161 足止め策
残された一匹がこちらに向かって突っ込んできた。俺は当てずっぽうで
着弾し、ドゴンッ! と鈍い音を立てたものの、どうやら身体は非常に硬いみたいだ。
しかし脚にでも当たったのか、体が横によれたマザーは俺たちから数メートル横を通り過ぎ、風圧で爺ちゃんに貰ったマントがバサバサと揺れた。
……もし直撃したら俺の体なんてすごい勢いで吹き飛びそうだな。いざとなったら銀鷹の護符の効果に期待するしかない。
「向こうも動きを止めたらやられるって理解しているみたいね。きっと的を絞らせないように突進を繰り返してくるわよ~」
セリーヌの言うことが正しいなら、最初に見せた
今はたまたま上手く突進を避けられたが、何度も成功する気はしない。やっぱり動きを止めてから、確実にデカい一発を当てたいところだな。
風魔法を纏わせた
山賊に使ったみたいに光魔法で目眩ましをするか? いや、ラックたちもまともに食らってしまうと向こうが危ない。そもそもこんな暗がりに住んでいるのなら、目が退化していて効果がないかもしれない。
そうなると残った策はたった一つ。……どうやらさっき思いついたのを、ぶっつけ本番でやるしかなさそうだ。
俺は覚悟を決めると、再び突進を始めたマザーの進路上に風属性のマナを込める。
セリーヌは落下速度を落とす為に風魔法を使ったが、もっとマナを込めれば浮き上がることだって可能じゃないかと思う。俺は浮き上がるようにイメージしながら風属性のマナを込める。とにかく込め続ける。
そして俺が風属性のマナを込めに込めた地点をマザーが――
――踏み抜いた!
「んんんっ!」
それに合わせて込め続けたマナを解放する。するとマザーが地面から離れ、ぶわっと浮かび上がった。このままだと天井に当たってしまうので、逆の方向にもマナを込めて――
ギュンギュンギュンッ!
するとマザーは地面から三メートルほど空中に浮かびながら、風切り音を鳴らしつつ某青いハリネズミが回転ジャンプした時のようにグルグルと高速に縦回転を始めた。
『あれは……メト◯イド!?』
ニコラが何か言っているけど、俺はセ◯派だから。
本当は宙に浮かすだけにしたいところだが、操作がすごく難しい。上から下からとマナを込めると、どういうワケか、こうなってしまった。でも足止めという目的は果たしているので、今回はこれで良しってことにしよう。
俺は高速回転を続ける不思議物体に向かって、風魔法を纏わせた
「グゲッ!」
どこに当たったかは分からないがマザーが叫び声を上げ、貫通した
俺はなんとか成功した『
地面に横たわったマザーは既に死んでいるようだった。俺は念のために柔らかそうな喉に
《マザーストーンリザード 魔石入り》
魔石入りだ。元から魔石持ちなのか、食べた岩に含まれていたのかは分からない。なんにせよ金目の物が拾えたのはとても嬉しいね。
俺が一人でニンマリとしていると、セリーヌが呆れたような顔で問いかける。
「ねぇマルク、あれだけ距離が離れているとマナも減衰するものだけど、どれだけマナを込めたらあんな距離から相手を浮かせられるの……?」
「ええと、いっぱい……?」
そうとしか答えられない。魔力のゴリ押しばかりで本当にすいません。
「そ、そう……。何をするのかしらと思っていたけど、相変わらず驚かせてくれるわね~」
セリーヌが腰に手を当てながら苦笑いをする。その背中からヒョッコリとニコラが顔を出した。
『お兄ちゃん、相変わらずのハメ殺し。さすがです』
『それって褒めてるの?』
ため息をつきながらニコラと念話を交わしていると、向こうでウェイケルの声が聞こえた。
「おい、そっちはどうだ! こっちはなんとか倒したぞ!」
どうやら戦いながら随分と俺たちから離れたようだ。今はジャックの持ったランタンがウェイケルたちの周囲を照らしている。
ウェイケルの足元にはピクリとも動かないマザーが地面に伏していた。これで三匹全て倒したようだ。
「こっちも終わったよ!」
これで終わりかな。……いや、確かハーレムを囲っているオスが一匹いるって言ってたな。でもこのまま帰っても問題ないよね――
そう思った瞬間、何故か巣全体がドシン! と揺れた。今までで一番激しい揺れだ。
直後にまるで足の力が抜けたような感覚に襲われた。
「――えっ?」
足元の地面が崩落している!? 気づいた時には既に遅く、俺とニコラとセリーヌは更に下の空洞へと落下していった。
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