第59話 12歳で逆張り(?)してみた
自分のエッセイを見直していたら、一つ思い出しまして。今回はそのお話を書いていこうと思います!
まぁ今回のエピソードはひねくれ者という訳ではなく、たまたま自分が周囲から浮いてたって話なんですけどね。中学受験の時の話です。
中学受験の場合、筆記試験と併せて面接試験が課される場合があります。小学校や幼稚園受験と違って保護者同伴ではないんですけどね。最も重要なのはもちろん筆記試験の成績とされていますが、面接試験も自分一人で臨む分、それなりに緊張する試験です。
落ちたA中学は面接の内容など1ミリも覚えていないので笑、受かったB中学の話をします。といっても、こちらも覚えている質問はたった一問だけなのですが。
ヒーターにあたって廊下で順番を待っていた私は、しばらくして部屋に通されました。部屋には三人の偉い感じの先生方。
中盤、こんな質問を投げかけられました。
「水無月さん。例えば、水無月さんは、ある委員会に立候補したいと思ってたとします」
「はい」
「でもクラスの中で、その委員会に入れるのは二人だけです。水無月さんを含めて今、立候補者は三人います。この時、あなたならどうしますか?」
「(少し考えて)私は他の二人に譲ります」
「ほぉ、譲るんですね。どうしてですか」
「私が譲れば丸く収まるし、またやれる機会があるかもしれないので譲ります」
「……そうですか。ではこれで面接を終わります」
「あ、はい」
こんな感じで面接が終了しました。
そのまま保護者の待合室に案内され、タクシーで爆走してきた母と再会しました(『悲しみと安堵のソーセージパイ』参照)。
母は試験の様子をとても気にしていて、「国語はどうだった?」「算数は?」「面接は?」と矢継ぎ早に質問してきました。まぁそりゃ、朝本命のA中学落ちて泣きじゃくってご飯もまともに食べずB中学に出陣したのですから、気になるのは当然です。
私は頭の中を整理しながら、一つ一つの質問に答えました。面接についても、先ほどの委員会の立候補どうしますか問題について、自分の受け答えを含めて話したのです。
ちなみにこれを話しているのはB中学から駅までのタクシーの車内で、私の話を聞き終わると「譲るって答えたの?!」と母は天を仰ぎました。そして運転手さんに断りを入れて、小声で父に電話をしました。『今受験終わった。明日も受験しなきゃかも』と。
私は直感というか、いつもそうしてきたので「譲る」って答えたんです。でも受験のような競争時には「私が立候補する」って言った方が良かったみたいで……。私は(そうか、お母さんがこの反応なら私はきっと落ちたな)と悟ったわけです。
車内の空気がどんよりした時、声をかけてきたのはタクシーの運転手さんでした。
「お母さん、大丈夫ですよ。娘さんはよく頑張ってきた。信じてあげてください。きっと合格してますから。ねっ、大丈夫だよ」
母は目にうっすらと涙を浮かべながら、「ありがとうございます」と何度も運転手さんに頭を下げました。私も「ありがとうございます」とお礼を言ってタクシーを後にしました。
その後、家のリビングで合格発表を見て、また母は涙したわけです。一人娘の初めての中学受験で、母もすごく緊張していたのかもしれません。
で、晴れてB中学に入学して、私には友達ができるのですが……
「やぎちゃんはあの面接の質問、なんて答えたの?」
「え、『譲ります』って」
「えーっ! その答えで受かってる人初めて見たんだけど!」
そして母にもママ友ができるのですが……
「私の娘も、『絶対譲りません。私がやりたい委員会なので』って強く言い切ったらしいのよ。あの意志の強さが良かったのかしら。で、水無月さんとこのやぎちゃんは?」
「あ、私の娘は、『譲ります』と言ったみたいで……」
「あらやだ、それで受かるなんてすごいじゃない。初めて聞いたわ。やぎちゃんって優しい娘さんなのね」
「はぁ……」
結局、受かった人で「譲ります」と答えた人間は知る限り私だけだったようです。何という逆張り!笑
私の入学した学級は少し特殊で、帰国子女が多いクラスでした。受験は帰国枠と一般枠に大別されます。
全員ではありませんが、自己主張の強い生徒が多くなることが明白なクラスです。海外経験のない子どもに対しても、一定の主張性を学校は求めていたのかもしれません。
「まぁそんな中あんたが受かったってことは、一人くらいはバランサーが欲しいってとこだったのかもね」
「私一人の役目が重すぎる」
「あんたはあんたらしくいればいいのよ」
母はそんな解釈をしていました。
私も中高の学生生活を振り返ると、それはあながち間違いではないと思っています。
……まぁ私も、そこそこ自己主張強くなりましたけどね。笑
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