第13話 アイドルとは何か(その3)

 これまで2回にわたり、Kis-My-Ft2と松井玲奈さんを取り上げて、個人的なアイドル論を熱弁(?)してきました。私のドルヲタっぷりが盛大にバレましたね。

 でもファンの考察を聞かされても飽きると思うので笑、今回で一旦最終回にします。


 最終回は、アイドル論の総括です。昨年「縄跳びダンス」でブレイクし、デビューから史上最速で紅白歌合戦に出場したアイドルグループ・NiziUと、彼女達を発掘したJ.Y.Parkことパク・ジニョン氏(以下パク氏)を題材にお話しようと思います。お話する前に、これは一個人の見解であり、「これがアイドルの全てだ」と押し付けるつもりは毛頭ないことをお断りしておきます。



 2019年、TWICEや2PMを世に送り出した敏腕プロデューサーのパク氏が、新たなプロジェクトを立ち上げました。それがNizi Projectです。通称・虹プロのコンセプトは「世界で活躍できるガールズグループを生み出すこと」でした。

 日韓共同プロジェクト、しかもあの有名なJYP Entertainmentの代表が自らオーディションを開催するというのですから、K-POPに憧れる女の子達は大変驚き、またこの千載一遇のチャンスを掴みたいと強く願ったことでしょう。日本の各都市、アメリカの2都市で行われた地域予選には、1万人以上が参加したようです。そこから東京合宿メンバーとして26名、韓国合宿メンバーとして14名が選抜され、最終的に合格した9名が現在NiziUとして活動しています。


 このプロジェクトは日本テレビの『スッキリ』やhuluで逐一放送され、選考の段階が進んでいくごとに反響は大きくなっていきました。デビューメンバーが決まった時には泣いた視聴者もいるとかいないとか。

 正直に言うと私はK-POPには興味がなく(今は興味が出てきちゃいました笑)、NiziUもプレデビュー曲『Make You Happy』のヒットによって知ったので、まだ知識は深くありません。

 ですが、これまでお話したように私はそこそこダンス経験があるので、RIOさんやMAKOさんのダンス映像が流れた時、(これは無視できない存在が出てきた……)と本気で思いました。

 そこで私はNizi Projectの動画を片っ端から漁って、NiziUについて学んでみました。すると、「現在求められているアイドルとは何か」がはっきりと見えてきたんです。でもこの考察は私以外にも色んな偉い人が既に言ってることと被ってるかもしれないので、軽〜く聞いてくださいね。笑



 パク氏がこのオーディションの参加者と初めて顔を合わせたのは、地域予選の3次選考の現場です。ここまで勝ち進んできた参加者の経歴は、実に様々。

 それこそ今回のオーディションの主催であるJYPの練習生だっていましたし、EXILEが持つダンススクールEXPGの元生徒やバレエの経験者、はたまた「歌もダンスも習ってはないんです!」なんて子までいました。

 パク氏は彼女達を1人ずつ笑顔で出迎え、エントリーシートを元に話を進めながら、ダンスと歌のレベルを確認していきます。


 Nizi Projectが他のオーディションと異なるのは、実力や才能だけでなく、まで評価することです。

 歌は私も素人ですが、動画を見ていて、ダンスは「この子は習っていないな」とすぐに分かることもありました。無論パク氏も見抜いています。ですが彼女にのびしろがあれば、彼は空洞のペンダントを渡したのです。ペンダントとは、各都市で行われた3次選考の合格者に与えられる正方形のものでした。正直、私から見ると割とバンバン合格者を出しているように見えたくらいです。笑


 ただ、東京合宿の段階にまで進めば、評価もかなり厳しくなります。

 ここでは「歌」「ダンス」「スター性」「人柄」の4つが審査対象となり、一定の基準に達すればそれぞれのキューブが与えられ、4つ全て揃うと、あの3次選考合格時にもらった空洞のペンダントが綺麗に埋まるという仕組み。なかなか粋なことしますよね。笑

 しかしこの審査、一筋縄ではいきません。十分に実力があるのに総合順位で振るわない子もいれば、類まれな才能を惜しげもなく発揮し、パク氏だけでなく他の参加者の心まで奪ってしまう強者も登場。

 反応が読めないのは参加者だけではなく、パク氏がその場で下す評価もです。例えば東京合宿でEXPG仕込みのダンスを魅せ、参加者の度肝を抜いたRIOさんは、こんな言葉を投げかけられました。


「あなたはダンサーに見えました。(中略)歌手とダンサーは、別の仕事です」


 これは褒め言葉ではありません。キツく言えば、「今の状態ならアイドルにならなくて良い。ダンサーになれ」と言ってるようなものなのです。


 パク氏が全員に対し、一貫して伝えていたのは「相手を意識して踊ること」「話すように歌うこと」でした。

 極論を言えば、その誠意のようなものが伝われば、技術が伴っていなくてもチャンスを与えたのです。「技術は後で教えられる」、パク氏はそう言いました。


 はぁぁぁなるほど!!! って思いました。

 オーディションの概念が覆されたというか。

 少なくともパク氏にとってのオーディションとは、審査員に才能や実力を見せつける場所ではなくて、だったのです。

 そりゃ若いんだから、技術がまだ粗かったり、既存のアーティストの真似事になってしまったりなんて多々あります。でもその顔で、声で、表情で、体型で、身体で、可能性を感じさせるのなら、プロデューサーもきっと楽しいですよね。下手に技術ばかり磨いて考えが凝り固まっている子よりも、柔軟に受け入れていける子の方が、新たなファンを獲得できますし。


 大抵、事務所は“即戦力”を求めます。オーディションやコンテストでダイヤの原石を探し出しますが、素早くダイヤになれる子が欲しいのは当たり前。だから既に完成された子が発掘されることもままあるように感じられます。

 しかし、今回のパク氏の態度からは、「可能性を第一に吟味し、ある程度時間をかけて育てる」姿勢が見られました。天下のJYP Entertainmentですから訓練はタフなものになるでしょうが、アイドルのプロデュースにしては丁寧さがあるように思いました(私だけかな?)。


 だから、今及びこれからのアイドルに求められるのは、多分“可能性”です。

 今までは美貌とか痩身とか、英才教育(?)で磨かれたスキルとか天性のものとか、それが価値基準だったと思います。でもそうして世に送り出されたアイドルはごまんといるわけで。

 だから、飽和状態の芸能界に一石を投じるとしたら、キーワードは“可能性”になるんじゃないかと。


 話が変わりますが、ジャニーズも体制変更を迫られています。

 創設者のジャニー喜多川氏が逝去し、威光を失いつつあるなんて声も。滝沢副社長は条件付きでの22歳定年制を提唱し始めましたからね。まぁ、婉曲的なリストラに踏み出したわけです。

 それでも残る、あるいは事務所が残したいと思う人材はやはり、“可能性”のある人。それは人柄かもしれないし、頭脳かもしれない。

 とにかく、従来のアイドルにはない“何か”を積極的に探そうとしているように、私には感じられます。Nizi Projectは、そんな気づきを与えてくれます。


 もう1つ、Nizi Projectが教えてくれたこと。それは世間への見せ方です。

 単刀直入に言えば、結果ではなくを見せるようになりました。Nizi Projectでは、オーディションの様子を逐一、メディアを通して世間に公表していたのです。デビュー前の秘蔵映像がデビュー後にチラッと放送されるケースはままありますが、今回のように選考過程自体を長期間見せる試みは、まだまだ新鮮なのではないでしょうか。

 まぁこれは、パク氏が公正なジャッジをしたかどうか、その透明性を担保するための手段と考えられなくもありませんが、この過程が進む度に一定数の視聴者が熱狂したのは事実です。過程を見たからこそ、人々はそのグループの全てを知ったような、端的に言えば親のような気持ちでデビューを見届けられたのです。


 急に鮮烈デビューを果たして「誰?」ってなってからみんながスマホで調べ始める、というのは、売り方として既に遅いことをNizi Projectは示しています。何でもなかった女の子達のシンデレラストーリーとして全て見せちゃった方が、デビュー前に固定のファンもつくし、彼女達もモチベーションが上がって一石二鳥。だから昨年12月のデビュー前に、わざわざプレデビュー曲として『Make You Happy』をリリースしたんだと私は踏んでいます。笑


 この世間への見せ方、に関しては、前回までにご紹介したジャニーズや48グループでも同じことが言えます。

 オーディションこそブラックボックスではありますが、ジャニーズにはJr.の制度が、48グループには研究生の制度があります。本格デビュー前の本人達の葛藤、苦労、喜び、悲しみ、悔しさ。そんなものを洗いざらい世間に見せて、デビュー(あるいは昇格)という結果に加えて軌跡も味わう、そんな応援の形が今、メジャーになりつつあるのではないでしょうか。



 長々と語ってしまいました。以下、結論です。


 アイドルとは、実力や才能に加え、“可能性”を秘める存在である。

 アイドルとは、ゴールではなくスタートにもなりうる存在である。

 アイドルとは、輝きだけでなく時には泥臭さも見せる存在である。

 アイドルとは、結果のみならず過程も消費の対象になる存在である。


 アイドルがみんなにとっての偶像アイドルであるためには、遠すぎちゃダメなんです。あまりに遠いと、それはになってしまう。

 実際には私達と同じ人間。でもどこか、私達にないものを光らせている人。それが真の意味でのアイドルだと、私は思います。



 ……なっが。笑

 ドルヲタの回顧録は、これにて一旦終了となります。アイドルについて語りたいことはまだあるんですが、日を置いてから話します。読者離れそうで怖いから。笑

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