第53話 ピザ屋との死闘
前々回、私が愛用中のMac Book Airを製造されているアップル様に対して、無礼を働きそうになった事件をお話しました(『りんごを裏切りそうになった件』参照)。
今回は同様の、アルファベットに関する事件簿をもう1つお話しようかと。
ある日、家族でピザのデリバリーを取る時がありました。
我が家は結構アナログ一家というか、個人情報がどーのこーのと言ってインターネットを敵視しているような部分もあるので笑、デリバリーの注文も電話一択です。まだUber Eatsも誕生してなかった時でしたし。
特にお祝いとかでもなかったのですが、我が家には一定の周期で「ピザ食べたい。いや、もはやピザしか受け付けない」って日がやって来ます。あの時もその周期がバッチリと当たった日でした。
いつも通り、母が電話をかけます。たまに郵便受けに入っているメニューを使って、注文するものに丸をつけ、順番に読み上げていき……ついに料金を教えてもらう段階に入ったようだな、とリビングで様子を窺っていた私は思いました。
「はい、はい……◯◯円ですね。分かりましたぁ……って、あ!!」
何やら慌てふためく母。
ピザメニューをひっくり返し、何かを必死に探しています。
「言い忘れてました! クーポン! クーポン使います!」
多分Mサイズ2枚ご注文で5%オフとか、そういうものでしょう。メニューには切り取り線のあるクーポンがついていて、下にクーポン番号が書いてありました。英数字が混じったものです。きっと電話越しの店員さんは、その番号を伝えるようにお願いしたのでしょう。
「えっと、PZ1897CVです」
「……はい。あ、最後違う」
どうやら、最後のVがうまく伝わっていなかった様子。
ここから母とピザ屋の死闘が繰り広げられることになるとは、予想もしていませんでした。
「あー、違う。ABCの方じゃなくて、アルファベットの最後の方!」
「ううん。えっと……ヴィクトリアのV! 勝利のヴィクトリアのV!」
それを言うなら
「えーっ、違う違うっ! あのぉ……ほらぁ……えっとぉ……サインはVのV!」
はぁ?!
「えーもうっ、何でかなぁ。えっと……あ! そうそう! Wの半分!」
半分とは。
「半分だってば。ほら、Wあるでしょ? それを半分にしたやつ。えっ、分かんない? そんなぁっ!」
多分分かんないと思うよ、お母さん。
「ヴィだってヴィ! ヴァヴィヴのやつ!」
発音でねじ伏せようとした母。多分最初の方のヒントよりさらに分かりづらくなってるのでは……。
「あーっ、そうそう! じゃあよろしくね!」 ガチャ。
え、今ので通じたん?!
やっと電話が終わり、少々疲れた様子の母が私に言いました。
「もう、あのピザ屋のお兄ちゃん、Vが全然伝わらなくて困ったわよ。ヴァヴィヴのヴィって言ったら、やっと『あぁ! VサインのVですね! VWXYZのV!』って伝わって。もう疲れちゃった」
「それは、お疲れ様……」
最初からアリナミンVのVで良かったのでは、と思いますが、肝心な時ほど言葉が出てこないのが人間というもの。母はあの手この手で、ピザ屋の兄ちゃんとの約5分間にわたる死闘を闘い抜いたのでした。
まぁ、元から母はたまに謎のワードチョイスをする人です。
小さい頃から私に様々な注意をして叱ってきた人ですが、「みだりに◯◯しない」と言うのをいつまでも「淫らに◯◯しない」と言っているのに気づいた時には、びっくりしました。外でもかなりこの言葉で注意されていたので(素行が悪かったわけじゃないですよ。厳しかっただけです)、私はかなり淫乱な娘なのかと周囲に思われたかもしれません。笑
とにかく、人様に正しく伝えるというのは大変なことなのだな、と痛感した出来事だったのでした。
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