第12話 アイドルとは何か(その2)

 今回は、松井玲奈さんについてです。第1話から何度か名前が出ていますが、今回が満を時してのご登場となります。笑


 女優・作家・youtuber、松井玲奈。

 アニヲタ・電車マニア、松井玲奈。


 彼女は色んな顔を持ち、マルチに活躍されています。女優としては朝ドラ『まんぷく』や『エール』に出演。作家としては『カモフラージュ』『累々』『ひみつのたべもの』を上梓。youtuberとしてはご自身の好きなアイドリッシュセブンや新幹線、ゲーム配信など趣味に振り切ったチャンネルを開設しています。

 そんな彼女を、なぜ私は好きになったのか。ちょっとお話させてください。



 きっかけは、10年ほど前です。当時放送されていた『週刊EXILE』で、ゲストにAKB48を迎えていた時でした。その際に総選挙の様子がチラッと流れて、10位だった玲奈さんを見ました。それは一瞬の出来事。その時に、私はハートをブチ抜かれたのです。抜かれたのではなく、抜かれ(以下略)。

 そうです。藤ヶ谷さんを見た時と同じ現象が起きたわけです(詳細は前話をご覧下さい)。


 今までなりたい女性像というか、外見がドンピシャで大好きな女性芸能人がいなかったのですが、彼女を見て確信しました。(あ、これが私の理想だ)って。

 私の憧れの顔は、言葉では表せません。タイプは玲奈さんです。玲奈さんこそが、私の中の理想をオールスターな状態で詰め込んだ、究極の美の完成形なのです。笑


 そこから私は程なくしてSKE48という、元々彼女がアイドル活動をしていたグループに辿り着きます。

 SKEもまた、キスマイと同じように、苦労の連続に見舞われていました。


 愛知はいわゆる「アイドル不毛の地」。そんな固定観念を覆すように作られた、AKB48初の姉妹グループ。その1期生に玲奈さんは選ばれました。先日卒業された、松井珠理奈さんも1期生です。6つ歳の離れた1991年生まれの玲奈さんと1997年生まれの珠理奈さんは、デビューから長らくWセンターを務めることになります。


 SKEの黎明期れいめいきに求められたのは、「愛知県のアイドル像」の確立と、「揺るぎないダンスの実力」でした。振付師さんがまぁ厳しい方だったようで笑、ダンスがちょっぴり苦手な玲奈さんは苦労されたと思います。ちなみに、彼女がパフォーマンス中に靴を飛ばすのはもはやお家芸でした。

 玲奈さんの同期として、弱冠11歳でSKEに加入した珠理奈さんは、突然本家AKBのシングル『大声ダイヤモンド』のセンターに選ばれ、古参のAKBヲタからは「お前誰」的な批判を一手に浴びることになります。大人達の都合であっちこっち行き来していた珠理奈さん。玲奈さんは、珠理奈さんの面倒も見ることになるわけです。

 そして1期生が何とかSKEを軌道に乗せ始めた頃、2期生、3期生と後輩が加入していきました。これくらいまで人数が集まると、チーム分けが行われます。チームS、チームKII、チームEの誕生です。その後もチームKIIの公演問題、黄金3期生の襲撃笑、組閣などなど数々の事件に巻き込まれていくわけですが、こちらはSKE48の『ファン公式教本』なるものに詳しく記載されているので、ここでは割愛します。


 玲奈さんがアイドルになったきっかけは、女優になるためだったようです。つまり彼女にとって、アイドルは“通過点”。電車ヲタ風に言えば、本線への乗り換え地点といった所でしょうか。彼女はSKEに青春を捧げ、公演等で舞台を学び、先輩・先駆者としてSKE48と兼任先の乃木坂46の素地を作り上げた立役者でした。卒業してもなお、SKEや乃木坂の後輩から慕われる存在であり、ファンも事あるごとに玲奈さんが古巣に戻ることを期待していました。しかし、彼女が古巣に戻ってくることはほとんどありませんでした。

 そう、玲奈さんにとってアイドルは全てじゃなかったのです。彼女はむしろ、早く頼りになる後継を育成し、元SKEのエースだという看板などなしで生きていきたかったんだろうと思います。その点では、元AKBの川栄李奈さんにも同じような印象を抱きます。

 ですから、玲奈さんが珠理奈さんと共に長らく務めてきたセンターがシングル『12月のカンガルー』で北川綾巴さんと宮前杏実さんに変わった時、玲奈さんの表情はどこかほっとしたようなというか、そんな印象を受けました。パフォーマンス中に盛大に靴投げるのは変わらないんですけどね。笑


 そして2008年のデビューから7年後の2015年8月、玲奈さんは最初で最後の1人センターのシングル『前のめり』をリリースして、卒業されました。

 今や、玲奈さんのファンの中には彼女が元アイドルであることを知らなかった人もいるようです。ドラマや映画への出演、『タモリ倶楽部』の電車特集での活躍、作家としての技量を見てファンになった方もたくさんいらっしゃいます。


 玲奈さんの特筆すべき点は、常に“今”を生きていることです。それを象徴する出来事が最近ありました。

 youtubeでのゲーム配信中、「この動画のサムネイル(キャッチコピー的なもの)をどうしたら良いか」と彼女はファンに問いかけました。ゲームの内容的に水の底から手が出てくる場面があり、ファン達は次々に「水中握手会」と提案します。ですが、コメント欄を見た彼女は言いました。


「私48グループの出身なんですけど、握手会はもうやっていないので。やっていたのが遥か昔……って言ってもまぁ6年くらい前なわけよ。だから……別にね、それのことを悪く言うつもりはないんだけど、今やっていないものをさ、そんな頻繁に出す必要はさ、ないと思わない?」


 彼女は元アイドルではなく、女優・作家・youtuberとしての松井玲奈を見て欲しいと、そう訴えたのです。

 字面だけ起こすと少し攻撃的な言い方にも見えますが、実際は彼女の柔らかい声を通していますし、「水中握手会」を提案してくれたファン達には、アイデアを出してくれたことの感謝と、自分がわがままであることの謝罪を直後に述べているので、ファンの反応も概ね好意的でした。


 彼女本人がSNSで伝えていますが、古巣に戻ろうとしない、また「握手会」の文言も多用しない彼女は、SKEが嫌いとか、過去を掘り起こして欲しくないとかではなくて、ただただ、というニュアンスを発し続けています。


 アイドルになりたい、そんな夢を持つ人もたくさんいるでしょう。


 でも、アイドルになれたら? その後は?


 私はファンとして、玲奈さんの視線の先を共に追っていくことが、彼女の願いに繋がると思っています。彼女は卒業シングル通り、『前のめり』に生きているのです(こうして絡めるのも、彼女は好きじゃないかもしれないけど……笑)。


 アイドルは通過点であり、線路の作り方を学ぶ場所。

 その先の長い人生の線路を作るのは自分だよ。


 松井玲奈という人間は、こんなアイドル像を見せているように、私には思えるのです。こういうアイドル像を見せている人は玲奈さんだけではないと思いますが、私は玲奈さんに、「今を生きること」の大切さを教わりました。そして今、私は彼女の著書を読んで、陰ながら表現の勉強をさせていただいています。玲奈さんからは学ぶものが多すぎます。笑


 それからSKE48の諸々は、拙作『Shake, Build, Blend, Stir』の中のCinderellaというお話でガッツリ使われているのですが、これは公開前なので、公開したら是非読んでみて下さい(宣伝入れてすみません。でも私のエッセイだから許して下さい笑)。


 次回は、個人的なアイドル論の総括をしようと思っています!

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