第10話 挨拶くらいはマルチリンガルで!

 今回は、国際交流についてお話しようと思います。

 割と前から、翻訳機能って目覚ましい発展を遂げていますよね。Google翻訳は毎日のようにお世話になっていますし笑、携帯型の翻訳機も販売されているじゃないですか。あれはビックカメラの店頭で触っただけなのですが、その機能性の高さに驚いた記憶があります。


 確かに機械は便利。どうしても分からない時は頼るべき存在です。言語の意味取り間違えてうっかり死んだりしたらたまりませんからね。

 でも挨拶とか自己紹介程度なら、なるべくいろんな言語で、自力で話せるようでいたい、と私は思っています。なぜって、もちろん、交流の幅が広がるからです。



 国際交流サークルに所属していた時、日本にやってくる留学生を相手に、学校近辺の観光名所をツアー形式で回る、という企画がありました。企画内容によっては、参加する留学生の数が100を超えることもしばしば。それなりに人気でした。

 別に英語は話せなくても大丈夫。まぁ話せるに越したことはないんですが、彼らは日本語を学びにきているから、日本語で話してあげた方が彼らのためになったりするんです。笑

 でもツアーの時は、まだ彼らも来日したばかりで緊張気味。だから最初から日本語で話すのは、ちょっとハードルが高いんです。なので最初の自己紹介は、英語が多め。

 ただ英語で自己紹介すると、出身地が分かります。名前からも推測できますよね。


 私は人見知りです。日本人相手でも、心を開くのにちょっと時間がかかります。その分、心を開いてしまえばかなりフランクに話せるのですが、第一印象は「怖そう」「近寄りがたそう」なんて思われていた時もあったようです。

 日本人相手でこれですから、海外の人は言わずもがな。笑 でも中高生の時から英語はネイティブの先生に習うこともありましたから、そこで多少の免疫はついていました。それと、1人で全体に話しかけるのは無理だけど、マンツーマンなら懐に入っていける多少の自信はあったのです。

 そこで全体での自己紹介が終わると、私はそのうち話しやすそうな子に狙いを定め笑、その子に話しかけてみるようにしたのです。彼らは優しいから、すぐに私を受け入れてくれました。

 初めてでも話題に困ることはあります。だから、私は自己紹介を聞きながら、頭の中で話題をいくつか用意するのです。出身国のこと、これから訪れる観光地のこと。出身国が私の行ったことある国なら、ちょっと詳しく。


 そんな感じで話題を用意すれば、困ることもありません。

 日本語と英語がごっちゃごちゃの状態で話すので、脳みそはすごい働いていますけどね。笑

 こうした経験を積み重ねると、彼らが食いつくポイントが分かってきます。


 そうです。

 彼らの国の言葉を話せば、みんな目が輝くのです。笑


 ちょっとしか喋れなくても大丈夫。だって彼らだって、日本語はちょっとしか喋れないのだから。初心者同士、教え合えば良いのです。

 時には私の発音を直してくれたり、新たな言葉を教えてくれたりします。それは教科書からの勉強だけじゃ味わえない、とっても貴重な経験です。だって中国語で私の名前をなんて言うかとか、教科書じゃ習わないですもんね。


 中国の子と喋っていた時、フルネームを聞かれました。答えると、彼女は目をまん丸にしました。「どうしたの?」と尋ねれば、彼女はこう答えたのです。


「あなた、すっごい良い名前じゃない!」って、興奮して。


 せっかくだから、「私の名前は○○です」というフレーズを教えてもらいました。名前の発音に関しては何度かご指導を賜りましたが笑、数回目で本場の人からOKが出たのはめちゃめちゃ嬉しかったです。その後もツアーが終わるまで、ほぼずっと一緒に話していました。すっかり仲良くなり、彼女は私の後ろ姿を隠し撮りし始めたんですが笑、すごく綺麗に撮れていて、もはや感動したの覚えています。


 韓国の子と喋った時は、この中国の子とのエピソードの後だったので、自己紹介の韓国語を事前に仕込んでいました。笑

 そして彼女が「韓国語って喋れる?」と聞いてきたので、ここぞとばかりに披露してみました。すると彼女もまた、目をまん丸にしたのです。


「すごい、発音も綺麗よ」って。


 その後美味しいご飯を食べて、2人で「マシッソ美味しい!」なんて言ってキャッキャしてましたね。その後は英語を多く使いましたが、母国語を使う手段は、仲を深める最初の段階で嘘だろってくらいに絶大な効力を発揮します。



 オリンピックの公式ショップで働いた時もそうでした。まだ開催の危機なんて眼中になかった時期です。

 英語を使えます、という名目で雇ってもらったのですが、第二外国語でスペイン語を履修していたので、基本的なスペイン語も何とか拾えるようになっていました。

 ある日、東京オリンピックのエンブレムが入ったTシャツを買い求めに、お客さんがやってきました。見るからにラテン系の方々で、時折聞こえる会話も、習ったスペイン語の単語がちょこちょこと入っていました。

 でも彼らは、Tシャツのどのサイズがどこにあるのか、迷っていた様子。私は意を決して声をかけました、スペイン語で。多分英語で良かったんですけど、親近感持ってもらった方が売り上げも上がると期待し笑、スペイン語を使ってみたのです。


「これはLです」

「え……これは?」

「これはMです」

「ワオ……あなた、スペイン語が話せるの?」

「はい、少しだけ」


 スペイン語で会話したのはこれだけ。これ以上は私無理でした。笑

 でも彼らにちゃんと通じて、見事お買い上げいただけて。社員さんもちょっとびっくりしてて。勇気出して良かったって思いました。


 英語も使いこなせるわけじゃないけど、拙くても発音悪くても丁寧に説明すれば、心は伝わるものです。

 別の日に海外のお客様が来て、英語で一生懸命商品説明したら、たくさん買ってくれました。そして彼は、最後に粋な計らいをしてくれました。

 なんと彼は五輪関係者のフランスの人で、2024年のパリオリンピックのバッジをくれたのです。初めて見るパリ五輪のエンブレム。すごく感動しました。社員さんにめっちゃ羨ましがられました。笑 彼の去り際、私が「メルシー!(超カタカナ発音)」と言ったら笑顔を見せてくれました。

 パリ五輪、やるかどうかは分からないけれど、すごく大事な思い出です。ちなみにこのほっこりエピソードは、拙作『Shake, Build, Blend, Stir』のOlympicの中で間接的に使われています。



 エピソードだらけになってしまいましたが、ここで言いたいのはただ1つ。

 挨拶だけでも、マルチリンガルになってみたら、人生すごく楽しくなるって話です。

 今回のエピソード、全て日本国内の話。海外行かなくても、貴重な経験はできます。


 発音分かんなくてもいいじゃない。カタカナ発音でもいいじゃない。

 その一言の勇気が、世界をガラリと変えてくれるはずです。

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