13 デリカ
「そうだよ。お姉さんは誰?」
「あたしはデリカ。この近所に住んでるんだけど、最近この空き地で変わったことやってる子がいるって弟から聞いてね。それで一度見に来たのよ。ほら、挨拶しないさい」
と、デリカの後ろに隠れていた弟らしい子供を突き出した。あっ、この子はたまに空き地を見にきていた子だな。
「……僕、ユーリ」
気弱そうな弟くんがつぶやく。俺と同い年くらいだろうか。
「こんにちは。僕はマルクでこっちが双子の妹のニコラだよ」
俺の横でニコラがペコリとお辞儀をした。とりあえず様子見モードのようだ。
「フーン、双子というわりにはそれほど似てないのね?」
そうなのだ。美人の母さんとイケメン父さんから生まれただけあって、それなりには整った顔をしてるんじゃないかと自画自賛している俺なんだが、ニコラの容姿は更に飛び抜けている。天使補正なんだろうか。まあ双子でも二卵性ならそれほど似ないらしいから特に変には思われてないけど、双子だと伝えると一度は言われるんだよなコレ。
「まあそうだね。それで何か用なの?」
「用事はそのまま、弟が言ってるのが気になっちゃって見に来ただけだよ。ふーん、野菜を作ってるのね。この空き地の持ち主の子なの?」
「ううん、ギルっておじさんの土地だよ。おじさんに許可をもらって魔法の訓練で畑を作ってるんだ」
魔法の練習は別に隠すことではない。冒険者にあこがれてチャンバラや素振りをしてる子供たちと何も変わらないからだ。
「へえー魔法畑は聞いたことあるけど、二人でやるなんてすごいわね! あたしは魔法畑って、たくさんの魔法の使える大人が集まって畑を耕すんだって聞いたわよ」
例の貴族向けの高級魔法野菜かな? 大人数でローテーションを組んで魔力切れにならないように延々と作業するんだろうか。ちなみに二人じゃなくてほぼ一人です。ニコラは暇で仕方ないときにちょっと土をいじってるだけなので。
「小さい畑だし、そんなすごくもないよ。でもトマトは美味しいよ、ひとつ食べてみる?」
「食べたい食べたい!」
デリカは満面の笑みを浮かべて答えた。俺は畑に向かうと今日収穫出来そうなトマトを二個手に取り、デリカとユーリに一個づつ差し出した。
「ありがとう! ……ふわぁ、おいしーい!」
そうだろうそうだろう、たーんと召し上がるがいい。美味しそうにトマトをほおばるデリカの横で、ユーリもコクコク頷きながら一心不乱に食べている。これでこの姉弟はトマトの虜になったに違いない。……父さんもこうやって母さんを餌付けしたんだろうか。いや俺はロリはNGですけどね。
◇◇◇
しばらくしてデリカはトマトを食べ終わった。そして満足そうな顔を浮かべ、指先についた汁をペロッと舐めてから言い放つ。
「集合ーーーー!」
するとどこに隠れていたんだろうか。周囲から俺と同年代からデリカくらいの年頃の男女数人が現れ、俺とニコラを取り囲んだ。デリカは胸を張りつつ宣言する。
「この空き地は今からあたし達『月夜のウルフ団』が占拠するわ! マルクとニコラはあたしの子分にしてあげるからありがたく思いなさい!」
どうやら異世界の空き地には、カミナリ親父がいるしガキ大将もいたようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます