5 吉田昌享年28歳

 俺、吉田昌よしだまさるは、世間的には一浪するほどでもないレベルの大学に一浪して入学し、その後某営業会社に就職。営業マンをしながら日々を過ごしていた。


 きっと世間ではブラックと呼ばれるレベルに達している会社で、夜遅くに仕事が終わればメシを食うくらいしか楽しみもなく、行きつけの居酒屋で独り酒が日課であった。


 そしてその日はひと月に一度はあるようなクレーマーに当たったため、ストレス解消のためにいつもの居酒屋で泥酔。帰宅中に滑って頭をぶつけ、自宅に帰り着いたものの、そのままベッドで死んだらしい。享年28歳であった。


 そんな俺だったが、死んだ後に魂むき出しの状態で天使の不手際により天界で覚醒。覚醒してしまうと輪廻転生が出来ないということで、記憶を残したまま異世界に転生することになった。


 その際、不手際を起こした天使は責任を取る形で俺のサポートとして異世界に同行することになった。ただし天使としてではなく、俺の双子の妹として受肉したらしい。


 今までの常識が通じない異世界でサポートがあるのは正直ありがたい。とはいえ、天使としての力は期待できないらしい。あくまで知識としてのサポートなんだそうな。


 まぁ前世では働き尽くめで、趣味やら旅行やらと人生を楽しんでいたと思えるのは大学時代までで、就職してからはご覧の有様だし、せっかく異世界に転生したのなら今度はもう少しマシな人生になるようにがんばりつつ楽しみたいと思う。


 ということでサポート役の天使(属性名とナンバリングが名前だったが、現世の両親にニコラと名付けられた)に、この異世界についてベッドの上で色々と聞いた。


 ベッドの上と言っても寝物語的な色気のあるアレではなく、単に赤子二人が柵の付いたベッドで寝転がされているだけである。


 この世界の名前はフェルガルド。いわゆる剣と魔法のファンタジー世界。前世と違い魔法があるなら神様なんかもダイレクトに関わってくるのかと思いきや、基本的には魂の循環作業以外は関知しないらしい。


 それで気になる魔法についてだが、この世界において魔法とは、体内に宿る魔力を練り込み、マナと呼ばれる属性エネルギーに変換、それを術者のイメージ通りに物質世界に顕現けんげんさせることなのだという。


 精霊なんかも存在しているので、マナやイメージの足りない部分を精霊に補ってもらうことで発動する精霊魔法なんてのもあるみたいだが、精霊はどこにでもいるものではないので、使い勝手はよくないそうだ。


 そして文化なんだが、とりあえず俺の生まれ落ちた地域はいわゆるヨーロッパ風ファンタジーと言ってよさそう。ニコラによるとそれなりに世界は広いので、他にも色んな文化もあるそうな。大きくなったら旅行に出かけるのもいいと思う。


 そして次に俺とニコラの両親についてだ。領地持ちの貴族……ということはなく、宿屋を経営している若い夫婦であった。


 最初は神様も気が利かないなと思わなくもなかったけど、両親ともに善良な心根のようだし、よく考えたらマナーやらなにやらめんどくさそうだし、特に貴族へのあこがれもなかった。


 ニコラにも聞いてみたところ、貴族なら政略結婚をさせられそうだし、仕事(俺のサポート)もやりにくくなるとのことで、むしろ庶民でよかったとのこと。


 自らの失敗で現世に受肉して俺のサポートをすることになったとはいえ、彼女なりに現世を楽しんで貰えたらとは思う。


 それにしてもニコラの言う政略結婚のように、貴族だと生まれたときから面倒なしがらみも発生しかねない。もしかしたら庶民の両親に生まれたっていうのも神様の思し召しだったのかな。今となってはまさに神のみぞ知るだけど。


 こうして、俺の異世界での新しい人生が始まった。最初の頃は生まれたてでなにもできずに歯がゆい思いをすることが多く、少し成長してからは新しい世界の文化や慣習に戸惑う日々が続いた。


 ようやく落ち着いてきたのは俺が五歳になった頃だった――

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