5.小説家になろう様にあるゲームっぽい小説について

 『小説家になろう』『小説を読もう』。

 小説がたくさんあるサイトだと噂には聞いていたものの、そのときまで読みにいったことがありませんでした。

 理由は、他人の一次小説を理解できない自分にガッカリしたくなかったからです。

 

 ともかく、友達オススメ小説を読んでみました。


 え、おもしろい。

 自分も普通に読めておもしろい。

 すごい。これで無料?


 後から知ったのですが、それらはすべて後に書籍化された小説でした。


 ネット上の一次小説を普通に読めるのが嬉しくて、オススメを読み終わったら、友達に次のオススメを聞き、また読んでオススメを聞く、というのを繰り返すうちに、自分でも発掘するようになりました。


 なんせ読み切れないほどあるのですから、「合わないな」と感じればブラウザバックすればいい。

 

 ランキングから読むよりも、オススメされた中から特に気に入った小説の作者の別作品を読むか、気に入った小説の「この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます!」を読めば、似たテイストの小説につながります。


 気に入った作者自身の「ブックマーク」は、なぜか全然あわないことがあって、それはそれで面白い。


 そんな感じで、どんどんどんどん、ひたすらに読んでいきました。

 普通なら途切れそうなところが、まったく途切れない。

 作品数が多いので、読めない小説が山ほどあっても、読める小説も山ほどある。しかも、読んでいる間にも増えていくのです。


 友達が読みまくるのもわかる!


 そんな風に夢中になって読んでいくなかで、なろうサイト様のエッセイなどで、なろう小説が否定されているのを見聞きするようになりました。

 

 その内容をざっくり要約すると、

「なろう小説は小説じゃない」

 というものでした。


 自分が思ったのは、「なろう小説は小説じゃない」をもう少し正確に表現するのなら、「小説家になろうサイトでたまたま読んだ小説が、自分が小説だと思っているような小説じゃなかった」かなぁ、でした。


 発言者様がなろうサイト様の膨大な作品すべてを読んだとは思えないし(多すぎて物理的に不可能)、言葉としての「小説」自体の定義は、その文章を書いた筆者が「これは小説だ」と言えば小説であるくらいゆるいものなので(意外なことに「これがないと小説ではない」という縛りはない)、「小説」とは、それぞれの人が「小説」に持つイメージでしかないのです。


 実際はさまざまなテイストで書かれているなろうサイト様にある小説を、「なろう小説」と、ひとまとめに語るのは乱暴なように思うけれども、自分がなろうサイト様で読んでいたのがほとんどゲームっぽい小説だったので、「なろう小説の中でもゲームっぽい小説(舞台が異世界でスキルや魔法が使えてそれらが進化することをメインにすえている、勇者魔王がいる、設定が乙女ゲーム)」にしぼって、少し語りたいと思います。


 カクヨム様にいるのだからカクヨム様作品で語ることができれば良かったのですが、まだ語れるほど読めていないのです(なろうサイト様ではようやく千作品くらい読めた)。



 お題は、『「なろう小説は小説じゃない」というのが、ゲームっぽい小説に対して発言されているのだとしたら』です。

 

 自分が感じたのは、なろう小説を「小説ではない」と否定している方というのは、もしかしたら、ゲームに触れたことのない方か、「こんな小説を小説なんて言ったらダメだろう」と危惧している方なのかなと思いました。


 以前、なろうサイト様でのランキングで「なろう小説はすべてゲーム小説」みたいなエッセイのタイトルを見たことがあります。


 そのエッセイタイトルを見た時に「すべてとは言い過ぎだけど、なるほどそうかも」と、エッセイの中身を読んでいなかった自分は思いました。


 「なろう小説は小説ではない」主張の詳細はいくつかに別れているのですが、主に「普通の小説と比べて説明不足な文体であること」や、「何番煎じなんだというテンプレ展開」が上げられています。

 

 その気持ちはわかります。

 タイトルからして似ているし、文体にいたっては、自分ですら「台本みたいだな」と思います。

 

 でも、ここで思い出して下さい。


 自分は少ない自由時間の中で物語にひたりたかったのです。

 


 なろうサイト様を勧めてくれた友達は自分の同級生、つまり同年代です。同じ時代を生きてきて、似たようなゲームをプレイし、同じ漫画や小説を読んできた大変趣味の合う友達です。


 そこで思い至りました。


 もしかしたら、過去にゲームをしてきた人間にとっては、いわゆる文学的な修飾や文体は必要ないのかもしれない、と。


 最低限の的確な言葉で書かれた物語を読めればそれでいいのです。

 なぜなら、それさえあれば、残りはカラフルで音楽や声までついていた昔したゲームで培った記憶で補完できるから。

 むしろ、変に修飾しないほうが、読んでいていちいちひっかからなくて親切でさえあります。


 ゲームが進出してきた時代にゲームにハマった世代は、現在、社会人になっていて自由に使える自分時間が少ないため、台本かってくらいにシンプルで展開が早い方がありがたい。


 ゲーム的にお約束な展開は細かく書かれなくても想像できるので、わかりきったことを丁寧に書かれるよりも、さっさと物語を進めてほしいと思ってしまう。


 つまり、以前に自分が感じた「文学を理解するには作品の時代背景などの知識が必要」と同じで、「ゲームっぽいなろう小説を楽しむにはゲーム経験が必要」なのではないか、と思い至ったのでした。


 なにしろ、ゲームっぽいなろう小説にはゲームあるあるネタがちりばめられているので、ゲームを知らない人からしたら説明不足で不親切で意味不明な小説なんだけど、ゲームにハマった世代の頭の中では、少なくとも自分は、美しい映像と音声つきで味わえています。


 まさか自分があきらめていたに立てるとは思っていなかったので、びっくりしました。


 何百時間何千時間何万時間と、冒険したり謎を解いたり撃ったり避けたり狩ったり潜んだり踊ったり笑ったり語り合ったり涙してきた思い出が、かざりのない文章を補完してくれます。だから、同じゲームっぽいなろう小説を読んで、かつてゲームにワクワクしてきた人たちが読んだ感想と、ゲームを知らないか普通の小説だと思って読んだ感想は、違って当然です。


 あえて微妙な例えをするなら、戦争が身近だった世代、学生運動を肌で感じていた世代、それらをまったく知らない世代では、感覚が全然違うのと同じです。


 ゲームはゲームでも、RPGじゃなくていわゆる乙女ゲーム系などのノベルゲームっぽい小説は、良質なノベライズな感じがします(でも乙女ゲーのお約束はいちいち書かれないので、乙女ゲーを知らないと多少の違和感は覚えそう)。


 乙女ゲーをかじった程度の自分からしたら、乙女ゲーで色々スッキリする結末を見るために一体どれだけ手間と時間がかかるんだ! というところを、いい感じに一本の小説にしてくれて本当にありがたいです。


 ゲームができなくなるほど忙しくなった頃、よく思っていました。

 だれかあの欲しいゲームをノベライズしてくれないかな。もしゲームを発売した後からでも公式小説を売ってくれたら、もうゲームは買わずに小説だけ買うのに。小説ならどこででも読めて時間もかからないし、好きな部分だけをいつでも何度でもすぐに読み返せるのにって。


 実際、自分でやりかけたこともあります。


(ノベルゲームはなんとかできました。もともと文章になっているので、ゲーム画面を見ながらすべてPCに打ちこめばいいだけだった)


(でも、RPGゲームは物語部分だけを録画して一本にまとめるのでさえ何回も挫折し、なんとかまとめたものの、ノベライズ途中で力尽きました。ストーリーが長くて時間がかかるのはいいとして、想像以上に文章にするのが難しかった)


 そんな自分にとって、ゲームっぽいなろう小説は大変理にかなっていたのです。


 確かにゲームは、自分で動かせるし映像や音声もついていて最高の物語体験手段なのですが、高価でプレイ場所を選ぶしクリアするのに時間がかかって気軽に同じ部分を見返せない。


 それがゲームっぽいなろう小説だと、無料で手軽に物語を楽しめます。


 少なくとも自分と同じようにゲームにハマった世代にとっての「ゲームっぽいなろう小説」とは「物語を効率的に提供する方向に特化した洗練されたカタチの小説」で、だからこそ自分にも読めたのか、と納得したのでした。


 「なろう小説は小説ではない」主張のひとつである「普通の小説と比べて説明不足な文体であること」は、むしろ自分と似た読者向けに進化した結果なのかもしれません。


 「発言者様の思う小説」とは違うかもしれないけれども、「小説」という名称しかない以上、「ゲームっぽい小説」も「小説」なのです。



 いまさらですが、途中で紹介したエッセイを確認してみたところ『「ゲーム小説」というジャンルを置くべき。なろうでウケているのって、要は全てゲーム。』というタイトルで2019年に書かれたものでした。内容をざっくり要約すると、


『ファンタジー世界ながらゲームっぽいレベルやスキル重視の小説と指輪物語のような小説を同じハイファンタジー、硬派なSFとゲーム世界を描いた小説が同じSFに混ざって検索結果に出てしまう。読みたい方向が全然違うのだから「ゲーム小説」というジャンルを作ってわけた方がいいのではないか』


 宇宙船が飛び交うSFと、MMORPGが出てくる話(MMOの舞台は主に異世界ファンタジー)の話は全然違いますが、ジャンルは同じSFです(MMORPG世界に入れるのが近未来だから)。


 指輪物語みたいにしっかりした異世界物語とゆるい異世界ものが同じハイファンタジー。


 うーん。確かに微妙です。


 同エッセイでは『ジャンルを増やすのが無理なら、各筆者が書いた作品に「ゲーム小説」とタグ付けすればどうか』と提案されていたのですが、自分はもしタグに「ゲーム小説」と書かれていたら「ゲームブックみたいに途中で分岐するの?」などと思ってしまうので、申し訳ないけど、つけないなぁと思いました。


 ピッタリくる良い名称があったら「なろう小説は小説じゃない」の発言者様も納得してくれそうです。おそらく発言者様にとって「小説」という名称を気軽に語られるのが腹立たしいと思われるので。


 でも今はもう、確かに骨組みはゲームっぽい小説だけど、独自にオリジナルの設定が細かく丁寧に書かれていて、ゲームを知らない読者も普通に楽しめる小説がたくさん出てきているので、厳密にわけるのは難しそうです。


 時間をかけて自然淘汰されていくのだろうとは思いますが、これを書いていて、自分も含めて、人それぞれの「小説」や「ジャンル」に対するイメージがあるのだなぁと思いました。

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