12 アイテムボックス
魔法トマトの初収穫から二週間が過ぎた。ギルはしばらく店舗経営が忙しい時期に入るそうで、畑は好きに使っていいと言い残しトマトの種を大量に渡してからは、あまり空き地には来なくなっていた。おやつタイムが無くなりニコラのテンションはやや下がっている。
そしていかついおっさんが来なくなったせいか、今度は近所の子供もちらほらと見かけるようになった。とは言っても、空き地には入らず遠くからたまに見られているだけなんだけどね。
いかついおっさんの子分か何かだと思われてるのだろうか、それとも一緒に遊びたいとか?
童心に帰って一緒に遊ぼ! と言ってみるのも良いかもしれないが、もう精神年齢なら前世と合わせて十分におっさんだしな。遊びに付き合う程度ならともかく自分から声をかけて遊ぶのはハードルが高い。ここは気づいていない振りをすることにしよう。すまんな、子供たちよ。
そんなことを考えながら、俺は砂を出したり土を掘ったり水を撒いたりをひたすら魔法で繰り返す。その影響だろうか、以前の様に砂山を並べて見比べるまでもなく、多少は魔法の成長を実感できるようになっていた。
「ニコラ、俺のアイテムボックスって魔力の器に応じて広がるんだろ? それって普通なの?」
ニコラは今日は家から持ってきたくるみパンを食べながら答える。
『いえ、普通は最初から容量が固定されているのがほとんどですね。お兄ちゃんのはレアな部類です。小さい人で手提げ鞄くらい、大きい人で1トントラックくらいの大きさでしょうか』
いや、食ってるのは分かるけど、ズボラしないでなるべく声に出そうね?
「ゴクン。まあいいじゃないですか。脳内に妹のかわいいお声が響くのってご褒美ですよ?」
まーた考えを読まれた気がする。こわいこわい。
「心を読むまでもなく分かりやすい顔してますからね。そういえばお兄ちゃんのアイテムボックスって、今はどれくらい入るんですか?」
「限界まで入れてみたことないな。そもそもゴミ箱代わりにするか、砂くらいしか入れたことなかったし。一度試してみたいけど、いい方法がないもんかな」
「海や川の水でも吸い込めば分かりやすいですけど、海は近くに無いですし、川は町の外なので私たちで外に行くことは今はまだ無理でしょうね。門番さんにも止められると思います」
剣と魔法のファンタジー世界なので、もちろんモンスターがいる。町の外に広がる森や川にはゴブリンなんかが生息しているそうだ。
とはいえ、この町は見回りが徹底しているし周囲も見晴らしがいいので、町の中まで入ってくることは滅多に無いらしい。俺も未だに見たことはない。
「外に行かないと無理か。とはいえ、ただ水を汲みに行くために町の外に行く気はしないな。それならいつか町の外に出られるような歳になるまで地道に魔力トレーニングしてるよ。別にアイテムボックスの容量にそれほど興味もないし」
「ガチの安定志向ですね。そこにしびれるあこがれるゥー」
そこで発破をかけないあたり、ニコラも人のことを言えないと思う。しかしまぁ魔力の器も多少は増え、そこそこ魔法をコントロール出来るようになってきたからか、ちょっと飽きてきたというのも否めない。
トマトの畑は小さめのを二つ、片方にトマトの種を蒔き、もう片方を魔法で耕してマナを畑に再注入して交互に育てているんだが、耕すスピードが早くなった分、無駄に同じところを耕す時間が増えてきた。もっと別の方法で魔力を消費してみたいところだな。
「ニコラー、土魔法って、砂を出したり土を柔らかくする以外にどんなことができるんだ?」
とりあえずとっかかりは得意な土魔法から始めよう。
「そうですね、土を固くしたり、石礫を飛ばしたり、壁を作り出したりとか。そういう感じですかね。石像なんかの職人もいるみたいですよ」
「石像か。複雑なものはイメージが大変そうだなあ。土でいいならおおよその形を作って削りながら成形していけば出来るのかな。とりあえず壁を作れるかやってみよう」
手を前に伸ばしながら集中する。今まで砂を出していたのをもっと集めて固めてもっと集めて固めるイメージで……
――ドスッ
手の平の前に出現したマンホールくらいの大きさの平べったい土の塊が、柔らかい畑に突き刺さった。あぶなっ、下手すりゃ足に直撃していたな。
「すべてを全部一から作るのもいいですけど、せっかく下にも土があるんですから、そちらからもアプローチしてみたほうが色々と楽かもしれませんよ」
なるほど、言われてみればそうだな。それじゃあ下の土から引っ張るような、それでいてこちらからも吐き出すようなイメージでやってみよう。
すると今度は横十センチ幅5センチ、高さは俺が突き出した手の平の高さまでの土壁が作れた。さっきより楽だったな。しかし今度のは突いてみると簡単に崩れた。
「固さはマナを注入することでどんどん増すことが出来ると思いますよ。後は訓練次第ってことですね」
「いつか鋼のなんとか術師みたいに瞬時に壁を作ってみたいもんだな」
「そうですね、訓練次第では……がんばろうね、お兄ちゃん!」
急に猫かぶりモードになったニコラを訝しんでると、後ろから声をかけられた。
「ねえねえー、この畑ってあんた達が作ってるの?」
俺より二つか三つ歳上だろうか。赤毛をポニーテールにしたお姉さん(肉体年齢比)が俺たちを見てにっこりと微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます