第26話 姉の発症事例
涼(りょう)。21歳。4人家族。2人姉妹の長女。
栗色のロングヘア。美人で自信家、スタイルも良い。学力も高くスポーツも万能。
国内トップレベル・国立羽前(はねまえ)大学2年生、情報学部。モデルの仕事もこなしている。
中学、高校は県内の名門国際私立、シルバー・マウンテン・スクール。主席卒業。その後、空白の一年を経て上記大学へ。
将来どんな職に就いても、彼女にはやはり輝かしい成功が約束されている。
また絶望することがなければ。
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14年間、自分から口をきいたり触れたりしたことがなかった対象に、たった一日ですべての愛情を注ぐようになったのはなぜだろう。
自分より背も低く、勉強も運動もできず、察しまで悪いくせに、執拗にまとわりついてくる鬱陶しい存在。
もとより、涼より優れている人間の方が少ないのだが、涼は家族を含めて周囲の人間をそのように蔑んで遠ざけてきた。
しかし、そんな性格は態度に現れるものだ。
これまで告白されたりファンクラブができたり、いくら多くの人に囲まれるほどの人気があった涼でも、必要以上に近づく人間はたったの一人もいなかった。
そう、一人もいなかったのだ。
どんな人間でも、弱り切っているときに強い衝撃を受けると良くも悪くも変わってしまう。
確固たる意志や色濃い自我が残っていても、彼女の"完璧"はあの日に排除された。
涼の部屋に入った人間。
涼の頭を撫でた人間。
涼に甘美な言葉を贈る人間。
そのたった一人が現れることで発症する不治の病。
涼は罹患してしまった。
徹底的に構築された発症プログラムは遺伝子をもってしても崩すことはできない。
彼女はあの日からもはや別人…まるで、洗脳を受けた操り人形となったのだ。
その一方で、あの子の目的は"完璧"に達成された。
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