14 月夜のウルフ団

「お姉ちゃんたち、悪い人なの?」


 目をうるませながらニコラが先制攻撃をする。


「ちっ、違うわよ! あたし達はこのファティアの町を守る正義の自警団なの! だ、だから泣かないでよ……?」


 なるほど。どうやらそういうていで遊んでいる子供たちのグループのようだ。とりあえずいきなり接収された空き地について尋ねようか。


「ねえデリカお姉さん、この空き地をどうするの?」


「あたしのことは親分と呼びなさい! 空き地はあたし達の隠れ家とするの!」


 親分(笑)。ニコラもプルプルして吹き出したいのをこらえている。いやまあ歳相応なんだろうけどね? 黒歴史を絶賛生産中の今が少し気の毒になってきますな。数年後、枕に顔をうずめて足をバタバタさせるがいい。


「でもここはギルっておじさんの土地だよ。勝手に隠れ家にしたら怒られちゃうよ?」


 砂山のオブジェを作りまくっていたのを棚に上げて、一応説明してみる。


「それはあんたがなんとかしなさい! あたしたちは前の隠れ家を奪われ、今は流浪るろうの身なの!」


 わーお、丸投げだ。それにしてもご近所の子供グループか……。ここで僕らは君たちとは遊ばないから、切って捨てるのは簡単だろうけど、年相応に子供達と遊ばないのも不自然だし、両親も不安に感じるかもしれない。もう少し話を聞いてみようか。


「デリカ親分(笑)と自警団は、普段どういうことしてるの?」

 

「なんだか微妙にイラっとする言い方ね……。あたしたちは町を巡回警備して、その後は隠れ家で仕事の疲れを癒やすのよ!」


 つまり町中をうろついた後の休憩スペースが欲しいわけだ。その辺で座ればいいじゃないと思わなくもないけど、まあ隠れ家とかに憧れる年頃なんだろう。それくらいなら特に問題はないかもしれない。


「それじゃあ僕は隠れ家で留守番してるね。それでいいならニコラと一緒に子分になるよ」


 一応ニコラも巻き込んでおく。異論がないのか、念話は聞こえてこない。


「隠れ家の守りも重要だわ! マルクとニコラに隠れ家の防衛を任命する!」


 ワーッと周囲の子供たちも盛り上がっている。どうやら場を冷やすことなくうまく立ち回れたっぽいね。とりあえずギルが来た時にはちゃんと報告をしておこう。



 ◇◇◇



 その後に詳しい話を聞いてみた。以前はここより少し離れた場所にある小屋を隠れ家にしていたが、取り壊されることになったようで新天地を探していたらしい。そしてデリカの弟のユーリが空き地を発見し、数回の斥候の後にデリカに報告したそうだ。


「月夜のウルフ団」はデリカとユーリの他は男二名、女一名の合計五名。そこに俺達兄妹が加わることとなる。最年長はデリカで九歳、最年少は俺とニコラだそうだ。同い年だと思ったユーリは一つ上らしい。


 翌日に現れたギルにデリカと共に事情を説明したところ、近所に迷惑をかけないこと、遅くとも夕方の鐘が鳴ったら絶対に家に帰ること、空き地の使い道が決まった時は立ち退くことをデリカに宣誓させ、空き地は無事に「月夜のウルフ団」の隠れ家となった。


 ギルは苦笑いしながらもノリノリでデリカに宣誓させていたあたり、彼にも隠れ家とか秘密基地を作って遊んだ時代があったのかもしれない。



 そういうことで「月夜のウルフ団」の一員となった俺とニコラだが、今日も今日とて畑いじり兼隠れ家の防衛である。他のメンバーは巡回とやらで俺とニコラしかいない。


「お兄ちゃん、ここが隠れ家になったことですし、土魔法でデリカたちのために隠れ家っぽいものを何かを作ってあげればどうですか? 色々な小道具を作ることは魔法の練習になると思います」


 なるほど、そうかもしれない。ざっくりとしたマンホールっぽいものや細長い土壁を作るよりも、しっかりと何を作るか決めて練習したほうが身になる気がする。


「なら椅子やテーブルでも作ってみるか。とりあえずデザインはともかく、座っても崩れない程度の固さのものを作るのを目標にしよう。最終的には屋根のある建物が作れればいいな」


「あんまり大きい建物を作るとギルおじさんからクレームがくるかもしれないですし、ほどほどにしてくださいね」


「そうするよ。とりあえずテーブルを作ってみる」


 以前作ったまま放置していたカチカチのマンホール状の土塊を水平に持ってみる。そしてマンホールの端の四箇所から土が伸びるイメージと地面から土が生えてくるイメージをとにかく練りに練る。


 すると地面とマンホールから生えてきた土塊が絡み合い、うまい具合にテーブルの脚になったようだ。後は更にマナを練り込み、土の密度を固める。完成だ。


「ふむ、若干斜めになってますが、とりあえずテーブルっぽい何かにはなったようですね。ただし地面とくっついてるので持ち運びは出来ないようですけど」


「あっ、そうか。その辺もしっかりイメージしていかないと駄目なんだな。まあ何度か練習していけばそのうち形になるような手応えはあるよ」


 どうやら隠れ家作りは魔法のいい訓練になりそうだ。めんどくさがりのニコラがガキ大将グループの傘下に入るのに反対しなかったのは、この辺を見越していたのかもしれない。


「それじゃあとりあえず、次は私の椅子でも作ってもらえますか。お尻が汚れないようにしっかり固めてくださいね」


 ちゃっかりしていると思うが特に異論もない。俺はニコラの椅子を作り始めた。

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