第40話 悲しみと安堵のソーセージパイ(受験その2)
前回、受験絡みで塾への2000m爆走事件をお話したので、今回も受験絡みのお話をしようかなと思います! タイトルに「ソーセージパイ」とあるように、グルメも関連するお話です。
あれは、中学受験本番でのことでした。
私はA中学を第一志望、B中学を第二志望としていました。両方の説明会に足を運んだのですが、個人的には校風や制服の可愛さから、A中学に行きたい気持ちが強くなってしました。
ただ、A中学は私にとって、かなりのチャレンジ校。塾ではあのキテレツ先生のもとで何とか少しずつ学力を伸ばしていたものの(『ラーメンとお魚の先生』参照)、最後の壁のようなものが私に立ちはだかっていることを、幼ながらに自覚していました。
春休みも夏休みも冬休みも猛勉強して、算数は過去問でもできる問題が増えていき、国語もじわりじわりと偏差値が上がってきていました。社会や理科も受験科目でしたが、とりあえず国語と算数の完成度をある程度高めた自信があったので、この2教科で実力が出せればチャンスが見える、そんな感じで運命の2月1日を迎えたのです。
当日、緊張もありながら、適度なアドレナリンが既に放出された状態で目が覚めました。参考書を開きながらご飯を食べ、いざ出陣。塾の先生方に「頑張れよ〜」などと声をかけられる、あの光景の中を通って行ったわけです。
結論から言うと、隣の席の子がすごい剣幕というかオーラを放ちまくっていて、最初は鉛筆を持つ手が震えました。お弁当の蓋を開ける手も震えました。笑 彼女の鉛筆のカリカリ音が本当に怖かったんですよ。
でも算数は今までの過去問演習と比べても1番解けた自信があって、国語も頑張れた達成感がありました。社会と理科は自分でも出来がよく分からなかったのですが、試験終了と同時に、ある種の開放感と期待感が私を包み込んだのです。
試験が終わって校門まで戻ってきた時、母親が出迎えました。
「どうだった?」
「できた! と思う!」
この時の私の瞳は、
この日受験したA中学の合格発表は翌朝。そしてその日に、B中学の受験を控えていました。
きっとB中学は大丈夫だと思う。まずはA中学の発表を待とう。そう思って眠りにつきました。
しかし翌朝——
「やぎ、おはよう。聞いて」
「ん?」
「A中学、落ちてた」
「…………!!」
目覚めと共に両親から伝えられたのは、絶望的な報告。
そんな、そんな。
あんなに今まで頑張ってきたのに。
大好きだったバレエを辞めて、友達と遊ぶことも我慢して、一時期は塾のトップクラスで神経削る思いしながら勉強してきたのに。
その成果が、昨日の算数の本番で発揮できたはずなのに。
こんな思いが一気に去来して、私は朝一番で泣き崩れてしまいました。これまでの12年間でいくつかの悔しいことは味わってきましたが、このA中学に落ちたことこそ、人生最初の大きな挫折だったのです。
ちなみに、B中学の受験前にA中学の合否を子どもに伝えることに賛否あるかもしれませんが、私の性格上、事前にショッキングなことを伝えないとB中学の受験に本気で取り組もうとしない可能性があったため、事前報告をしたそうです。
ただ、私の悲しみは両親の想像を遥かに超えていました。きっと両親は、(A中学は奇跡が起きれば受かるかも)くらいに思ってたんでしょう。一方私はガチのガチだったわけです。笑
いつもは食欲旺盛な私が、その日の朝はゼリー飲料しか受け付けず。しかもそれも半分くらいしか飲めず。朝の摂取カロリー50kcalほどの状態で、B中学に向かったわけです。
B中学は国語と算数のみで、長い休憩はありませんでした。保護者は校内の待合室で待てたらしいのですが、この間に母親は(あの調子じゃB中学も絶対に落ちる。でも他の願書持ってないや……急いでC中学とD中学に行かなきゃ)と思い、試験中にタクシーでC中学とD中学へ爆走したようです。
試験中も私は机に突っ伏しながら試験問題を解くという大失態。試験監督の先生に、「大丈夫ですか?」と2回くらい声をかけられました。よほど顔色も態度も悪かったのでしょう。笑
ですが、超チャレンジ校のA中学レベルの問題と常に格闘していたので、ブドウ糖が極端に少ない状況でもB中学の試験問題に取り組むことができました。算数は無双できた記憶。笑
B中学の受験も終わり、電車でターミナル駅まで帰ってきました。そこにはスターバックスがありました。母親がポツリと言いました。
「やぎ……お母さん、お腹空いちゃった。家まであともう少しあるから、スタバ寄らない?」
「うーん……お腹、空いてない……」
「嘘でしょ」
2時間近くの試験を受けて脳を酷使したはずなのに。この日の摂取カロリーわずか50kcalなのに。お腹空いてなかったんです。どんだけショック受けてたんだろう。笑
しかし母親は空腹に耐えかねて、まず店の外で私にスポーツドリンクを少々飲ませてからスタバに私を連れて行きました。ただ、そこでホットスナックのケースを見て、私はふと思ったのです。
(ソーセージパイ、美味しそう)って。笑
そして飲み物とソーセージパイを頼み、席につきました。
温め直してもらったソーセージパイを、パクリ。
パクリ、パクリ。
パクリ、パクリ……パクパクパク。
サクサクサクサク。
奇跡です。
完食できたのです。笑
朝の50kcalだけで午後受験して、なんと18時くらいまで何も食べなかった体は、実はソーセージパイを激しく欲していたのです。完食した後、初めてホッと息をつくことができました。(あぁ、自分よく頑張ったな)って。
あの時のソーセージパイの温かさ、サクサクした食感、指に少し残った油。
あれは生涯、忘れることはないでしょう。
その後、帰宅しました。母親からC中学とD中学の願書を急遽取り寄せたと聞き、再び試験対策をしていたら、その日の夜のうちにB中学の合格発表時刻がやってきました。
「うわぁぁぁぁぁっっ!!!」
リビングから母親の声がしたので行ってみると、そこには私の受験番号が。
1日遅れて、桜が咲きました。
その瞬間、開いていた参考書を全て閉じました。もう嬉しいとかより先に、(地獄みたいな受験勉強をやめてもいいんだ)という安心感がどっとやってきました。笑
当時のB中学で私が受験したのはちょっと特殊で(特別な学級専用試験だったので)、一般受験では20名が定員でした。そこに集まった当日の受験者数は約180名。9倍の倍率を、あの人生史上最悪のコンディションで乗り切ったのです。我ながら感心しました。笑
1日にA中学を受験した後の、一時的な高揚感。
翌朝、奈落の底に突き落とされた絶望。
投げやりな気持ちと、もう落ちたくない気持ちの葛藤。
2日目で報われた時の、大きな大きな安堵。
この2日間で、感情がジェットコースターのように変化していました。ちなみに合格が分かった後はケロっと食欲が戻り、摂取し損ねた栄養をガッツリと回収したのでした。体と心って、本当に密接に繋がってるんですよね。
あれ以来、スターバックスでソーセージパイを見ると、ちょっと泣きそうになります。
人生初の受験と挫折でボロボロだった私を、そっと支えてくれた救世主。
今でもソーセージパイは、スターバックスで1番好きなスナックです。
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