第5話 そして伝説が終わった!(5)
対象を極めて高い確率で石化させるこの高度な魔法を成立させる触媒は、術者の命であった。命を捧げることでただ一度だけ使用できる禁断の自己犠牲呪文。
それを使用した女賢者の姿はその場から消え去り静寂が玉座の間を支配する。
次の瞬間ガタンッと大きな音が玉座の間に響き渡る。それは先ほどまで魔王の周囲を浮遊していた妖鳥が全身を真っ白に変化させ、地面に落下し砕けた音であった。
また蛇亀も同様に全身が濃い白に染まり、元々鈍い動きであったその活動は完全に停止していた。
そして魔王はその場に佇んでいた。
下半身の蛙はというとその瞳は相変わらず明後日を見ながら時折瞬きをした。こちらは石化を免れているようだった。しかしその蛙に倒れかかるように上半身の魔王は身体を折り曲げピクリとも動かない。
その身体から蒸気のようなものが立ち昇っていて、よく見ると身体の至るところが石化し、ひび割れていた。
すると魔王は静かに顔を上げ勇者たちを睨みつける。
「人間共め……。いまのは効いたぞ…。そして恐怖した」
禁断の古代語魔法。魔王の息の根を止めるまでには至らなかったが、甚大なダメージを与えたことは明白であった。
「この勝機、必ずものにする!魔王、覚悟しろ!」
勇者は吠えた。仲間の死は無駄にできない。
悲しみにくれる暇もなく戦闘は佳境を迎える。
「こざかしい人間共!よくも、よくも余の分身を殺し、余に死の恐怖まで与えてくれたな!皆殺しにしても足りんわ!」
「彼女の身体は消えてしまったのに。こいつらはまだ身体が残っているのね」
女武道家は真っ直ぐ妖鳥のそばに駆け寄るとその石化した身体を蹴り上げ粉砕した。
再びその場は静から動へ。
回復と補助の手段をなくした魔王だが、勇者パーティーも要である女賢者を失った。まだ魔王の方が優勢と言えるかもしれない。
「次は魔王自身を追い詰め最後の変身を晒させましょう!」
「ここは任せて!魔王!あなたも勿体ぶってぐずぐずしてるとこのまま私が倒しちゃうわよ!今こそ使う終極奥義!」
女武道家の身体をオーラが包み込む。二つにした髪留めが弾け、その美しい黒髪がゆらゆらと空を漂う。
「良い気になるなよ!全ての魔族の頂点に立つ、この魔王を舐めるな!!!!」
魔王も死力を振り絞る。これほど追い込まれたことは生涯初めてであった。魔闘気を限界まで練り上げると地面が大きく揺れ、その強大な力が未だ現在であることを示した。
「桜花凶星拳終極奥義!!
女武道家は自らの全ての生命力を気に変換し、気功の弾丸と化し魔王に突撃する。
しかし魔王もその両掌に残りの魔闘気を集める。
「七曜虚壊拳!」
魔王は太古の恐竜のような巨大な鉤爪を剥き出しにする。
「
魔王は限界まで魔闘気を纏った
しかしその瞬間を狙い戦士が追撃をした。
戦士は戦斧の刃の部分で正面の地面を抉る不可解なモーションをするとそのまま大きく振りかぶる。
女武道家の命の一撃すら囮とする戦士の冷徹な判断。
「アルティメットアーツ!ペプロメノアックスッ!!!」
振り下ろす斧から巨大な髑髏にも見えるエネルギーの塊が魔王を襲う。
戦士と女武道家の無言の緻密な連携。最強の技同士を掛け合わせることで魔王すら凌駕できると思わせた。
三つの闘気が激しくぶつかり合う。耳をつん裂く轟音と周囲の視界をふさぐ土煙が舞い上がる。この衝撃に巻き込まれればどんな強力な魔物も消し飛ぶだろう。
「やったか!」
戦士は息を呑み危険なつぶやきをしてしまった。
ぶらぶらと揺れる人影。それは土煙が完全に晴れるのを待つまでもない明確な惨劇であった。
魔王は左手で女武道家の身体を貫き、右手は戦士の一撃を辛うじて防いでいた。しかし防御よりも左手の女武道家への攻撃に魔闘気の配分をあてたのであろう、その右手は激しく損傷して血塗れとなっていた。
二人の天才を上回る恐るべき魔王の武の
魔王は勝利を確信し加虐的な笑みを浮かべる。
「貴様ーーーッ!」
魔王は女武道家の身体を貫いたままのその手を上げ咆哮をあげる戦士の方に振り抜く。
生死不明の血塗れの女武道家の身体が吹き飛ばされる。
戦士は女武道家を残る片手で何とか受け止めることが出来た。すると魔王は両手を重ね握りしめ魔闘気を集中する。
「世界の果てまで吹き飛ばしてやろう!七曜虚壊拳!
黒い闘気の奔流が二人を飲み込み、背後の城の壁諸共破壊した。
壊れた壁からは旭光が差し込む。
「ははは!あっという間に仲間が3人とも消え失せたな。」
「魔王、貴様…」
「人類の希望はお前の死とともに潰える」
「それならば終わることはないな」
勇者は悲しみと怒り。全てを内混ぜにし、一人剣を構える。全ては勇者の一刀のために。仲間のその期待と希望に報いる方法はたった一つしかない。
「魔王、その命、僕が絶つ!」
勇者は剣を構え詠唱を始める。
「ソリス オルトス イグニス プルゴービット ホステム」
勇者の持つ聖なる破邪の剣、熾天剣が炎を纏い燃え盛る。
「くらえ!!
人類の存亡を賭けた戦いの最後の一幕が上がる。
しかし、そこまで辿った道のりは既に多くの血に塗れていた。
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