、追い詰められてしまったのだ。



日は沈みかけ。ただでさえ薄暗かった路地裏はさらに黒を強めていく。

「ほんっとうに可愛い…」

この女性はおそらく、以前から鈴を狙っていた。鈴の通学路と天然っぷりを記録して、今日 行動に出たのだろう。

「叫んでも誰も来ないから…ごめんね?」

眉を下げて艶っぽく微笑む女性。やっていることは犯罪だが、やたら絵になっている。

百合だ!!!!!!

「いもうとおおおおおおおおぉおおおおぉぉ!!!!!!!!」

そして姉だ!!!!!!!

忍者のように上から両手両足を建物につけて…ではなく、

シンプルに路地裏の入り口からやって来た!!!!


「ほえーはん!(おねえちゃん!)」

ズンズンズン

女性は鈴を抱きしめたまま。鈴も顔が埋まったまま。

そんな絡み合う2人のもとへ無言で突き進む涼。

今日は正真正銘、妹のピンチに駆けつけたのだ。

タイトル回収だ!!!!!!


ドンッ

そして2人まとめて壁ドン!

「あ、姉ですって…?」

姉妹の間に挟まる女。

「お前…美形の女だから許されると思うな」

たとえどんな存在でも間に入ることは許さない。涼は女性に怒りをにじませて迫る。

一方、女性は目の前に端正な顔が来て様子が変わる。

「ちょ…!///私はネコじゃないの!」

「猫じゃないのは見ればわかる!!」

その猫じゃないのは何となくわからなかったのか。

「猫ちゃんならいいのに…」

「そうだな、猫なら許した」

【速報】姉妹の間に猫は入れます。


「こ、こうなったら2人まとめて…」

女が涼にも腕を伸ばそうとした。

その時、

クイッ

「っ!?」

「ぷはぁっ」

2人まとめて顎クイ!

顎クイは…2人まとめてするものではない!!!

しかしそのおかげで鈴が胸攻めから解放された。

「2人まとめて、なんだって?」

「ぁ…ぅ…///」

「2人まとめて…私の猫になるか?」

「っ!!///」

セリフ自体は本当に謎で気持ち悪い。

しかし、

「っ~!///」

自信満々な態度、キリっと上がった眉と口元、逆光なのにギラギラと輝きを放つ瞳。

この圧倒的な顔面に、女性はあっさり魅了されてしまった。

「えへへ、猫ちゃんにしてくれるの?」

「「はぅう!!!」」

その空気を破るように、やや下の方からあざと可愛い天然セリフが聞こえてきて2人とも平静を失う。

「おねえちゃん。りん、お腹すいちゃった…」

そのまま話題を逸らす鈴。

「ハッ!そうだ、シチューが完成したから迎えに来たんだ。行こうか」

「うん!」

「ああ、ちょっと…!」

鈴はするりと女性の腕から抜け出した。

まるで初めから、いつでも、すぐにそうできたような動きだ。

「カボチャのポークシチューを作ってみたんだ。ホウレン草で緑を入れてみたよ」

「わぁ…!楽しみっ♪」

鈴の予想を全部裏切った内容の夕飯で盛り上がる姉妹。

今回は相手が女性で美形でスタイル抜群であるためか、胸キュンシチュを全網羅したが涼は特に事件を起こさず去ろうとする。

「・・・」

それとも、この姉妹愛を見せつけることが最大の攻撃とでもいうのだろうか。

「……お姉さま…」

その攻撃は、ターゲットを変える効果とネコになる状態異常を与えた。

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