第34話 アイドルの居場所(その3)

 今回は、居場所シリーズのラストです。テーマはこちらについて。


 ③我々ファンにとって、アイドルはどこにいるのか?


「どこにいるのか」という表現はちょっと微妙ですが、まぁファンの人生にとってのアイドルの立ち位置、みたいに思っていただければ良いかなと思います。

 今回は、一応私の専攻である心理学の話とも、少し絡めていきますね。アイドルって、心理学的に見ても、結構大事な存在だと私は思うんです。




 まず、急に個人的な話ですみません。


 私にとってアイドルとは、必要不可欠な心の支えです。


 辛い時も悲しい時も、病める時も健やかなる時も、推しの供給を得ることで、私は日々を生きていくことができています。

 人からめっちゃひどいことを言われてさすがに凹んだり、あまりに多くのタスクが一気に降ってきてパニックになったり。そんな時、ただただキラキラして画面の向こうにいてくれるアイドルは本当に本当に救いになります。


 また、私は1人でテレビや雑誌を見ながら、「やっぱり藤ヶ谷さんイケメンすぎる。美しすぎる。尊すぎる。テレビで見てたら画面割れるくらいの威力持ってる。横顔は国宝レベル。ずっと間近で見てたいレベル。彼がホモ・サピエンスで良かった(以下略)」などと、ブツブツ呟いているのが好きです。笑 常に推しがいることで、恋人がいなくても胸キュンを味わい続けることができるわけです。恋人欲しいけども。笑


 嫌なことがあったら、自分を慰めるためにアイドルを見る。

 嬉しいことがあったら、自分へのご褒美としてアイドルを見る。


 別に友達でもないし、知り合いでもない。

 何かあった時に声をかけてくれるわけでも、話を聞いてくれるわけでもない。

 でもただそこにいるだけで、不思議と私の涙は乾き、口角が少しずつ上がっていく。魔法みたいな存在ですよ本当に。笑


 アイドルはもはや、私にとっての立派な精神安定剤となっています。

 そして文字通り、私はKis-My-Ft2というアイドルを崇拝しているのです。笑



 このように、アイドルを心の支えと捉えているファンは実に多いことでしょう。



 例えば、子どもを見るような感覚で応援しているファンもいるでしょう。

 実の子どもが成長し、やっと手が離れてきた頃の人々。子育ての目まぐるしさから解放されたはいいものの、彼らには「子離れ」という、新たなライフイベントがやってきます。

 ここで子離れに躊躇しすぎると、子どもによっては「もう、うるさいなぁ」、「干渉してこないでよ」などと言われてしまうこともあります。そして子どもが進学や就職、結婚などで親元を離れた時、一定数の親に「からの巣症候群」が起こるのです。「空の巣症候群」とは、子どもが自分の手から離れていくタイミングで、親が抑うつや不安を感じやすくなる状態を指します。


 そんな時、アイドルは彼らの心の隙間にそっと寄り添う存在となるのです。


 子どもと同い年のアイドルのめざましい活躍を見ることで、抑うつや不安に注意を向ける時間が相対的に少なくなります。また、応援すればするほど推しの活躍の場が広がっていく経験が、かつて手塩にかけるほど可愛く育った子どもとリンクすることもあるのかもしれません。さらに言えば、アイドルにハマることで、「若者文化」に触れることができます。物理的距離の開いた子どもとの共通の話題にすることも可能です。もっとファンの年齢が上になれば、「孫と話が合う」なんてこともあるでしょう。


 エリクソンという、有名な心理学者がいます。彼は青年期に自我同一性アイデンティティを確立することの重要性を唱えた人物です。青年期以外にも、乳児期から老年期の各ライフステージにおける自我の特性を提唱しています。

 子どもを見る感覚で応援するファンの年齢層は、エリクソンの言う「成人後期」及び「老年期」に該当します。成人後期の自我の特性は「生殖性」。ただ次世代を生み出すだけでなく、自分より下の世代の成長に喜びを感じる時期でもあるということです。また、老年期の自我の特性は「統合」。自分の人生をまるっと振り返る時期にあたります。自分より下の世代のアイドルを、自分の子育て経験や青春時代と重ね合わせながら本気で応援する姿は、生涯を通した自我の発達のあり方にも十分適している、というわけです。

 人間は自分を成長させるためにアイドルを推す、という見方もできなくはありません。笑



 またアイドルは、ファンの人間関係にも影響を与えます。



 同じアイドルを推す仲間ができてオフ会をしたり、一緒にライブに行ったり、DVDの貸し借りをしたり、番組の出演情報を共有したり。昨今は同じグループやメンバーを推す人々とSNSで簡単に繋がれますから、そうした意味で新たなコミュニティが簡単に生まれます。

 学校の友達とも、部活の先輩後輩とも、会社の上司部下とも、ママ友ともパパ友ともご近所友達とも違う関係。その中で互いに「やっぱり藤ヶ谷くんイケメンだよね」とか、「あのドラマのこのシーン良かったよね」とか伝え合い、共感し合うことで、個々の社会的欲求と承認欲求が満たされていきます。


 この欲求、なかなか侮れないものです。


 マズローという心理学者は、「欲求階層説」を提唱しました。生きるのに必要な低次の欲求から、自己実現を達成する高次の欲求までを5つのレベルに分けたのです。その中で承認欲求は上から2番目、社会的欲求は3番目に位置しています。

 まず同じ推しのコミュニティに入ることで、私たちは「受容された」と感じます(社会的欲求)。そして互いの感想を自由に言い合い、認め合い、「○○を推す」という共通目標のもとに、このコミュニティは存続していきます。その中で私たちはさらに、「私がいてもいいんだ」、「私が発言してもいいんだ」という、自尊心や自己有能感を高めていきます(承認欲求)。

 推し活コミュニティは自分の存在意義を見出す場ともなり、それによって他の行動に対するモチベーションが上がる可能性も大いにあるのです。ここまで行くと自己実現欲求となり、人間が持つ最も高次な欲求に辿り着きます。

 もっとも、人間関係にはトラブルだってつきものです。そのリスクとも上手に付き合っていくことで、アイドルは私たちの自己実現欲求にも寄与してくれることとなります。


 自己実現を目指せる段階にあるということは、生きることへの基本的な安心感が備わっているということです。それはつまり、精神的健康を意味します。

 アイドルが自己実現欲求に寄与しうるということはすなわち、アイドルが我々のメンタルヘルスに良い影響を与えてくれるということです。元気に生きられるの大事。




 まぁ、ですから、今まで根拠を示すためにアカデミックな話もしましたが、ここで綺麗に1周します。



 アイドルは、ファンにとっての心の支えなのです。笑


 自分が十分に成長して年を取っていく上でも、

 自分が自分らしく生きる上でも、


 アイドルは必要なんです。


 だから、崇拝したくもなるんです。



 アイドルなんて、高々エンターテインメントの一部でしょうに。


 そう思う人がいるのも、重々承知。


 だけど、たかがエンターテインメント。されどエンターテインメント。




 この世界に無駄なアイドルなど誰1人としていないのだと、私は胸を張って訴えたいのです。




 アイドルは! 人類を! 救います!

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