第41話 脳がマイケルに支配されてた話(受験その3)

 今回は一応、受験シリーズの最終回です!

 試験後に「できた!」と自信満々の顔で親に伝えたのに、翌朝にあっさり落ちていたA中学のお話でもしましょうか。笑



 A中学は国語と算数に加え、社会と理科も受験科目となっていました。

 塾で社会と理科を学び始めたのは確か小学5年生の後半か、小学6年生になってからだったような記憶。まずは苦手だった算数からどうにかしましょうということで、しばらく国語と算数だけを強化していました。そのため、社会と理科のスタートダッシュは他の子達よりもかなり遅れていました。

 理科は計算があるので苦手意識がありましたが、社会は日本史が含まれるので楽しく学ぶこともできていました。戦国時代に関しては歴史まんがも読んでいたし、時には小学校の図書館で世界の偉人についての歴史まんがも、自ら借りて読んでいました。特にマリー・アントワネットが何故だか好きで、よく読んでいた記憶があります。



 ここで少しだけ、脱線しますね。



 私、マイケル・ジャクソンが好きなんです。彼の歌声や魅せ方は、まさにエンターテイナーそのもの。ブラックミュージックを全米、そして全世界へ瞬く間に広げていった立役者だと私は思っています。

 私がマイケルに興味を持ったのは、父親がきっかけです。彼は洋楽が大好きで、彼の青春時代を彩る代表的な洋楽をいつも聴いていました(年代がバレないように、具体的な名前は控えます笑)。父親の部屋には1000枚くらい収納できそうな大きなCDケースがあり、そこにビッシリと英語タイトルのCDが敷き詰められていたのです。休日には、父親の部屋や車の中で常に洋楽が流れている、そんな幼少期を過ごしました。私が母親のお腹の中にいる時もずっとそうだったようです。そのためなのか分かりませんが、今でもいくつかの曲を聴くと、生まれる前から知っていたような、ある種の懐かしさを覚えるものがあります。


 マイケルの曲全てを知っているわけではないのですが、私が特に好きなのは


『Man In The Mirror』

『Smooth Criminal』

『For All Time』

『Earth Song』

『P.Y.T.(2008 remix)』

『Human Nature』

『I Just Can't Stop Loving You』

『This Is It』


 あたりでしょうか。脳内再生しながら選んでいたら、8曲も挙げてしまいました。

 基本的に転調したり、マスクワイア的になったり、歌詞のメッセージ性が強かったり、彼の歌声が七変化したりする曲が好みです。

 彼が亡くなったのは2009年6月25日のこと。たった50歳でこの世を去ってしまいました。『This Is It』のコンサートは幻となり、もう彼の生の歌声や、新たな曲を聴くことも叶わない。それが私にとっては本当に悲しいことでした。まだ、人の死を受け入れることにあまり慣れていない時期でもあったので、大好きなアーティストの死を受け入れるのにも、少々時間がかかりました。今でも彼の歌声に魅了され、電車の中などで上記の曲に聴き入ることがよくあります。


 こんな感じで私は父親をきっかけとして洋楽に目覚め始めるのですが、人生で最初に好きになった海外アーティストがマイケル・ジャクソンだったということです。他にも好きな洋楽がたくさんあるのですが、彼らの名前を覚えるようになったのはもう少し後のこと。



 では、ここで話を戻しましょう。



 塾と家での猛勉強、そして束の間の息抜きとしてマイケルの曲を聴いて過ごすうちに、あっという間にA中学の受験日がやってきました。

 国語、算数とやってきて、手応え的にはそこそこ良い感じ。特に算数はきっと合格ラインに届いてる。そう思いながら、(でもまだあと2科目残ってるし……)と思って社会と理科の参考書を開いてお弁当を食べました。


 そしてやってきた社会の時間。この学校はただ知識を問うだけでなく、データや図表から推測して答えさせるような問題も多く含んでいました。時には(分かった!)と鉛筆をカリカリ動かし、時には(うーん)と悩んで鉛筆を止め、と繰り返しながら、最後の問題にたどり着きました。


 さてさて、最終問題はどんなものかな?



 問 (1) 『レ・ミゼラブル』を書いた作者の名前を答えなさい

 問 (2) 『レ・ミゼラブル』の主人公の名前を答えなさい



(え)


 ここで鉛筆の動きが完全にストップ。

 最後の最後に知識バリバリの問題を出してきたのです。

 中学受験で社会といえば政治公民と日本史、と思っていた私に、突如世界史的な問題が立ちはだかってきました。


 まず『レ・ミゼラブル』って何の本? 何て意味?(当時12歳なので……)

 うーん。どっかでやったっけこれ……。私の準備不足? ド忘れ?


 脳内は大パニック。

 でもたった1つだけ、分かっていることがあります。


 そう、本のタイトル的に、作者と主人公はきっと外国人なのです。まさか『実是羅武流ミゼラブル』って和書ではないだろう、くらいには頭は回転していました。


 そうか、外国人の名前を書けばいいんだな。

 なんか良さげな外国人の名前……名前……外国人……ガイコクジン……


 そしてこの時私の頭に、1つの名前が降ってくるのです。ちなみに私はこの時、自分のことを天才だと思っていました。笑

 嬉々として回答欄に書き込んだのは——


 問 (1) マイケル

 問 (2) マイケル


 とりあえずどっちかは合ってるだろう! と思って、両方に唯一知っている外国人の名前を書き込んだのでした。



 あっさりA中学に落ちた後、私はふとこの問題の答えが気になって調べてみました。

 『レ・ミゼラブル』の作者はビクトル・ユーゴー。主人公はジャン=バルジャン。フランス文学の代表作の1つであることと同時に、マイケルなんて奴は作中に一度たりとも登場しないことを知ったのでした。せめて「ミッシェル」とでも書いていたら、多少はフランスっぽくなっていたのかもしれません。


 この後しばらくの間、私は「A中学に落ちたのは間違えてマイケルと2連続で書いてしまったせいだ」と家族に言いまくるのですが、多分もっと根本的な所で点数を落としていたんだと思います。まぁ、フランス文学も知らず「マイケル」と筆圧濃いめで書くようなバカは入学に値しないです、普通に。笑



 あれから時が経ち、世界にはマライア・キャリーやジャネット・ジャクソン、アリアナ・グランデ、ジャスティン・ビーバー、ショーン・メンデスなどなど、たくさんの名前があることを学びました(今更)。


 外国人の名前はマイケルだけだと思い込んでいたあの時の自分を、笑顔で張り飛ばしたいと思います。



 そして最後に。


 どんなことがあっても、受験は後で人生の糧になります。

 マイケル事件のように笑い話になることも、ソーセージパイ事件のように自分を支えることもあるかもしれません。

 とても辛くて厳しい道のりだけど、止まない雨はないのだから。


 どうか、受験生の皆さんに桜が咲きますように。

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