15 お前のものは俺のもの

「月夜のウルフ団」に入団して一ヶ月ほど過ぎた。と言っても空き地に籠もって土魔法の練習をしていたので、それほど今までと変わらないかもしれない。その間に作ったものはこんなところだ。


 まずは人数分の椅子と四~五人用の丸テーブルを三台。今度はしっかり持ち運べるようにした。


 次に数人が座れるベンチ。ゆったりと座れる大きさなので、日差しの良い日にベンチで座ってるとウトウトしてくる。


 魔法の砂が余っていたので、囲いを作り砂を敷き詰めた砂場を作ってみた。前世では砂場は雑菌だらけとよく言われていたが、魔法の砂ならおそらくそういったものとは無縁なはずだ。


 造形の練習用に馬や犬の形をした像を作った。いちおう像の背中には座れるようになっている。いつかペガサスにも挑戦したい。


 そしてノリで作ってしまった滑り台。近所のお子様に大人気である。


 ……うん、ちょっとやりすぎたかもしれない。もはやこの空き地は、近所の憩いの場たる児童公園と化していたのだった。


 ご近所の若奥様方も俺よりも小さい子供を連れて空き地にやってきている。……あっ、今日は初めて見かける若奥様がいるね。不安そうな顔で先輩奥様に声を掛けている。……どうやら受け入れられたようだ、よかったよかった。公園デビューは見ているこっちもハラハラするねえ。


 俺が新しいコミュニティの誕生を祝福していると、いつの間にか隣にデリカが立っていた。デリカはにこやかに談笑している若奥様方を見つめた後、こちらに振り返り俺に圧をかける。


「ねぇマルク~、ここは隠れ家なんだけど~?」


「あははは……。で、でもほら、自警団なんでしょ? ご近所に親しまれてる地元密着型自警団もいいじゃない。すごいなーあこがれちゃうなー」


「う~~!」


 デリカがプルプル震えながら唸る。納得は出来てないらしい。とはいえ、集まってる人を追っ払うようなことはしない。少しヤンチャだが、デリカはいい子なのだ。


 しかし俺の悪ノリで、せっかくの隠れ家が全く隠れなくなったのはさすがに可哀想だ。なんとかご機嫌を取りたいところだが、何かいい案は無いものか。


「ねえ親分。今日は魔法の訓練も終わったし、町の巡回に付いて行っていいかな?」


 とりあえず何が喜ばれるかリサーチの一環として巡回に付き合うことにした。何かヒントが得られるかもしれない。


「マルクが巡回に参加するのは初めてね! それじゃあさっそく行くわよ!」


 早くも上機嫌である。これで目標を達したような気がしないでもないけど、俺も町のことはさほど詳しくない。ここは巡回しながら色々と見学してみよう。ちなみにニコラは今日は家でのんびりしている。ギルが来る日と来ない日の傾向が分かってきたらしく、ギルおやつの来ない日は自宅でダラダラしたいんだそうだ。



 ◇◇◇



 と言うことで初めての巡回に参加した。


 今日の巡回メンバーは俺、デリカ、デリカの弟のユーリ、ウルフ団団員でデリカの一歳下の少年、ラングである。


 最近の巡回ルートは俺の宿屋から最寄りの門からスタートし、危険な猛獣や怪しい錬金術師の店を巡回しながら南広場の噴水まで行き、そこで折り返して別ルートで帰るんだそうだ。


 ちなみに危険な猛獣はちょっとお金持ちの家で飼われているよく吠える犬で、怪しい錬金術師はポーションを扱うただの道具屋であった。


 巡回という名のお散歩が続き、折り返し地点の南広場の噴水に到着した。ファティアの町は領都へと繋がる中継地点、宿場町の一つとしてそこそこ栄えているが、広さはさほどではない。とはいえ、子供の脚ではここまでくるだけでもそれなりに大変だった。魔法の練習ばかりしないで、体力も鍛えなければいけないのかもしれないなあ。


「ここで待ってて!」


 デリカはそう言うとウチの畑から持ってきたトマトを肩掛け鞄から取り出し、近くの串焼き屋台へと走って行った。そしてトマトと四本の串焼きを交換すると、屋台のおばさんに手を振りながら帰ってくる。


「あたしのおごりよ!」


 デリカが俺、ユーリ、ラングに一本づつ手渡す。


 俺の育てたトマトなんだが、これはおごりになるのだろうか。お前のものは俺のもの状態である。そもそも土地も種もギルのもんなんだけど、ギルは細かいことは言わないのでまぁいいだろう。


 深く考えることは止めて肉の串焼きを見つめる。何の肉かは分からないが、香ばしいタレの匂いに食欲が刺激される。


「ウマーイ!」


 結局のところ美味しかったらこれしか言えなくなるのだ。前世で見たお笑い芸人は正しかった。


「ふふ、そうでしょ! あたしのおばさんは腕がいいんだ!」


 屋台のおばさんはデリカの叔母らしい。後から聞いたところによると、デリカから魔法トマトのことを聞いたおばさんが、デリカに物々交換を提案したらしい。値段的には魔法トマト一個と数本の串焼きだと串焼きのほうが高い気がするが、この町には魔法トマトは売ってないみたいだし、なによりかわいい姪におやつをごちそうしたいんだろうと思った。



 ◇◇◇



 串焼きを食べた後は行きとは違う道を通って帰還である。途中で両手開きの扉が特徴的な大きめの建物が見えた。あれってもしかして……。


「あれは教会だよ。俺はあそこに住んでいるんだ」


 俺が興味深く眺めているのに気づいたのか、ラング少年が教えてくれた。


 ラングは孤児で、教会に併設されている孤児院で暮らしているのだそうだ。前世と比べて生き辛いこの世界では孤児はさほど珍しくもないらしく、ラングの他にも十人ほどの孤児があそこで生活しているのだとか。


「六歳になったら、お前も教会学校でここに来る機会もあるんじゃないかな」


 この世界には前世の日本のような小中の義務教育はない。とはいえ全く何もないわけではなく、最低限の教育は週に一度の教会学校で受けられるのだ。


 家庭の事情もあるので行くか行かないかは自由だが、俺はこの世界の常識なんかを知るために行くことに決めていた。ちなみにニコラは行かないつもりだったようだが、「お兄ちゃんが行くんだから行きなさい」と母さんに言われて渋々付いて来ることが決定している。


「そうだね、その時はよろしくね」


 おう、とラングは笑みを浮かべながら応えた。茶色の短髪が似合うヤンチャっぽい外見なんだが、案外面倒見は良いのかもしれない。なんて思っていたんだが、教会からシスターらしきおばさんが出てくると、ラングの表情は一変した。


「これっ! ラング! 今日はあなたが弟たちの世話をする日ですよ!」


「あっヤベッ、見つかった! それじゃあな!」


 ラングはこちらに手を振りながらシスターの元へと走る。どうやらラングは子守をサボっていたらしい。ま、まぁ遊びたい盛りだしね、ついついやっちゃったんだね。


「もうっ! お手伝いがある日は来たら駄目って言ってるのに!」


 デリカが腰に手を当てつつ不機嫌な顔をする。そして俺たちはシスターに説教されているラングを尻目に教会から立ち去った。



――――――



デリカの書籍版キャラクターデザインを作者ツイッターにて公開しております。リンクはこちら!

https://twitter.com/fukami040/status/1387374483187531780

よろしければぜひ見てくださいませ\(^o^)/

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