『星空に託して』 その3


 しゃー!


 という感じで、あたりは、いっぺんに、暖かい陽光に包まれた、お花が沢山咲いている山道になりました。


 もちろん、それが、初夏の、この山であることは、一目瞭然です。


 たくさんの、カップルたちがいます。


 新しいのもいれば、かなり、年季の入ったらしき人たちもありますが、みな、一様に幸せそうでした。


 はっきり言って、わたくしには、縁のないことなのです。


 あなたが、心霊写真など、信用するかどうかは、分かりませんが、わたくしは、まったく場所にはそぐわない姿にうつるでしょう。


 でも、もうひとり、どうも、怪しい雰囲気の方がいます。


 それは、この、おじいちゃんが、まだ

若かった姿であるとみて、間違いなさそうでした。


 なにかを、探るように、なにかの災害を恐れるように、やや、ふらふらと、歩いています。


 そこに、頂上の方から、つまり、いま、わたくしたちがいる、この屋根がある展望台のあたりから、仲よく降りてくる二人がありました。


 彼は、小太りで、あまり二枚目とは言えないですが、彼女の肩を抱きながら歩いてきたのです。


 そこに、若いおじいちゃんが、鉢合わせになりました。


 『ぼくは、彼女と、お付き合いしていました。はっきり言って、そう、大したことではなかったのです。まだまだ、可能性は沢山あったはずでしたが、恋愛経験がなかったし、臆病なものだから、慌ててしまったのです。彼は、5つほど年下ですが、職場では先輩でした。』


 『彼女も、同じ事務所に勤めていました。

まあ、よくあるパターンですが、彼は女性の扱いがうまく、歯が立たなかったのです。でも、それは、ぼくの視点であり、彼女は、また、慎重に見極めていたのかもしれませんし、すでに、勝負あり、だったのかもしれないけど、それが、どうしても、勝ち負けのようなことになったのは、まあ、世の習いです。』


 なるほど、やはり、おじいちゃんは、わたくしの声が聞こえているのではないかと、思いました。


 おじいちゃんには、その、前後のできごとは、知るよしもなく。


 それは、堪られなかったとは、思いますよ。


 まして、毎日、同じ事務所に、いるとなれば、考えただけでも、ぞっとしますよね。


 それは、トロピカル・カラーの、原色映画みたいに見えました。


 でも、また、あたりは、いっぺんに、暗やみに閉ざされたのです。


             🌺


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