160 マザー
ぶっ放した
すぐさま光球をそちらに向けてみると、絨毯爆撃が起こした土煙が収まった後には十体を超えるストーンリザードの死骸が横たわっていた。なんとか全てに命中してくれたらしい。ラックたちを追いかけるうちに、団子状態になっていたのが功を奏したのだろう。
ラックとジャックが俺たちと合流を果たし、ラックが肩で息をしながら口を開く。
「ハアッ、ハアッ……、セリーヌさんたちが来てくれたんだな。さっそく助かったぜ。マルク、ポーションもありがとな。全部使い切っちまったけど、アレが無かったら俺たちはとっくに死んでたわ」
どうやらポーションも無駄にならなかったらしい。ふと不安になって渡したものだけど、渡しておいて本当に良かった。
「ラック、ジャック、無事だったか。……見捨てるような形になっちまって、すまなかったな」
珍しく神妙な顔をしたウェイケルが頭を下げると、ラックがバタバタと手を振る。
「よせよ。バラバラに逃げた時に俺たちは運悪くターゲットになったが、それは仕方ねえよ。他は逃げ切れたんだろ? それなら結果的に良かったじゃねえか。それに援軍を連れてきてくれたしよ……。なぁマルク、コボルトの森の時よりもすげえことになってねえか?」
吹き飛ばされた複数のストーンリザードの死骸を見ながらラックは苦笑いをし、ジャックは顔を引きつらせている。
「それな。俺もこの坊っちゃんとお嬢ちゃんには、マジで驚かされっぱなしだよ。何を見たかゆっくりと話してやりてえけど、とりま脱出してから――」
「――今すぐ脱出は、ちょっと無理かもね~」
髪をかき上げながら口を挟んだセリーヌの視線の先には、一回り大きいストーンリザードが横並びに三体並び、威嚇音と共に喉を膨らませていた。あれがマザーストーンリザードなんだろう。
――先手必勝!
俺は自分の最大級の攻撃をぶつけるべく、土魔法で自分の身長ほどの槍を作ると、すぐさま風魔法を纏わせる。
「
俺が投げ込んだランスバレットは運良く真ん中のマザーに突き刺さると、そのままの勢いで後ろに吹っ飛び、背後の壁にマザーごと縫い付けた。急所を貫いたのだろうか、マザーはピクリとも動かない。
「さあ、残り二体だよ!」
「……お、おう!」
岩壁に突き刺さったマザーを見つめていた冒険者の三人は、我に返ると各々が武器を構えた。ウェイケルとラックは片手剣、ジャックは短剣だ。
出会い頭に仲間を殺された二体のマザーは威嚇行動を止めると、すぐさま俺に向かって突進を始めた。
三メートルもの巨体が激しい足音を鳴らしながら、仲間を殺した俺に向かって突き進んでくる。……動きを止めないと。
「
俺は足止めをするべく、俺とマザーの進路上にストーンウォールを作り上げたが……。ん? あれ? 何かがおかしい!?
出来上がったストーンウォールは普段の様にどっしりと地面に根を張っているような出来栄えではなく、地面と壁との接点がなんとも弱々しい。
するとマザーは障害物もなんのそのとストーンウォールを吹き飛ばし、そのままの勢いで俺の目前へと迫ってきた。
「――えっ!?」
そうして俺とマザーが接触する寸前、俺は服ごと首根っこを引っ張られる。
俺の真横をマザーがものすごい勢いで通過して行った。まるで暴走する車が真横をすり抜けていったような感覚に、今更ながらゾッとする。
背後を見るとセリーヌがいた。どうやら俺はセリーヌに助けられたようだ。
「ほらっ! ぼうっとしない!」
セリーヌが鋭い声を上げる。初めてセリーヌに怒られたかもしれない。でもお陰で助かった。
「うん、ごめん。それとありがとう」
するとセリーヌはきょとんとした顔で俺を見て、それから微笑みながら俺の頭をポンと撫でた。
「ここにも魔石が埋まってるの忘れてたでしょう? 気をつけないとダメよ~」
「あっ……」
そういうことか。俺は普段、地面の土を利用しながら
マザーニ匹は俺たちの横を通過した後、そのまま岩壁に激突した。ドシンッ! 巣全体に音が響き、同時に大きく揺れたように感じた。この巣って崩れたりしないのかな……。
それほどの勢いで岩壁に激突してもマザーたちは平気な様子だ。くるりと俺たちの方へと向き直す。
「おいっ、こっちだ!」
固まるのは不利と判断したんだろう。いつの間にかウェイケル、ラック、ジャックの冒険者組が俺たちから距離を取っている。そしてラックが白い団子のようなものをマザーに投げつけた。以前コボルトの森で見たことがある目潰し玉だ。
「シャー!」
それを食らったマザーのうちの一匹は、威嚇音を鳴らしながら冒険者組の方へと突進する。
「すまん、もう片方は任せた!」
「任されたわよ~。マルクが」
「お兄ちゃん、がんばえ~」
結構危ない気がするんだけど、まだセリーヌは手を出すつもりはないらしい。俺はニコラの気の抜けた応援を聞きながら気を引き締め直し、マザーと相対した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます