185 働きたくないでござる

 家に戻るとエクレインとニコラはまだ寝ている様子だったので、俺がニコラを、セリーヌがエクレインを起こしにそれぞれの部屋へと向かった。


「ニコラー、起きてるー?」


 部屋に入りながらそう呼びかけると、ニコラは俺が出て行った時とまったく変わらない姿のまま身動き一つ取ることなく熟睡していた。窓から差し込む光が直接顔に当たっているというのに、逆にどうしてここまで寝ていられるのかと感心するね。


「おーい、ニコラ。朝だよ」


 俺がニコラの肩を揺すりながらもう一度呼びかけると、ようやく起きた様子のニコラが眩しそうに目を細めながら口を開く。


「むにゅ……。せっかくお泊りにきているというのに、朝イチで見るのが見慣れたお兄ちゃんというのは、なんともガッカリするものですね」


「はいはい。そろそろ朝食だからね。二度寝禁止で頼むよ」


「はいはい。起きまーすよー」


 ニコラはスクッと立ち上がると、俺が出ていく間もなく爺ちゃんに貰ったピンクパジャマをスポポンと脱いでパンツ一丁になり、枕元の外着を手に取ってさっさと着替えを終えた。風呂場で乳首を隠したり着替えでは隠さなかったり、こいつの羞恥心の境界線がわからない。


「? なんですか、その呆れた顔は。ほらほら、朝ごはんを食べに行きますよ」


 ニコラに先導されるように部屋から出ると、部屋の中央のテーブルにはぐったりと項垂れているエクレインとそれをうんざりとした顔で見つめるセリーヌが座っていた。


 俺とニコラが朝の挨拶を交わして席に座る。するとエクレインが涙目になりながら俺たちに泣き言を漏らし始めた。


「うう、おはようマルクちゃんニコラちゃん。……聞いてよ。セリーヌったら小樽のお酒を全部交換したって言うのよお。酷くない?」


「もう~。悪かったって言ってるじゃない。代わりに手持ちの魔石をあげたんだから、それで機嫌を直してよね~」


「魔石じゃ高価すぎて食べ物と交換するの面倒じゃない。結局私が今日も仕事をしなければならないという事実は変わらないのよお。今日は仕事をせずに一日だらだらする予定だったのに~」


 テーブルに頬をくっつけながらエクレインがボヤく。どうやら彼女の中では今日はオフ日だったようだ。若干面倒くさい性格だなと思わなくもないけれど、交換した品物には旅先の食料なんかもあった手前、俺としても居心地が悪い。


「あのー、エクレインさん。それなら僕もお酒造りを手伝ってもいい?」


「えっ、本当!?」


 エクレインがガバっと顔を上げて目を輝かせるが、すぐさまセリーヌが口を挟む。


「マルク駄目よ~。あんたが作ると母さんよりも美味しくしちゃうじゃない。母さん、今はいいけどマルクが帰った後で酒がマズくなったとか言われたら、余計にやりにくくなっちゃうわよ?」


「そ、そんなあ~」


 ヘニョりと長い耳を下げるエクレイン。さすがに少しかわいそうになってきた。


「それならさ、なるべく品質を近づけるように頑張るよ。力加減を調整するのも闇魔法の練習になるしね。それに今日交換したものに僕らの旅の支度もあったんだから、何も手伝わないのは悪いよ」


 俺が場を取り持つようにそう言うと、セリーヌが椅子に背を預けながら小さく息をつく。


「はぁ~、マルクも甘いわねえ。それじゃあ母さんと同じ量だけ作るならいいわよ。母さん、マルクに手伝って欲しかったらその分たくさん作ることね~」


「ううっ、どうしても私に働かせるつもりなのね。私はただおもしろおかしく生きていたいだけなのに……」


『わかる』


 ニコラが深く頷きながら念話を漏らした。



 ◇◇◇



 四人で朝食を食べた後、セリーヌとエクレインはグプルの実を取りに出かけたので、今のうちに共鳴石で連絡をすることにした。


 アイテムボックスから共鳴石を取り出してテーブルに載せる。隣では暇そうなニコラが両肘をつきながらその様子を見ていた。


「ニコラも何か話す?」


「もちろん話しますとも。お兄ちゃんの将来の嫁候補とは仲良くしておかないと、二人の愛の巣に寄生しようとした時に困った顔をしながら『そろそろニコラも独り立ちしてみない……?』なんて言われかねないですからね」


 嫁候補の話はともかく、そもそも俺に寄生しないという選択肢は無いのだろうか。


 ……いや、でもコイツはモテるしな。なんだかんだ言いながらも案外あっさりと嫁にいくんじゃなかろうか? 働かなくとも食っていける旦那くらいコイツの見た目なら簡単に見つかるだろう。


 そう考えると今のうちから頭を悩ます問題では無い気がしてきたので、深く考えるのを放棄して共鳴石に風属性のマナを込める。


「デリカー、デリカー、聞こえるかーい。デリカーデリカー」


 すると共鳴石からごそごそといった音が響き、直後にデリカの弾んだ声が聞こえた。


「「マルクおはよう!」」


 その声に混ざってゴトゴトと車輪が鳴らす音も聞こえる。どうやらすでに馬車で移動中のようだ。


「おはようデリカ。そっちはどんな様子かな――」


 挨拶をかわした俺たちは、お互いの近況を語り合うことにした。



――後書き――


小説家になろうで新作の投稿を開始しました。

タイトルは「異世界をフリマスキルで生き延びます」です。よろしければこちらも見て頂けると嬉しいです\(^o^)/

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