第15話 姉がお祭りにやって来る
「わ~!屋台がいっぱい!」
鈴(りん)が住む地域では今日、『碁点祭(ごてんさい)』という地域の催しが開かれている。
昼の今でも、多くの祭屋台と人でにぎわっている。
「たこ焼きにクレープにかき氷!何でもあるね!」
「もう、鈴ったら食べ物ばっか!」
「お子様なんだから~」
鈴は女子バスケ部の友だちと浴衣で祭に来ている。
鈴も、白の背景に黄色い蝶が羽を広げた浴衣をひらひら揺らしている。栗色の髪の毛と天真爛漫な性格によく似合うその浴衣は父が選んで着付けまでした。仕上げと髪結いは母が担当。かんざしには名前と一緒の鈴(すず)がついている。
ちなみに姉は奇跡的に不在だった。
本当は夜の花火に合わせた方が浴衣は映えるのだが、あいにく鈴たちは中学生。
中学校の先生の見回りもあるので、夜は祭に来られないのだ。
「わたあめにポテトもち…あ!からあげ~!」
「はいはい、シェアしてあげるから一人で全部買わないのよっ」
鈴は食べ物に夢中だ!
一方、他の女バス部員は祭りに来ている碁点中の男子に向けて浴衣姿をアピールしている。
男子も女バス軍団の浴衣姿に見惚れているが、その多くは鈴にくぎ付けになっている。
「りんご飴にお好み焼きに牛串ぃ…」
しかし鈴は食べ物に夢中だ!!!!
*****************
「あれ?みんないない」
案の定、鈴は女バスのみんなとはぐれた。
みんなが男子に向かってポーズをとってみたり「金魚かわい~」と言ってみたりしている間に、鈴はいい匂いにつられてフラフラと歩きだしていたのだ。
「ん~、先に食べ始めちゃおっかなぁ」
それでも気にせず食欲丸出しの鈴。
しかし、
「あっれ?キミいま一人??」
「俺らと回んな~い?おごるし!」
大学生ぐらいの2人組にナンパされてしまった。
「えっと、みんなで来てて…」
「みんなって??」
「誰もいなくね~?嘘ついちゃうんだ~」
「えっと…」
ナンパ男2人を前に、鈴は戸惑う。
近くに女バスのみんなの姿はなく、周りに助けてくれそうな人もいない。
祭には"いろんな人"が集まる。ろくに素性がわからない人にはうかつに話しかけられない。
リンリン リンリン
鈴はそれでも現状を打破するヒントを得るために、首を左右に振ってあたりを見回した。
そう、首を左右に振ったのだ。
「うっわ~やっぱかわいいな~この子」
「泣きそう??ん?
とりあえず一緒にこっち来よっか??」
2人が鈴を祭屋台の裏にある暗がりに誘う。
「あ、やきそば!!」
それでも鈴は食べ物に夢中なのだ!!!!!!!
「ん?天然か??まぁいっか、連れてく―――」
ガッション!ぉガッション!とぉガッション!ぉガガガガガガ!!!
「なんだ?」
「工事かぁ??」
いきなり大きな音が鳴り響いたが、工事の音ではなさそうだ。
ぃガッション!ぉぅガッション!ガガガ!ぉジュ~~~
その音は、鈴と男たちの目の前の屋台から響いている。
「え、ちょ、不気味じゃね~」
「何この屋台??鉄板から人の声っぽいの聞こえんだけど。…まさか人を…」
ジュ~ぃジュ~ぉジュ~ぅジュ~ぉジュ~~~
男たちがホラー思考になっても、その異音は鳴りやまない。
「ソースの匂いだ~!」
鈴がやきそばの舌になったそのとき、
トゥルルルルッパァン!!(輪ゴムの音)
「いもうとぉおおぉおおぉおおおおおおおお!!!!!!!」
やきそばを完成させた涼(りょう)が叫んだ。
「おねえちゃん!」
「鈴、待たせてごめんね…はい、やきそば」
「わーい!!ありがとう、おねえちゃん大好き…!!!」
「はぅん…」
周りを無視して2人の空間とやきそばを作って満足している涼。
そして謎の茶番を見せつけられて白目をむく男たち。
「・・・ハッ!お、おう姉ちゃんよぉ~」
「今俺たち取り込み中だったんだけど??」
やっと正気を取り戻した男たちは涼に突っかかった。
「なんだガッションガッションお前たちはガッションガガガガガかわガッショ妹にジュ~なんのガッションガッ」
「いややきそばやめろぉ!!!!」
涼がやきそばを焼きながら話すので、まったく声が届いていない。
「おいしい?鈴?しょっぱくない?鈴のにはお肉多めにしてみたよ?」
「いや焼けよぉ!!!!」
しかし鈴に話しかけるときは焼かない!!!!!
「とってもおいしいよ!お祭りに来て、一番に食べるのがおねえちゃんのお料理なんて、嬉しい…!」
「あひん…も~~~~おねえちゃん玉こんにゃくも煮込んじゃうぞっ☆」
「わ~い!!」
「・・・」
「・・・おい、もう行こうぜ」
「ああ」
ナンパ男たちは呆れと恐怖と怒りと恐怖と敗北感と恐怖を覚えて立ち去った。
ちなみに涼の屋台は鈴専用に設営している。
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