166 共鳴石

「「お、おいデリカ! セリーヌから預かった革袋から何か光が漏れてねえか?」」


 次はネイの声だ。


 それからごそごそと音がした後、音質は若干音割れしている感じではあるが、ささっきまでよりはマシにデリカの声が聞こえてきた。


「「セリーヌさん? えっと、この石から声が聞こえてるのかな?」」


「そうよ~。デリカちゃんに渡した共鳴石って魔石を通じて話してるの。あまり時間をかけられないから手短に言うわね~」


 石から聞こえた声にセリーヌが答える。やっぱり声を届ける魔石らしい。マナを込めることで一定の働きをする魔石なんてのもあるんだなあ。「「石が光ってる!」」とネイの声も聞こえる。


 それにしてもマナを吸われ続けて何だか頭がぼんやりとしてきた。まだ魔力の器の底まではいっていないけど、このまま長く続けば底までいきそうな勢いだ。そんな俺の様子を横目に見ながらセリーヌが共鳴石に話しかける。


「ストーンリザードの巣は崩壊したけど、私たちは無事よ~。今は私の実家に転移してるわ。ちょっと帰るのは遅くなりそうね。それと、ラックとジャックも助けたんだけど、三人はもう戻ってきてる?」


「て、転移って……。三人はまだ戻ってきてないわ」


「そう、私たちの方が早かったのね。もうすぐ戻ってくると思うから、デリカちゃんはあいつらに事情を説明してやってくれるかしら。それであいつらと一緒に町まで戻ってちょうだい。あいつらは今回のことで私たちに借りができたし、ぞんざいな扱いにはならないだろうから安全に帰れるはずよ」


「う、うん。わかった。それでマルクは? マルクは本当に無事なの?」


「無事よ~。今はちょっとマナを吸われててぼんやりとしてるんだけどね。マルク、話はできる?」


 確かに今はちょっと頭が回ってないかもしれない。それでもデリカには言いたいことがあった。


「デリカー」


「マルク! 無事なのね? 怪我してない? なかなか出てこないから心配したんだからね! ニコラも無事なのよね?」


 デリカが矢継ぎ早に話しかけてきた。ちらりとニコラを見ると、いつの間にか椅子に座ったエクレインの膝に乗せられながら、ぎゅうと抱きしめられ頬ずりをされている。


 ニコラは仮面のような笑顔を貼り付けたまま『毒は裏返る……毒は裏返る……』と呪文のように呟いているが……、まぁ無事は無事か。


「二人とも無事だよ。それでねデリカ、テンタクルスの買い出しが遅れるからごめんって父さんに言っておいてくれる?」


「えっ、うん。わかったわ」


「あぁそれなら、ビヤンさんにテンタクルスのことを教えてみたら? 気に入ってくれればテンタクルスを流通させてくれるかもしれないわよ。その辺はデリカちゃんに任せるわね~」


 セリーヌが口を挟む。確かにビヤンがテンタクルスを取り扱ってくれるなら安心できるなあ。何と言っても人柄がいい。


「わかった。とりあえずビヤンさんに相談してみる」


「ああ~、それと~」


 どんどん頭で考えられなくなってきた。早く言わないと。


「マルク、なに?」


「母さんとギルおじさんに畑を枯らしちゃうかもごめんって言っといて~」


「わかったわ」


「教会学校のみんなにお土産持って帰るの遅くなるって言っておいて~」


「うん」


「パメラには僕が付き添わなくても、ちゃんと教会学校に通うように言っといて~」


「はい」


「それとー」


「まだ伝言があるの? なに?」


 少し不機嫌なデリカの声が聞こえた。でもこれは伝えておかないと。


「デリカ、旅の最後までデリカの応援ができなくてごめんね」


「……ううん、そんなことない。十分支えてもらってるから。ありがとね、マル――」


 言いたかったことを伝えきったので、俺の中の魔力はもちろん気力も使い果たしたんだろうか、音声は途切れた。気絶するほどではないが、脱力感がすごい。


 俺がぐったりとテーブルに頬を乗せて休憩していると、頭上からセリーヌの声が聞こえた。


「マルク、おつかれさま」


「まだ話したいことあった? すぐに通話を切らしちゃってごめん」


「何言ってるの。普通の冒険者レベルなら、十も数える前に切れる距離よ。しかも向こうの声なんかはっきり聞こえないと思うわ。伝えたいことも伝えたし、百点満点よ~」


 そうなのか。魔力の量には少しは自信があったのに、すぐに魔力切れしたことで若干ヘコんでいたんだけれど、これからも自信を持ち続けていいらしい。


「ねえねえセリーヌ、この子すごすぎない!? ……あっ! だから危険を冒してでもさらってきたの……?」


 ずっと様子を見ていたエクレインが興奮気味に声を上げた。


「まだそれ引っ張るの~? ……この子たちは特別よ。私も未だに驚かされっぱなしだもの」


「ふぅん。ってことはニコラちゃんもすごいのね? ねぇねぇ、なにができるのかしら? 今度見せてね!」


「うん、いいよー……」


 エクレインの膝の上のニコラが青い顔のまま棒読み気味に答える。どうやら毒は裏返らなかったようだ。


「さてと。マルクのお陰で連絡もできたし、後は私たちもファティアの町に向かえばいいんだけれど……。移動の準備もあるし、この母親もちょっと心配だし、出発は数日後で構わないかしら?」


「大丈夫だよ。僕もこんな所めったに来れないから見学したい」

「ニコラもー……」


 ハーフエルフの住む村なんて、いかにもファンタジーでワクワクする。


「決定ね。それじゃあお腹も空いてきたし、まずはあんたたちの歓迎会って言いたいところだけど――」


 セリーヌが部屋中を見回す。そして隣の部屋に行って魔道具らしき保存庫を開けると息を吐いた。


「……この家には何も無いわね。ねぇマルク、疲れてるところ悪いんだけど、もう少し休憩したら買い溜めしてる食料から適当に見繕ってくれない?」


「はーい」


「なによ、失礼ねー。お酒ならあるわよー!」


 エクレインが不満の声を上げたが誰も相手にしなかった。さてと、これからセルフ歓迎会の準備だ。

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