8 空き地
お腹をさすりながらテクテクと歩き、空き地に到着した。
ウチの宿屋「旅路のやすらぎ亭」の裏手、徒歩で五分もかからない町の外壁沿いに空き地がある。
この空き地にはもともといくつかの店舗があったらしいが、建物が老朽化していたので店を他所に移して更地にしたらしい。そしてこの土地は今のところは手付かずのまま放置されているそうだ。
ちなみに空き地ではあるが、土管は無いし、大長編だけキレイになるガキ大将もいないし、ガラスを割られて怒るカミナリ親父もいない。カミナリ親父って当時は怖いおじさんだと思っていたけど、今になってみるとガラスを割られて怒らないほうがどうかしてるよね。
そんな近所の子供たちの憩いの場となるであろう空き地だが、今はガランとしており人っ子一人いない。
まあ俺も最近この空き地の話を聞いて初めて来てみたんだけど、こういうもんなんだろうか。子供は大事な働き手でもあるので、親の手伝いでもしているのかもしれない。俺はまだ五歳だから手伝いをしなくてもセーフのはずだ……よね?
そんなことを考えていると、空き地で何もせずにポツンと突っ立っているのがなんだか後ろめたくなってきた。
そ、そうだ。せっかくなのでニコラに教えてもらったマナの器の拡張訓練をしてみようかな! ニコラの言っていたことを思い出してみる。
「とにかく魔力を枯渇するほど使えって言ってたな……」
魔法を使うこと自体は初めてではない。このファンタジーな世界でも、才能のない人は魔道具を扱う程度にしか魔法を使えないみたいだが、俺は幸いにも魔法を使うこと自体はすんなりと出来た。
とりあえず土魔法を発動させてみる。手を前に突き出し魔法の発動を念じる。
ニコラが土属性の天使だったせいか、俺の得意な属性も土属性らしい。これも初めて魔法を使ってみた際に、ニコラの見立てですぐに判明した。
土属性って言うと四天王最弱だったり、カレーが好きそうなイメージがあるけど、別に一流冒険者を目指す気もない俺からすると、火や風みたいないかにも攻撃的な属性でなくても得意な属性があるだけ御の字だと思う。
目を瞑り、手の平から砂が出るようにイメージする。俺の中からマナが引き出され、手の平から砂が具現化していくのを感じる。目を開くと手の平からさらさらと砂が流れ落ちていた。
その状態を維持したまましばらく様子を見る。特にマナの枯渇を感じないようだ。ならばここで一気に手のひらにマナを籠める! ……なんてことをして意識を失うテンプレは避けたかったので、とりあえずその場に座り込み、そのまま手の平から砂を出し続ける。
――ビュオッ!
突然向かい風が吹き、俺の顔に砂がひっかかった。
「うわっ! ペッペッ!」
口に入った砂を吐き出しつつ上着で顔を拭う。そういえばマナの砂って普通の砂に比べてどうなんだろう。害があったりしないのかな?
目に入らなくてよかったと思いつつ、突風対策にアイテムボックスを使ってみることにした。
アイテムボックスの発動を念じると目の前に鈍色の空間が開く。今までゴミ箱代わりにしか使ってなかったとは言え、利用頻度としては一番使い倒していたのでお手の物である。さっそくアイテムボックスに手のひらから出ている砂を直接収納し続ける。
そのまま三十分ほど砂を放出していくと目の前が白くなり頭がボンヤリしてきた。おそらくこれが魔力切れの症状なのだろう。決して眠くなってきたのではないのだ。
すぐに砂の放出を中止して、アイテムボックスに入れていた砂を全部出してみると、三十センチくらいの砂山ができていた。
「うーん、これを毎日繰り返していけば、マナの器の拡張訓練になるのかな?」
とりあえずここを秘密の練習場として毎日通うことにしよう。
◇◇◇
マナの拡張訓練を始めて今日で一週間となる。微妙に砂の放出できる量は増えているらしい。
というのは、初日に端っこに作った砂の山から順番に、翌日はその隣に、更に翌日は隣……と砂の山を並べているので、視覚で成長が確認できるのだ。簡単に崩れないように帰る前に水魔法で濡らしている。これは我ながら大発明だと思うね! 最初は三十センチくらいだった砂山が、昨日は六十センチくらいになっていた。
「お兄ちゃんの魔力は順調に増えていってるようですね。今後はこれに並行して他の属性の訓練なんかもしていくべきかもしれません」
今日はニコラも練習を見学していた。俺としても無言で砂を出し続けてるのは精神的にキツいので、話し相手がいるのはうれしい。
「他の属性ねえ。水は砂山を固めるのに使ってるけど、火は危ないからとりあえずパスだな」
魔法の練習で火災を起こして損害賠償で一家離散とかシャレにならん。
「そうですね。火はあくまでイメトレくらいに抑えて、他の四大属性、土と風と水。土は絶賛発動中ですから、風と水を使ってみたらどうですか?」
「そうだなあー。風は見た目が分かりにくくてイメージしにくいし、とりあえず水をもう少し訓練してみるかな――」
なんてことをぼんやり話していると
「くぉらー! ワシの土地でイタズラをしとったのはキサマらかーーーーーー!」
前言撤回。異世界にもカミナリ親父は存在していたようです。
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