174 魔石

 俺が共鳴石を片付けてふと視線を感じた方に顔を向けると、セリーヌがテーブルに両肘をつけながら口元をニヤつかせていた。


「むふふ、相変わらずマルクはやさしいわね~。マルクはデリカちゃんのことが好きなの?」


「うん? 好きだよ。一番付き合いが長い友達だもの」


 セリーヌはそれ以上の意味で聞いたことくらいは分かるが、八歳に何を聞いているのか。こういうのはしらばっくれるに限る。さっさと話を変えよう。


「ところでセリーヌ。今日は昨日に比べて共鳴石を使うのがだいぶ楽だったんだ。これなら昨日みたいに休んだりしなくても大丈夫だと思うよ」


 俺が照れたり慌てたりしない様子に唇を尖らせていたセリーヌが態度を改め、俺の顔をじっと見つめる。


「……確かに昨日共鳴石を使った後よりも全然平気そうね。魔力の残り具合はどう?」


「んー、まだいけそう? な感じかな」


「そっか~。まぁあんたならもう驚かないけどね~」


 セリーヌが呆れ顔で俺の頭をポムポムと撫でる。俺だって魔力の量に関しては多少は自信があるので、今回の結果には満足だ。


 ただ、自分が想定していた以上に平気だったことには少し肩透かしな面もある。昨日は疲れていたにしても、今日ここまで楽になるものかな? 


「……あっ」


 一つ心当たりがあった。


「ん? マルクどうしたの」


「昨日最後に倒した青いストーンリザード。あれを倒した時にエーテルの流入を感じたんだ。それのお陰かも」


 昨日のエーテル流入で魔力の器が広がったのかもしれない。昨日は魔力が回復していない状態だったけど、十分休息を取ったことで底上げされた分まで魔力が満タンに回復したと思えば、理屈としては通ると思う。


「あらま、マルク得したわね。たしかにあの青いのは強さは大したことなかったけど、異質なものを感じたものね~。そういえばちゃっかり死骸も収納してたわよね? きっと魔石持ちだろうから後で取り出しましょうか」


 魔石……。そうだ、あのことも言っておかないと。


「あとね、昨日、魔石もたくさん取れたんだよ」


「魔石? 鉱山で拾ったの?」


 説明するよりもまずは見せてみよう。アイテムボックスから《ハーレムリザード 魔石入り》を選び、さらにそこから魔石を取り出すようにイメージをする。


 そして手の中に出てきた物をテーブルの上にゴトリと置いた。


 ヌシの魔石は大人の握りこぶしくらいの大きさだったが、これはそれよりも一回り小さく、色は白色だった。


「これが青いストーンリザードの魔石だね。それからこれも」


 小指の先ほどの大きさの、赤やら緑やら様々な色の魔石をテーブルの上に追加する。これはおそらくハーレムリザードが食べた岩に混じっていた魔石だろう。


 セリーヌがテーブルに覆いかぶさるように魔石を見つめながら口を開く。


「……ええと、いつの間に解体したのかしら?」


「解体してないよ。アイテムボックスの中のリザードから魔石だけを取り出したんだ」


「へ? そんな話今まで聞いたこともないんだけど。……アイテムボックスって、そういうこともできるものなの?」


「さぁ……? 僕はできたけど他の人のアイテムボックスは知らないよ」


 ニコラは俺のアイテムボックスは特別製と言っていたし、俺だけなのかもしれないな。こんなに便利なギフトを与えてくれた神様には感謝してもしきれない。


「他のも出すね」


 一匹だけ確保出来たマザーストーンリザードや、途中でウェイケルたちが倒したのを回収したり自分で倒した分のストーンリザードからの魔石を取り出し、次々とテーブルの上に置いていった。


 その全てを抜き取り終わると、赤やら青やら緑やら様々な色をした小さいもので一センチにも満たないくらい、大きいものでは直径三センチほどの魔石がテーブルの上に載せられた。かき集めるとハーレムリザードの白色の魔石を中心に、お茶碗一杯分ほどの山が出来るほどの量だ。


 アイテムボックスからの抜き取り作業中、ずっと無言だったセリーヌが口を開く。


「……もしかしてこれも?」


「うん。途中で回収したストーンリザードが食べた岩に魔石が混ざってるのがあったみたい。胃の中にでも残っていたんじゃないかな?」


 それを聞いたセリーヌは、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がると大きく息を吐いた。


「はあ~……。さすがにもう驚かないと思っていたけど……。あんたって子は、何回私を驚かせてくれるのかしらっ!?」


 セリーヌは座っている俺の背後に回ると、頭をぎゅうと抱きしめてうりうりと揺さぶる。


「ぶはっ、何するのセリーヌ! 前が見えないって!」


「私を驚かせた罰よ! 甘んじてうけなさ~い! このっこのっ」


 頭を揺さぶられるのはともかく、後頭部に当たるものが柔らかかったりいい匂いがして気持ちいいので、セリーヌが飽きるまでやらせることにした。俺だっておっぱいが嫌いなわけじゃないからね!


『むむ……。お兄ちゃんが逆ぱふぱふをされてるような気配を感じます。うらやま死刑……』


 なにやら聞こえて来たが、今はこの柔らかいものに身を任せよう。



 しばらくすると気が済んだのか、席に戻ったセリーヌが満足げに顔をつやつやさせながら口を開く。


「ふう~。少しはスッキリしたわ。しかし魔石ね……。これだけあるなら換金すればひと財産だと思うけど、せっかくだからこの村で魔道具作りしてる人に見せてみない?」


「ここに魔道具作りをしている人がいるの?」


「ええ、いつも魔石が足りないってボヤいてたし、いい物と交換してくれるかもしれないわよん」


 普段の生活ではほとんど自前の魔法でこなせたので、あまり魔道具に触れることもなかった。それにハーフエルフならいい物を作ってそうなイメージもあるし、これはいい機会かもしれないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る