3 漬け置き洗い
「異世界に転生ですか」
「うむ、記憶を消すことは出来ないのでお主のいた世界に転生することは出来ん。しかし他所でなら記憶を持ったまま転生してもよかろう」
まんま異世界転生ってヤツだな。俺もネットを巡回していて話題になっていたWEB小説やアニメなんかをいくつかは読んだり観たりしたことはある。チートスキルで無双したりハーレムでウハウハのヤツだ。
「ハーレムのう……。前世で異性との関係をロクに維持できなんだ人の子がよく言うわ」
じいさんはバカにするでもなく普通に呆れていた。こっちのほうが胸にくるものがあるな……。しゃーねーだろ! 受け身だったんだよ! さすがにそれじゃあ厳しいと思って、そろそろ婚活でもするかとか思っていたところだったんだよ!
「そちらで流行っているラノベやらギャルゲーやらの弊害じゃな。特に秀でたる能力も無しに鈍感や草食がモテるのは物語の中だけじゃよ」
ラノベやギャルゲーではやさしいだけでモテていたというのに現実って厳しいよね。
「そんなの最低限の個性の中のひとつじゃ。しかも親しくなってようやく感じることの方が多いものじゃしな。出会いの段階で相手の心根なんて分からんじゃろ」
ぐうの音も出ない。それにしてもこのじいさん、妙に日本のサブカルチャーに詳しそうだな。
「ウォッホン! 話が逸れたな。それで、じゃ。異世界なら転生させてやってもよいぞ。それとも魂を砕かれて廃品再利用コースがいいかの? お主がいいならそれでもよいぞ」
うーん、罪人なら適用されるっぽい魂砕かれコースは普通に怖いしお断りしたい。それなら異世界に転生したほうがいいんだろうか。でも異世界っていかにも仁義なき世界だろうし、今まで生きてた日本ほど平和な生活はできなさそうだ。俺、そんなところで生きていけるかなあ……。
「そうじゃな。すぐ死なれてはこちらも困る。お主が異世界で長く生きてくれねば、凝り固まってしまった魂が柔らかくはなってくれんからな」
あー、ガンコな汚れを落とすために漬け置きするようなもんなんですね。
「じゃから多少の特典とサポートくらいは付けてやろう。土25673888よ」
「あっ、ハイ!」
今まで空気だった天使が直立不動で返事をした。っていうか土ナントカって名前だったのね。
「うむ、お主も見たようじゃが、天使はそれこそ数え切れないほどおるのでな。全てに名前を付ける時間があるなら一つでも多くの魂を救済したほうがよっぽど有意義じゃろ。よって自らの持つ属性と通し番号だけじゃ」
ふーん。まぁあれだけたくさんいるならやむ無しか。通し番号で名前があるだけまだマシかもしれない。
「で、その……サポートというのはまさか……」
天使、土ナントカさんが顔面を真っ青にしながら、偉そうなじいさんにお伺いを立てた。
「うむ、お主も一緒に転生してくるがいい。どうやら研修だけではお主の教育には足りんらしい。人の子に寄り添い支えることで、天使としての成長を期待しよう」
「そ、そんな! それなら再研修でも受けたほうがマシじゃないですかー!」
「じゃから良い修行になるんじゃろ。なにより拒否権はない」
「でもアレですよ! 私は天使ですから人の子とは魂の性質が違いますし、転生とか無理なんじゃないですか!?」
「丁度ここに人の子の魂がある。それをお主と掛け合わせてちょちょいと弄ることで、お主の魂を限りなく人に近しくすることがワシには可能じゃ」
そこまで聞いて、天使さん顔面ブルーレイ。なんだか俺の魂と天使を掛け合わせるみたいなこと言ってるけど、それって平気なのかな。
「ま、だいじょうぶじゃろ。それに天使の魂と混ざり合うことで少しは才能に恵まれるやもな? ではそろそろ行ってくるがいい」
そこまで言うとじいさんが眩しく光り始めた。そして天使と俺が急激に近づいて、重なり、混ざり合い――――
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