第14話 姉が授業参観にやってくる

碁点(ごてん)中学校、3年1組の5時間目…が始まる前。

今日は授業参観日だ。

教室の後ろには大勢の保護者がずらりと並んで立っている。

その中に、若い女性が一人。

「ふふふ、こんなに近くに鈴(りん)が…ふふ」

そう、鈴の姉の涼(りょう)だ。

涼は、これが授業参観でなかったら明らかな不審者ムーブをしながら、他の保護者に紛れている。


一方、鈴は…

「鈴ちゃんの家はお姉さんが来てるね!ね!」

「お姉さん美人~!」

「えへへ、そうだよっ」

周りの友達に自慢の姉を見てもらえてご満悦だ。

「あのお姉さん、どこかで見たような…」

一部では、たびたび学校に突入していた姉の目撃情報も上がっていた。


なぜ親ではなく姉の涼が来ているのか。

それは親が来られなかったからではない。

「く、厳しい戦いだった…」

涼は昨夜のことを振り返る―――


『涼ちゃんとあなたには悪いけど…ここで決める!!』

『させない!はぁあ!!』

『涼くんとキミが本気を出すのもわかる。しかし、ここは父の私が!!』


―――鈴がぐっすり眠った後、涼と母と父は "三つ巴指相撲" で授業参観権(授業参観に行く権利)を争っていた。

さすがに3人で行くことは迷惑行為だとわかっていたらしい。

もし3人で行ったら、他の保護者がドン引きして入れない状況となっていただろう。現に、涼だけでも若干引かれている!

激闘の末、涼は勝利したが、母と父は久しぶりに涼とくっつけたので満足そうに眠った。

両親は鈴も涼も等しく溺愛している。


キーンコーンカーンコーン


始業の鐘が鳴り、授業が始まる。

担任の先生が授業の内容を発表する。

「今日は『コミュニケーション』についてグループで考えて発表してもらいます」

生徒たちが机を並び替えてグループを作り始める。

(ほう、コミュニケーションか)

鈴のことになると他人とコミュニケーションがとれなくなる涼にはぜひこの授業に参加してもらいたい。


「うーん、会話だけがコミュニケーションじゃないからぁ…」

「日本語だと伝わらない人もいるよね!」

クラスではあちこちで活発な話し合いが行われている。

(りんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりん)

涼はもちろん鈴だけに注目している。

当然、写真撮影は禁止だ。涼は常識の範囲内で瞬きをせずに、あわよくば匂いをかごうと接近している。


鈴は困っておらず、涼は平常運転。

この様子であれば、涼の奇行はこの程度で済みそうだ。


そう、済みそうだった。


ガラララララララララ!!!!!


「「むすめぇええええぇえぇぇえええええええええ!!!!!」」


「「?!」」

3年1組教室に、男女2人の爆声が響き渡る。

教室中の人間は皆、その存在に注目せずにはいられなかった。

その正体は…

「はぁあっやっぱり可愛い鈴たん…!」

「鈴くんが私を見てる!私にファンサしてる!!」

鈴と涼の両親だ!

「2人とも、今日は諦めて仕事に行ったんじゃ…?」

涼が珍しく困惑する。

「フッ、我々が大人しく出勤したと思ったかい?」

「安定の有給よ!!!!」

「くっ、これが大人の力…!」

謎の茶番が授業を遮る。しかし、これも『コミュニケーション』の反面教師と思えば生徒たちのためになると考え、先生は菩薩顔で静観する。

「鈴ちゃんの家族、おもしろ~い!」

「びっくりしたけど、家でもこんな感じなの…?」

「うちのママ忙しくて来れなかったけど、楽しい授業になって嬉しいっ」

「みんな…!」

鈴はみんなの迷惑になっていないとわかり、ホッとする。

近年、働き方や生き方が多様化して、授業参観というイベントが無くなりつつある。

そんな中で、家族のうち3人も学校に来て、こんなにも授業を盛り上げてくれている。

先生はそんな現代社会とこの教室全体の様子を映して、笑顔で手をたたき、授業のまとめに入る。

「ふふ、賑やかなご家族で微笑ましいですね。さて―――」

3人は仲良く教室を追い出されて、反省文の提出を要求された。

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