173 モーニングコール

「デリカー、デリカー、もしもーし」


「ねぇマルク。もしもしって何?」


 キョトンとした顔でセリーヌが尋ねてきた。おっと、うっかり前世の電話のノリで言ってしまった。


「うん? なんだろうね、なんとなく?」


 適当にごまかしつつ、デリカを呼び続ける。しばらくするとガサゴソと革袋から共鳴石を取り出す音が聞こえた。


「「マルク?」」


「そうだよ。おはようデリカ」


「「おはよう、マルク!」」

「「マルクか? おっす! あたしもいるよ!」」


 どうやらネイも一緒にいるようだ。まだ朝と言ってもいい時間帯だけど、どうしてネイがデリカと一緒にいるんだろう?


「ネイもおはよう。あれからどうなったかなって思って連絡したんだ。今、手が空いてるようなら教えてくれるとありがたいな」


「「うん。ええとね、……あれから言われたとおりビヤンさんにテンタクルスのことを言ってみたの。そしたらテンタクルスに興味を持ってくれてね。さっそくセカード村とファティアの町に行商に行くことになったのよ」」


 どうやらビヤンはテンタクルスに商機を見出したらしい。ガラス製品以外は専門外かもしれないなと思ったんだけど、どうやらそうでもないみたいだ。


「「それで町に帰るなら一緒にいかないかって誘われてね。今は私の案内でセカード村に向けて移動中よ。ビヤンさんの馬車には大きい保存庫の魔道具も載せてるから、マルクの家に持って行く分も取り置いてくれるってビヤンさんが言ってくれたわ」」


「そうなんだ、ありがたいね。って、もう移動してるってことは今は馬車の中ってことだよね? ……それじゃネイは!?」


「「ふふん。面白そうだしあたしもファティアの町まで付いていくことにしたんだ。帰りはビヤンと一緒に帰ってくる! 親父もあたしがいなくなって少しはありがたみを感じりゃいいと思うしな。宿屋のおばちゃんも快く送り出してくれたぞ!」」


 なんだかプチ家出みたいになってるけど、大丈夫なんだろうか。ビヤンがいるなら大丈夫なのかな。そういうことにしておこう。


「そ、そう。せっかくだからネイも楽しんできてね。……それでウェイケルさんたちはあれから戻ってきた?」


「「三人とも無事に戻ってきたわ。それでウェイケルさんたちが私たちを無料で護衛してくれることになって、今は私とビヤンさんの馬車に分乗しているの」」


 よく耳をすませば騒がしくウェイウェイと言ってるのが聞こえる。その直後はっきりとウェイケルの声が聞こえた。


「「――俺がなんだって? え? マルク坊っちゃんと通話? ……うわあ、昨日仲間に聞いてもにわかに信じられなかったけど、マジで共鳴石が光ってるし、坊っちゃん半端ねえな……」」


 ウェイケルの声を聞いたセリーヌが共鳴石に顔を近づける。


「ウェイケル~。デリカちゃんとネイちゃんをしっかり守るのよ?」


「「うえっ、セリーヌサンの声!? はっ、はい! もちろん守るっす! 俺たちだってセリーヌサンたちに恩義を感じてるっすから! 魔物や賊には指一本触れさせませんし、もちろん俺たちも指一本触れないっす!」」


「それならいいわ。頑張んなさい~」


「っす!」


 ウェイケルが共鳴石から離れたらしい。再びデリカの声がした。


「「現状はこんな感じよ。わかった?」」


「うん、よくわかったよ。ありがとう。ウェイケルさんたちがいるなら大丈夫だと思うけど、道中気をつけてね」


 二泊三日ほどの旅に護衛七人はキャパオーバーもいいところだろう。道中の魔物や賊くらい蹴散らしてくれるはずだ。


「「……ねえ、マルク」」


「どうしたの?」


「「また明日、連絡もらってもいい? ……あっ、魔力をたくさん使うんだよね!? 辛いなら別にいいんだけど!」」


「ううん、大丈夫。これも魔法の特訓になりそうだし、望むところだよ。デリカが良ければ毎朝連絡するね」


「「本当!? ありがとう! ……そ、その、わがまま聞いてくれてありがとね」」


「気にしないでいいよ。それじゃあまた明日の朝ね」


「「うん、楽しみに待ってるから……」」


 少し恥ずかしそうなデリカの声を聞きながら俺が通話を解除しようとすると、何やら囃し立てるような声や口笛が聞こえ、


「「ち、違うって! そんなんじゃな――」」


 とデリカが怒鳴ってるところで通話が切れた。


 ウェイケルたちにデリカがからかわれたのは想像に難くない。ゴーシュにもよくからかわれていたし、今頃は顔を真っ赤にしてプリプリと怒っていることだろう。


 でもデリカ自身はきっとそういった浮いた話ではなく、親元を離れて少し心細いんだろうと思う。


 しっかりとしてきたとはいえまだ十二歳。あの中にはそれほど親しい人もいないし、同性はネイだけだ。毎朝俺なんかの連絡が欲しいくらいには不安にもなるのも仕方ない。


 明日はもっと長く通話して、少しでも不安を解消してあげよう。そう思いながら共鳴石をアイテムボックスに仕舞った。

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