4 おばさん型巨人

「オギャー! オギャー!」


 気が付けば、俺はおばさん型巨人に捕まり号泣しているようだった。そして訳も分からないまま号泣していると柔らかい布に包まれたようだ。


 何故か目がかすみ見えにくい。そしてしばらくすると同じようにおばさん型巨人に抱かれた真っ赤なサルが目の前に見えた。というかこれはアレだ、人間の赤ちゃんってヤツだね。


 俺と同じように泣いてはいるが、若干棒読みっぽい。しかもまだまだ短い片腕で胸を、もう片方で股間を隠そうとしているようにも見える。


 おばさん型巨人が巨大なベッドに仰向けで横たわる、同じく巨人の女性に向けて話す。


「レオナちゃん! 元気な双子の赤ちゃんだよ! いやまあ片方はなんだか変な様子だけど? ……いや、でも五体満足! 良かった、良かったねえ!」


 俺の横にいる赤ちゃんを見ながら、おばさん型巨人が気まずそうに勢いでごまかすように話す。ベッドに横たわる女性はそれどころでもないようで、ただ俺たちの方を向いて安らかな笑みを浮かべている。


 さすがに俺だって状況を理解しましたよ。これは転生したんだって。今の俺は赤子らしい。


『――ヨシダさん。ヨシダさん、聞こえますか?』


 とそこで頭の中に声が響いてきた。頭の中に響いてるのに、なぜか声が響いてきた方向が分かる気がしてそちらの方を向くと、胸と股間を隠した赤ちゃんと目が合った。


『あっ、聞こえるみたいですね。私です。天使の土25673888です』


 正確な時間はよくわからないが、体感でついさっきまで横にいた天使のようだ。


『どうやら上司に魂を掛け合わされた上にニつに分けられ、双子としてこの世界に生誕したようです』


『えっ、なにそれ大丈夫なの?』


『まあ上司のすることですから、変なことにはならないとは思いますが……。それでもこのような試みは私は聞いたことないですからね、正直私には分かりません』


『なんかすごいことを軽くやっちゃったんだね。今更だけど、あのじいさんって神様?』


『あなた方の言うところの神という認識で間違いないかと思います』


『そうか、やっぱり神様だったんだな。ところで君のその姿ってもしかして……』


『ヨシダさんをサポートするために双子の妹として受肉したようです。天使としての能力の方はほぼないと見て間違いなさそうですね。ところで私の胸と股間を凝視しないでいただけますか?」


『見てねーし! さすがにそんな趣味はないわ!』


『本当ですかね? ま、それはさておき、あなたと私の魂は一度は混ざりあったことでバイパスが通り、このように声を介さず会話は出来るようです』


『テレパシーとか念話とか言われるものかな? そういえば今ここにいる人の会話もまるで日本語のように理解できるけど、これは?』


『上司がサービスに付けておくと言ってました。異世界言語翻訳のギフトのようです』


『ギフト?』


『生まれたときから持っている才能のようなものです。これらの才能は後天的に発生することもありません。まさに神から贈られしものだと言うことでギフトと呼ばれています』


『つまり神様からのサービスなのか。たしかにいきなり言葉の通じない世界に放り込まれるのはキツそうだし、ありがたく受け取っておこう。ちなみに……他にはないの?』


『欲しがりますねえ。……ありますよ。いわゆるアイテムボックスってヤツですね。魔力の容量に応じて収納容量が増え、いつでも出し入れ可能です』


『おー、魔力のある世界なのか。それに便利そうな能力だ。なんだかんだでサービスが手厚い気がするし、じいさんは思っていたよりやさしい神様なんだな』


『……とばっちりで飛ばされた私としては、全くそのようには思えないんですけど』


 元天使が死んだような目をしながらボソリと呟いた。


『まだ引きずってるみたいだなあ。まぁ初仕事の日にいきなりやらかして現世に転生とか、すぐに心の整理が付くほうがおかしいかもしれないけど。とはいえ、考えたところでどうしようもないんだし、切り替えてやっていくしかないんじゃない?』


『……まぁ確かに言われてみれば、今更どうしようもない気がしますね。……よし、わかりました。この世界の知識については転生直前に上司に叩き込まれてきましたので、そちら方面でのサポートしながら、私もせっかくの現世を楽しもうかと思います。よろしくおねがいしますね、


『お、おう。こちらこそよろしく頼むよ』


 そのような脳内会話をしていると頭の上で


「泣き止んだと思ったら、坊っちゃんとお嬢ちゃんが仲良く見つめ合ってるよ! こりゃあ将来も仲良し兄妹になりそうでなによりだね!」


 助産婦と思しきおばさんが快活に笑った。

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