131 パジャマ
ポーションを飲んだ二人はお腹がへこむことはなくとも、苦しさからは徐々に解き放たれたようだ。どうやらE級ポーションは食べ過ぎにも効くらしい。デリカなんかは回復するや否や剣の素振りを始めたくらいだ。
食べ過ぎに効くなんて聞いたこともなかったが、よく考えたら金貨1枚もするE級ポーションを、こんなバカな使い道に使う人がいなかっただけかもしれない。風呂での効能も実際やってみるまで知らなかったことだし、今後も色々と試したほうがいいかもしれないな。
風呂にはセリーヌが入ったあとに俺が入り、その後に回復したニコラがデリカと一緒に入ろうとしたものの浴槽の小ささで断念。デリカに先を譲ることとなった。
『仕方ないので、今回は美女と美少女の残り湯を楽しむことにします』
とのことだ。相変わらずレベルが高い。ちなみに俺の残り湯でもあるんだけどな……。
最後のニコラが風呂に入っている間、残った三人は各々ベンチや椅子に腰掛け風呂上がりの体を冷ましていた。
バーベキューを始めた頃はかろうじて日が差していたが、今はすっかり真っ暗だ。薄雲のかかった月がぼんやりと放つ明かりと俺の照明魔法だけがドームハウス周辺を照らしている。
明かりに獣や魔物が寄ってくるんじゃないかと思ったが、いまのところ空間感知には何も引っかかっていない。
「セリーヌ、こういう明かりに魔物が寄ってきたりはしないの?」
椅子に座りながらテーブルに体を預けるように脱力していたセリーヌが、顔だけをこちらに向けて答える。
「うーん、グラスウルフは穴ボコに入って寝ている時間帯だし、この辺は他に近づいてきそうな好戦的な魔物はいないみたいねえ。でもまぁ念のために明かりはこれ以上は強くしないでね」
「はーい」
どうやら大丈夫のようだ。とはいえ照明魔法の光量を今より更に下げるあたりが俺のチキンなところだと思う。
そうしていると風呂小屋の方から土を踏む音が聞こえた。ニコラが風呂から上がってきたらしい。皆の視線がニコラに集まり、すぐにセリーヌが困ったようにニコラにやさしく語りかける。
「……ニコラちゃん。いちおう旅の途中だし、万が一に備えて寝る時も旅支度のままのほうがいいんだけど……」
ニコラはピンク色のパジャマに着替えていた。昨日の村長宅でも同じ物を着ていたが、さすがに宿泊と野宿では勝手が違うようだ。ちなみに風呂に入る前、ニコラに言われるがままにアイテムボックスから出したのは俺である。
「これはお爺ちゃんに貰ったパジャマなの。丈夫な布で出来てるんだよー」
そう言ってニコラがセリーヌに小走りで近づき、パジャマをよく見せる。
「ん? どれどれ。……あら、本当ね。とても破れにくい布みたいだけど」
セリーヌがパジャマを両手でぐいぐいと引っ張ったり指で突いたりしながら確かめる。
「クリムゾンスパイダーの糸から作られた布だって言ってたよ」
俺がセリーヌにパジャマの追加情報を教える。孫馬鹿と化した爺ちゃん曰く「女の子なんだから野宿でもかわいいのを着ないとな! これならかわいいし丈夫だぞ!」とのことだった。
結構珍しい素材らしく、防刃性と耐久性そのうえ耐魔性も若干あるらしい。俺の分を用意出来なかったことを爺ちゃんはしきりに謝っていたが、俺としてはこんな高価そうな物をもらわなくてホッとしている。値札は俺が見る前に処分していたけど、おそらくスノーウルフのマントより高いだろうアレ。
「クリムゾンスパイダーのパジャマ? そんなものが流通していたことに驚きよ……。確かに見た目はともかく丈夫で動きやすいみたいだし、これなら問題ないのかしら?」
「お爺ちゃんは旅装束代わりにもなるぞ! って言ってたよ!」
ピンクのパジャマ姿で旅をする絵面はシュールすぎるだろう。セリーヌも俺と同意見のようだ。
「そ、そう……。さすがに旅装束にするのは止めたほうがいいと思うわよ? まぁパジャマの件はわかったわ。それじゃあそろそろ寝ましょうか……」
深く考えることを止めたらしいセリーヌは軽く頭を振ると、俺たちをドームハウスへと引き入れた。
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