第32話 アイドルの居場所(その1)

 久しぶりに、またアイドルの話をしてみようかと。どんだけアイドル好きなん自分。まだまだ話題は尽きませんが、よろしければお付き合いください。


 今回は3回程度のシリーズで、「アイドルの居場所」について色々書いていきたいと思っています。具体的なテーマとしては、


 ①社会におけるアイドルの居場所とはどこか?

 ②アイドル自身にとっての居場所はどこなのか?

 ③我々ファンにとって、アイドルはどこにいるのか?


 といった感じです。今回は①について、お話してみようかなと。



 本当は②から話そうと思ったのですが、今緊急で話したいことは①なので、こちらを先に公開しようと思います。





 アイドルがアイドルとして生きていけるのは、所属事務所が彼らを支えているからです。そして、ファンが彼らを支えているからです。アイドルは、所属事務所にとっての稼ぎ頭。ファンにとっては夢であり希望であり、理想。そういう意味で、アイドルは常に必要とされています。


 では、もっと広い目で見た時、アイドルのニーズはどこにあるのでしょうか?


 アイドルが国民的人気を誇るようになればなるほど、アイドルはファンや事務所だけでなく、にとって大事な存在となります。


「いやいや、国なんてそんな大袈裟な」って思ったそこのあなた! こちらをご覧ください。


 実際、外務省は2012年、AKB48に対し、中国における「元気な日本」キャンペーンの一環として、「元気な日本」応援団への就任を要請しました。また2019年には、嵐を2020年の「日中文化・スポーツ交流推進年親善大使」に任命することを決定しました。

 アイドルはその知名度と人気が高まるほど、(言い方あまり良くないけど)外交を円滑に進めるためのツールとなるのです。また、例えばジャニーズショップを目指して海外からジャニーズファンが来るように、観光資源としても、アイドルの価値は非常に高まっているのです。


 ただそれは、裏を返せば、アイドルは人気が出るほど政治利用されやすい、ということでもあります。政府に認められたという“箔”はアイドル本人・ファン・事務所の全てにとって名誉なこととなるでしょう。ただそれは同時に、「国の顔として政府に忠誠を誓う」ことも意味すると、私は思うのです。


 ちょっと待ってください(急にどうした)。


 アイドルって、そんな立場でしたっけ……? 国家に左右されるような立場だっただろうか……。


 極め付けは、BTSが国連総会に出席し、スピーチをしたことです(急に韓国に話変わってすみません。笑)。

 ARMYアーミー(BTSのファン愛称)の端くれとして、国連出席は純粋に「すごい!」と思う部分もありました。ただ、彼らに外交官用のパスポートが配布されたこと、大統領直々に「未来世代と文化のための大統領特使」として任命されていることに違和感を抱いていることもまた事実です。


 スピーチの内容は、別に韓国の政治に関することではありません。彼らが先日の総会で話したことは、SDGsに関することです。さらに3年前の総会で話したのは、ユニセフとの共同事業に関することです。特に3年前のスピーチは、RMが自身の生い立ちと重ね合わせた内容をで語りかけ、反響を呼ぶものとなりました。


 ただ今年は、BTS全員がで渡米。さらに、世界共通語の英語ではなく、母国語であるでのスピーチ。何だか、どんどんどんどん、政府に近づいている気がするのです。代表曲『Dynamite』のYouTube再生回数が12億回を超え、兵役に関する法律まで変えてしまうBTS(変えたのは、BTS本人ではありませんが)。彼らの最近の居場所は、エンターテインメントというよりも、政界にあるのではないか? とも感じざるを得ません。



 このように、政治とエンターテインメントは時として、不自然なほどに近づく時があります。文化の発展という名目のもと、双方が距離感を見失っていくのです。


 政治がエンターテインメントを引き寄せているのか?

 エンターテインメントが政治を引き寄せているのか?


 どちらが真理なのでしょうか。


 今回、BTSに1曲分のパフォーマンスタイムを与えた国連。国際連合がエンターテインメントの力を借り、その権威を取り戻そうとしているのか。

 一方、アイドルの大手所属事務所は、親善大使などにするほどアイドルの存在を大きくして、政府の後ろ盾を得ようと引き寄せているのか。


 こう考えると、政治とエンターテインメントは時として、利害が一致するという妙な状況が起こっていることが分かります。このまま、特定のアイドルだけが政界にずるずると引っ張られ、利用されなければ良いのですが……。


 国策としてアイドルを利用する、それは1つの方法としてアリだとは思っています。ただ、何年も連続して関係を持つというのは、やはり一考すべきだと思うのです。文化の世界で自由に生きてきたアイドルが、突然政府の枠内に収められてしまう。これがきっかけで、政治が文化界に懐柔かいじゅうする可能性もあります。行きすぎると、それは国営の文化運動となり、国民の意思を全く反映しないものとなるのです。いわば、民主主義から遠ざかっていってしまう危険性があるわけです。



 さて、ここで、あえて断言しましょう。


 アイドルはファンのものなのです(事務所のものであることは分かってる笑)。


 アイドルは政府のものではないのです。傀儡かいらいでも、マリオネットでもないのです。


 社会の中で、アイドルは「文化」の枠組みとして活動するべきで、「政治」に何度も何年も足を踏み入れすぎるのは、互いの境界を過度に無視していることになるんじゃないかと思います。

 社会におけるアイドルの居場所は、「文化」の領域にあるはずなのです。



 ◇



 最後に、ちょっとだけ妄想してみましょう。


 もし、もしキスマイが、さらなる飛躍を遂げて、悲願である国立競技場のライブを行って、アジアツアーなんかもやって、嵐並みの大きなグループになったのなら。国策の1つとして、政府に必要とされる日が来たのなら。霞ヶ関の会議室で、その名が上がるほどになったのなら。


 こんな嬉しいことはありません。国の顔になるのですから。


 でも政府に力を貸したとしても、また必ず、俺足族おれあしぞく(キスマイのファン愛称)の元に戻ってきて欲しい。私達の手が届く所で、海外に誇れる日本のアイドル文化の1つとして、活動を続けて欲しい。文化界の中で、自分達の表現を純粋に追い求め、生きていって欲しい。


 とまぁ、そんな妄想を、1人でぼんやりと抱き続ける日々です。笑

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