6.テンプレという詳細ジャンル
「なろう小説は小説じゃない」のふたつめ、「何番煎じなんだという異世界テンプレ展開」について語りたいと思います。
(すみません。テンプレでも男性向け作品はほとんど読んでいないので語れません)
①異世界転移や異世界転生について
②仕事に疲れてorニートが、うっかりor誰かを助けて、トラックにひかれて異世界転生
③悪役令嬢もの
④乙女ゲー
について、テンプレの特徴と、どうしてそれが使われているのか、テンプレというより詳細ジャンルじゃないのか、ということを語ります。
①異世界転移や異世界転生について
自分も、最初になろうサイト様で読んだときは異世界転移や異世界転生が多いことにびっくりしました。
同時に、書き手として思ったのは、「これならファンタジー世界を書きやすいだろうなぁ」でした。
現実とは違うファンタジー世界なら、そこで暮らしている人たちの常識は自分たちとは違います。ファンタジーな常識をさりげなく説明しながら話を進めるのは、うまくしないと説明ばっかりになっちゃうので、自分と同じ常識を持った人間がファンタジー世界に入る方が書きやすいし、読み手としても主人公に感情移入しやすいです。
実際のところ、どういうキッカケでなろうサイト様で異世界ものが書き始められたのかは知らないのですが、「見知らぬ世界で主人公が行動する」という物語自体は、ゲーム慣れした人は特に違和感を覚えません。
ゲームの物語はだいたい異世界が舞台の話だからというのもあるのですが、ゲーム経験者でも、できる限りざっくりが好きな自分とは真逆で、むしろ詳細な設定こそ読みたい方も多数いらっしゃるのです。新しい異世界設定バッチコイ! ぜひ新しい世界を見せてくれ! 的な。
ともかく、異世界転移もしくは異世界転生すれば、本来なら難しい導入部分をさくっとクリアして、自分と同じ常識を持った主人公で、自分の想像するファンタジー世界を舞台に話が書けるし、読むことができます。
つまり異世界転生や異世界転移は書き手にも読み手にも使い勝手がいいのです。
(一部には大変嫌われているけれども)
②仕事に疲れてorニートが、うっかりor誰かを助けて、トラックにひかれて異世界転生
この出だし、もはや異世界転生の枕詞です。
なんで明らかに同じ出だしが使われるのか、自分も不思議に思っていました。
「あれ、間違って同じ作品をもう1回読んでる?」と、戻って見直したこともありました。
なんと、一部の読み手は「よし始まった! この作品ではここからどう転がしてくれるんだろう!」とワクワクするようです。
もしかしたら、昔話でいうところの「むかーしむかし……(今から昔話が始まりますよ)」と同じなのかもしれません。
あと、同じ出だしにすることで、最低限そこまでは読んでもらえるらしいです。
確かに上手な書き手は、同じ出だし部分でも、主人公や作品の特徴をうまく盛り込んでくれるので、つい続きが気になって読んでしまいます。
個人的にはトラックにひかれなくてもいいのですが、主に一話内で主人公の現在の状況が語られ、トラックにひかれて異世界転生するというのが定番です。
ひかれなくとも一話目で異世界に行きます。
この感じ、なにかに似ていると思って考えていたら、ロボットアニメの「一話目で主人公が見知らぬロボットに乗る」や、女児向け変身アニメの「一話目で主人公の一人が変身する」だ!
そう考えると、確かにつかみはオッケーな気がしてきました。
(アニメに関してはすでにそういうものという認識しかなく、疑問にも思わなくなっていました。ある意味、時代の流れが動く瞬間を目の当たりにしているともいえますね!)
③悪役令嬢もの
別にファンタジー世界の貴族令嬢じゃなくてもいいんです。現代ものでもヒロインのライバル位置の女性キャラが主人公の物語のことです。
これ、女性ならわかっていただけると思うのですが、いつからか、いわゆる典型的なヒロインタイプが鼻につき「天真爛漫で鈍感タイプのヒロインはもういいから!」と思うようになるんですよ(え。ならない?)。
そして、脇でいい仕事をしているライバル役(主人公と同等か主人公以上にスペックの高い女子。悪役令嬢なら主に主人公よりも身分が高く礼儀作法も勉強もできるキツい顔の美人)の存在に目を向けます。
「ライバルはちょっと気が強いだけなのに、なんでヒロインだけが贔屓されるの?」
「ぶりっこヒロインより、さっぱりした性格のライバルの方が共感できる」
実際ヒロインはほぼすべての作品で贔屓されています(主人公だから)。
現実ではまずヒロインのように贔屓される立場にいることがないので、ヒロインよりもヒロインに嫉妬するライバルにこそ感情移入するのか、最終的にヒロインの勝ちが決まっているのに、えらそうにライバル役を演じている悪役令嬢の姿が健気で不憫に思うのか、このヒロインっていったい誰の理想像なんだとイラッとして悪役令嬢に出し抜いてほしくなるのか、ともかく女子的に悪役令嬢を応援したくなります。
なんせ自分が認識しているだけでも、昔過ぎて見たことのない有名な女子テニスアニメ時代から悪役令嬢キャラがいるのです。女子それぞれに悪役令嬢キャラを救ってあげたい、そろそろ彼女たちが下剋上してもいいのでは、という気持ちが蓄積されるというものです。
そんなわけで、悪役令嬢ものは、主にマイナスからのスタートで、贔屓どころか周囲から叩かれる中、自分でコツコツ努力して少しずつ這い上がっていく。しかも、ヒロインなら男ありきのところ、溺愛されこそすれ男に頼らずにやっていくことが多い悪役令嬢は、もしかしたら、理想の自立した働く女性像なのかもしれません。
いつから悪役令嬢が表舞台に踊り出てきたのかは知りませんが、ライバルキャラが主人公に勝つのは、明らかに女子のニーズとマッチングした結果だと思います。小学校高学年くらいから「あの子ぶりっこでウザい」と言い始めるので。
現実でヒロインタイプの女子からあおりをうけたことのある女子にとっては、従来のテンプレヒロインは理想像や自分を投影できるキャラではなく、敵に近い存在になっているからなのかもしれません。
ただ単純に、いい子でいなくてはならない主人公よりも、自分の欲望に正直な悪役令嬢が活躍するとスカッと面白いし、そんなレッテルをはられても中身は別人というのも面白いです。
悪役令嬢好きとしてはどれも大好物です!
④乙女ゲー
そんなライバル(悪役令嬢キャラ)がいることが多い女性向けゲーム。
ノベル、シミュレーション、RPG、他にもあるかもですが、自分がしたことがあるのが主にノベルタイプのみなので、それにしぼって語ります。
女主人公(ヒロイン)が知り合う複数男性のトラウマを解消していく過程で、それぞれの男性と仲良くなっていきます。特定の男性と仲良くなる個別END、男性全員を射止めるハーレムENDなる現実ではありえない結末があることもある(ハーレムは好き嫌いがわかれる)。
学園物ならわりと平和だけど、ホラーやミステリー系だと生死に、歴史系なら生死も歴史も関わってくるので、なかなかにスリリング。それぞれの事情を知ってタイミングをうまく合わせて見られる大団円ENDは圧巻。
ゲーム本来なら、誰か一人との物語を進めて結末を見届けてその人とのエンディングを迎え、次に最初に戻って、もしくは途中から別の人を選んだ物語に分岐して物語を進めて……という流れで、最終的にそれぞれ全員分を絡めて切り抜けて大団円ENDとなるところを、乙女ゲー小説はうまいことつなげて一本に書いてくれるのが本当にすごい! のです。
(それを悪役令嬢側から書いたのが悪役令嬢モノ。うっかりしてたら没落したり殺されたり、ヒロイン側よりスリリング展開になる)
以上、ざっくり、自分がよく読むテンプレものについて語ってみました。
テンプレばっか読んで飽きないの?
自分でも不思議に思ったので立ち止まって考えてみました。
?どうして異世界ものを読むのか?
舞台が現実か異世界か選べるのなら、異世界ものを読みます。現実に疲れているので、ファンタジーな世界観に癒されます。
?なんで悪役令嬢ものを読みたいのか?
逆境に立たされた悪役令嬢が、しんどい状況を頑張ってなんとかしていく姿に励まされるからです。
悪役令嬢が地道な頑張りを重ねて困った状況をひっくり返して幸せになるところが読みたいので、むしろテンプレ通りに努力が報われて幸せになってくれないとガッカリします。
?乙女ゲー自体は数えるほどしかやってないのに、なんでそんなに読んでるの?
ジャンルは乙女ゲーなのですが、内容はほぼ逆行系(起こるであろう困った未来を変えるために今を頑張る系)のため、乙女ゲー(男性と仲良くする)というよりも、SFミステリに近い気持ちで読んでいました。
あれが未来でこうなるから、先にこっちをこうしとかないと、みたいな。自分にとって恋愛要素はいろどりです。
こう書き出してみると、元々好きなゆるいSFファンタジーばっかり読んでいるのがわかります。あと現在の自分はかなり疲れているので、励まされたり、現状を変えたりする内容が読みたいようです。
結末がどうなるのかわからない作品を楽しむ気持ちの余裕がないため、テンプレ通りに進むであろう完結作品を意識して選んでいました。
「あーもー疲れた。今日はこれを読んで癒されよう」という感じです。
それでもまれに途中で先が読めてしまったり、状況が読めなくなったりすると、そこで読むのをやめます。先はまったく気になりません。先が読めれば読み続けなくとも脳内補完でじゅうぶんですし、状況が読めない文章を苦労して読み続けるくらいなら別の作品を探します。なにしろ似た物語がいっぱいあるので。
そう考えると、自分はかなり勝手な読み手だなぁと思いました。
自作品を最後まで読んでくれる読者様には感謝しかありません。
「今まで見たこともない新しい物語と出会いたい!」という前向きな気持ちがあったら、「テンプレなんて読みたくない!」と思えるのかもしれませんが、自分はもうしばらくテンプレ作品に癒されていたいです。
この感じ、なにかに似ているような?
ああ、二次創作を読んでいたときの心境とかなり似ています。
異世界ものは、別の国も参加するような大規模で開催中の、ゆるい異世界転生や異世界転移しばりの二次創作を読んでいる気持ちです。
だから自分にはテンプレ展開に違和感を覚えないのかもしれません。
自分みたいに疲れた人間や、異世界を気軽に楽しみたい人には、テンプレ作品は安心感があります。
じゃあ「なろうサイト様にはテンプレしかないのか」というと、もちろん、そんなことはないのですよ!
(素敵なろう小説については、あらためて語りたいです)
あと、なろうサイト様といえば異世界もの! なようで、普通の作品と異世界ものとでは、明らかに異世界ものの方が読んでもらえます。
書き手としては読んでもらいたいので、また異世界ものを書く、という感じで、異世界ものが増えていく気がしました。
ところで、異世界テンプレ展開って、恋愛ものでいうところの
「ロミジュリ系(「ロミオとジュリエット」のように敵対している者同士がひかれ合う)」や
「じれじれ系(お互い好き合っているんだけど、お互いの思い込みや勘違い、立場上など動かせないことなどですれ違い、うまくいきそうでなかなかいかない両片想い)」
みたいな感じがするのですよ。
ラブコメ系だったら「幼馴染とクラスメイト、タイプの違う二人から好かれてどうしよう」みたいな(勉強不足のためラブコメテンプレ展開が他にわかりませんが、もっと細かく決まっている展開がいくつもあるはず)。
もちろん、異世界テンプレ展開と恋愛テンプレ展開の中身は当然ながらまったく違いますが、「物語展開として決まっている」という意味では、どちらも同じなのでは? と思ってしまいます。
「展開がわからない恋愛(もしくはラブコメ)ものが読みたい」と思う方もいらっしゃるとは思うのですが、「恋愛ものの中でもじれじれが読みたい」や「ラブコメものでも幼馴染が出てきているのが読みたい」と明確に思う方もいます。
書き手としても「これが私の最高のじれじれ!」「これが俺の最高の幼馴染もの!」というのを意識して書いたら、読んでくれる人のためにタグに「じれじれ」「幼馴染」とつけます。
もしかしたら発言者様はそういうテンプレ展開さえ認めたくない方なのかもしれません。
「ロミジュリが唯一で、他のロミジュリ展開は認めない!」みたいに。
自分的には読みたい方向性が決まっている時にテンプレ展開がわかっていると助かるので、テンプレ展開とは、恋愛、異世界、など大きなジャンルを、さらに小分けにした詳細ジャンルのように思えたのでした。
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