双子星と、そよ風 上

あたしは孤児院に捨てられていた。


嵐の日の事だった。





同じような境遇の子ども達と一緒にアタシはすくすく育った。


そんなあたしの中には、“彼”が存在していた。彼もあたしと共に、すくすくと育っていった。


あたしはどん臭くて、何をやらせても失敗ばかりしていて子ども達からも大人からもお荷物だと言われた。



(ジェニー、僕に体のコントロールを渡せ。僕なら上手にやってあげるよ。)

彼の声が聞こえた。知らない、しらない。あたしは無視した。



そんな中でも、あたしを可愛がってくれる人はいた。


シスター・リリィは、出来損ないのあたしをいつも励ましてくれた。


掃除が上手く出来なければ、「繰り返せば慣れることよ、大丈夫」と笑い


買い物袋を落とせば「私も昔よくやったのよ、トマトを駄目にしちゃってね」と照れくさそうにして



(ジェニー、嫌になったらいつでも僕が変わる。こいつら全員驚かせてやれるんだから。)


うるさい、あたしはまだ頑張れる。



「…あたし、シスター・リリィみたいになりたい。」


眠れない夜。シスター・リリィとお話していた。


少し困ったように笑って


「うーん…私になる必要無いくらい貴方は素敵なのにねジェニー。でもそうだわ、私たち2人だけの時は、あなたの事をリリ、と呼びましょう。2人だけの秘密の呼び名よ。」


あたしはそう言われて、とにかく嬉しくて身体がポカポカした。

「ほら、もう遅いから寝ましょうね。おやすみなさい、リリ」と言われ、撫でられている内に寝てしまった。




ある日、シスター・リリィが隣町の孤児院に手伝いに行くらしく、1週間不在にすると伝えられた。


相変わらずどん臭くて、何も出来ないあたし。シスター・リリィがいないのをいい事に、子ども達はじわじわとあたしをなじり始めた。


掃除も、お買い物も、お手伝いも、全部足を引っ張った。


「お前、もうこっから出てくるな!」

と同じ歳の男の子、ユージンに物置部屋に閉じ込められた。


数時間経ったけど、誰もあたしを探していないみたい。大きな窓があるけど、届かなさそうだ。


(なぁ、ジェニー。僕達忘れられているんだ。僕にかわれ。ここから出られるし、ジェニーよりなんでも上手にできるよ。)


あなたは誰なの?なんであたしの中にいるの?


(なんだ、ジェニー。覚えていないの?僕はミア。この体のもう1人の持ち主で、もう1人の君だよ。)


なにそれ、あたしを乗っ取るつもり?


(そんなわけない。僕達は2人いなきゃいけないんだから。ただ、役割が違うだけ。)


あんたの役割が、あたしの体を使うことなの?


(そうだよ。僕に与えられた、役割だ。本来はね。僕が目覚めるのが遅くて、今は君が代わりにやってる状態なんだ。)


じゃああたしの役割は何なの?


(そのうち記憶がもどる。そうすれば、ちゃんと思い出すよ。なんていうか、説明が難しいんだ。)


信頼してもいいの?あんた…ミアの事を。


(勿論。さぁ、目を閉じて。かわるよ。)



目を開いた時には、もうミアとあたしはかわっていた。


いつもの視界を、あたしは窓みたいなものから覗いている状態。


ミアはあたしの体を本当に使いこなしていた。


普段なら登れないところに登り、大きな窓を開けて軽々と部屋から出る。ついでに物置部屋から本も持ってきていた。


アタシを部屋に閉じ込めたユージンは案の定、忘れていたようだった。ミアを見るなり、ハッとした顔をして、視線を泳がせている。


今は夕食の前だったみたいだ。


「あら、ジェニー。探していたのですよ。どこに居たのですか。」


シスター達はミアに厳しく言う。



ちらり、とミアはユージンを見る。


「お、れは悪くなっ…」



「ユージンが、この本を探していて…物置部屋で見た覚えがあったから、探していたのです、シスター。時間がかかってしまったのですが、どうしてもユージンに見せてあげたくて…ごめんなさい。」


ミアは口からでまかせをスラスラと並べていく。

堂々と、目を見て話すミアに、シスターはニコリと笑った。


「ジェニー、とても友達想いでいい事ですね。ユージン、貴方もとても勉強熱心な様ですね。ですが、これからは私達大人に心配をかけないように。いいですね?さぁ、もう夕食が出来ますよ。皆で食べましょうね。」


すごい。ミアはすごい。あたしだったら、こんな風に機転がきかなかった。


「ジェニー、ごめん。ありがとう…」


ユージンが謝ってきた。


「いいよ。もうあんな事するなよーっ」


ミアが笑うと、ユージンも笑った。


その後、ミアとユージンは一緒に夕食の準備を手伝った。


いつもなら皿を割ってしまったり、水をひっくり返したりするのに、ミアはそんな失敗はしない。


楽しく準備をして、楽しい雰囲気のまま、食事も終わった。


次の日の掃除も買い物もお手伝いも、ミアはなんて事ない、とこなしてしまう。


話も上手なミアは、ユージン以外の子ども達ともすぐに楽しくあそび始めた。


あたしじゃなくて、ミアが必要とされているのがわかった。



それから1週間が経ち、シスター・リリィが帰ってきた。


その頃にはこの孤児院でミアは人気者になっていた。



「シスター・リリィ。おかえりなさい!」


ミアは子ども達皆でシスターを迎えた。


(あたしにかわって!話をしたいの!)


待ってよ、ジェニー。僕だってシスター・リリィと話したいんだ。君はずっと独り占めしてたじゃないか。



シスター・リリィとミアは2人になった


「ジェニー。いい子にしていた?」


「うん!私、いい子にしていたよ。」



(シスター、気づいて。お願い。それはミアよ!

あたしじゃないの!!!)



「…そう、それはよかったわ。」




(いやだ、いや…)


ジェニー、勘違いするな。君の役割はあるし、彼女は僕らを…



(いやだ…誰もあたしを必要としないなんて、いやだ…あたしは、あたしはっ…)














(要らないんだ)

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