24 決闘

『なあニコラ。俺、前世でも人を殴ったり蹴ったりしたことないんだけど』


『お兄ちゃんには魔法があるでしょう? あれでちょこっと泣かしてやればいいんです。大丈夫大丈夫、ファイト~』


 ニコラは俺に面倒を押し付けることができて、とってもご機嫌になっていた。


 なんだかイラっとしたので、ニコラのほっぺを人差し指でグリグリする。ちょっとだけスッキリした。


「ふぉにいちゃんがんばってね~」


 グリグリされながらでもニコニコしてやがる。やっぱりスッキリしない。


 とりあえずニコラは置いといてだ、そうか、決闘って、別に魔法使ってもいいのか。使うなと言われてないし使わない理由もなかった。それじゃあなんとかなるのかなあ。


「相談は終わったか? こっちだ! ついてこい」


 律儀に待ってくれてたジャックについて行くと、教会の裏庭に到着した。隅には畑を作ってるスペースがあった。おっ、キャベツときゅうりが植えられている。マナも微かに感じるなあ。シスターの誰かが育てているのかな。


 俺が座り込んで野菜を観察していると、ジャックの怒鳴り声が響いた。さすがに悠長に野菜観察をしている場合じゃないことを思い出し、ジャックの方を見る。取り巻きが2人並んでいるけど、さすがに三対一じゃないよね?


 俺が取り巻きに視線を向けていると、それを察したジャックが自分の腕を組んで言い放つ。


「こいつらは立会人だ。俺は卑怯者じゃないからな!」


 十歳が六歳相手に決闘を申し込む時点でどうかと思うが、三人相手に立ち回るのは大変だと思っていたので助かった。


「わかったよ。それじゃあいつでもどうぞ」


「何だお前、余裕ぶっこきやがって。降参したら負けだからな!」


 この世界の子供の決闘というか喧嘩が、どういうものなのか分からないのが正直怖い。いきなり殺傷可能な魔法とか使ってこないよね? ウルフ団には魔法が使える子は一人もいなかったけど、ジャックはどうなんだろうか。


「それじゃあはじめ!」


 取り巻きの一人が合図を出す。


「うおおおお!」


 ジャックが雄叫びをあげながらこちらに走ってきた。まずは自分の前方の土を土魔法で柔らかい砂にして前進速度を落とす。畑で幾度となくやってきたことなのでお手の物だ。そうして魔法を使いながら俺は数歩後ろに下がった。


「うおっ!?」


 狙い通りに柔らかくなった土を踏み抜いたジャックの脛まで地面に埋まった。次は驚いて足を止めたジャックの足場を土魔法で固める。これでそう簡単には動けなくなったはずだ。


「え? なんだこれ!? 魔法か?!」


 ジャックが喚いている間に土属性のマナを更に注入し、土の硬度を上げる。今はコンクリくらいの硬さになっているはずだ。これでどうだろうか、謎の異世界パワーで土を破壊して出てこられると困るんだけど。


「うん、魔法だよ。降参してくれる?」


「くそっ! 魔法を使うなんてズルいぞ!」


 どうやらジャックは魔法を使えないらしい。とりあえずホッとした。それならこのままいけそうだ。


 次は風魔法をジャックに向かって放つ。ちょっとした強風程度だが、ジャックはバランスを崩して手を地面に付けた。すかさず腕を土魔法で拘束。四つん這いの出来上がりである。


「さて、ニコラのスカートをめくりにいってたけど、ジャック君も同じことされたらどう思うのかな~?」


 ふと、「目には目を歯には歯を」なんていうことわざを思い出した。


 人を傷つけた時、同程度の刑罰を加えるという意味合いで使われているが、もともとの原文では、同じ程度の刑罰で許してあげましょうねという過剰な報復を抑止する目的があったという説があるとかなんとか。


 というわけで今回は過剰な報復をやってみることにした。ズボンだけでなくて下着もずらしてやったのだ。ポーク○ッツのお目見えである。


「うわあああああ~やめろやめろ~!」


 フルチンジャックが騒ぎ立てる。ニコラのほうを見ると親指をグッと立ててさわやかな笑顔を浮かべていた。頬を赤らめて顔を手で覆うといったリアクションは期待できないらしい。


「どうかな、まいったかな? それともこのまま、まだ学校にいるみんなを呼びに行こうか?」


「う、うるさい! お前ら助けろ!」


 ジャックが取り巻きに向かって叫ぶ。取り巻きは俺を取り囲もうとしたが、右手を前に伸ばしただけで、動きを止めた。ヘイヘイピッチャービビってる~。


 それを見て、助けがこないと察したジャックが叫んだ。


「ま、まいった! 降参する! 俺の負けだ!」


「本当に? 戻したとたんに殴りかかってこない?」


「しねーよ! 魔法を使えるやつには関わるなってのが兄ちゃんの教えなんだ!」


 それなら大丈夫かな。俺は土に込めていたマナを分解し、拘束を解除する。ジャックは急いでズボンと下着を履き直し、顔を真っ赤にしながら怒鳴る。


「お、覚えてろよ!」


 定番の捨て台詞を残して去って行き、裏庭には俺とニコラだけが残された。ジャックがこれで諦めてくれればいいんだけどな。とりあえず土魔法を使ったあたりを均して元通りにする。


「ふう……帰るか」


「……帰りましょうか、セクハラショタコンお兄ちゃん」


「一応お前を助けてやったのにひどい言い草だよ」


 俺はため息まじりに答えた。するとニコラは俺の前に回り込んで、にんまりとした顔を浮かべる。


「感謝はしてますよ。ほっぺにちゅっくらいならしてあげましょうか?」


「いいえ結構です。それじゃあ今度こそ帰ろうか」


 妹にキスされて喜ぶような年頃ではないのだ。俺はもう一度ため息をつくと、ニコラと一緒に教会の裏庭を後にした。

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