第8話 先輩と初めて過ごす日

俺と浅葉先輩は母たちのメール通りにアパートへ帰ってきていた。


「・・・お邪魔します。」


一度追い出された家だからか入るのに少しだけ抵抗感があった。


「そんなかしこまらなくていいわよ。」


「はい。・・・えっと、もう遅いですし、今日は寝ますか?」


「そうね・・・でもその前にお風呂に入りたいわ。」


「お、お風呂ですか、いってらっしゃい。」


「・・・・・もしかして覗くの?」


「覗きませんよ!!」


「絶対に覗いてこないでよね!あと脱衣所に入るのも禁止だから!!」


「分かってますよ。」


先輩は俺に十分に注意してから脱衣所に向かった。


今日はいろんなことがあったせいかソファーに腰を下ろすとどっと疲れが襲ってきた。


(さすがに、疲れたな。先輩との同居生活の件もそうだけど、久しぶりに走ったのもあるよな。・・・やっぱり、少しは運動した方がいいかなぁ。)


脱衣所のほうからシャワーの音と先輩の鼻歌がかすかに聞こえてくる。


「スゥーースゥーースゥーー」


疲れがひどいのか脱衣所からの微かな音が俺の睡魔をピークにもっていき、そのままソファーの上で眠りについた。


「上がったわよ。寝る場所なんだけどどうすr・・・もう寝てたのね。・・・そりゃそうよね、今日は有馬くんに色々と迷惑かけちゃったもの。」


私は有馬くんの寝ている姿を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。


「・・・改めて、今日はありがとう。有馬くん。・・・あと、おやすみなさい。」


______________________________________


「んっ・・・ふぁあああっ・・・もう朝か・・・体がガチガチだ・・・」


ソファーに腰掛けて寝ていた俺は窓から入ってきた太陽の陽ざしによって目が覚めた。周りを見渡してみると誰もいなかった。


(先輩は自分の部屋かな?)


確認しようとソファーを立とうとしたが膝の上に何か乗っているのか重く、立ち上がることができなかった。


(???)


膝の上を見てみるとそこには先輩が寝息を立てながら眠っていた。簡単に言うと俺は先輩を膝枕していたのだ。


(!?!?ど、どうして先輩が!?・・・昨日は俺、帰ってきたら眠すぎて泥のように寝ちゃったんだよな・・・その後のことは・・・お、覚えてない・・・・)


いくら考えたってわからないことに頭を抱えていると―――


「うーーーんっ」


(ヤ、ヤバイ!!先輩が起きる!?・・・もしこのまま先輩が起きたら・・・)


恐ろしいことが頭をよぎった。想像するだけで血の気が引いて行ったのでよぎったものを消すために必死に頭をふった。


(どうにかして先輩を動かせないか!?・・・いや、動かした瞬間に起きてしまいそうだ・・・あれ?これは詰んだのでは?)


「うーーんっ、・・・うるさいわね、なんなのよ?」


「お、おはようございます?」


起きた先輩と至近距離で目が合った俺は完全に悟りを開いてしまった。


「・・・・っ!?」


少しの間、頭をひねらせていた先輩は事の重大さに気が付いたようだった。


「な、ななななな何やっているのよ!!」


「いや、先輩!?ちょっと話だけでも聞いてください!」


「聞く耳持たないわよ!!早く私から離れなさい!!」


「わ、分かりましたから、離れたら話聞いてくださいよ!?」


先輩がもし男嫌いじゃなかったら俺、殴られてたよな。そんなことを考えながらソファーから立ち上がり先輩と距離をとった。


「ど、どういうことなの!?なんで有馬くん私にひ、膝枕してるのよ!」


「え、えっと俺も何が何だかわかってなくて・・・」


「嘘言いなさい!」


「いや、嘘ではなくて・・・それに俺、昨日先輩がお風呂に入ったらすぐに寝てしまいましたから」


「た、確かにそうだけど!・・・・・あっ!!」


「ど、どうしたんですか、先輩?」


いきなり先輩が大声を出すものだから驚いてしまった。


「あーー、いや、何というか冷静に昨日のことを思い出してみると原因が分かったかもーって」


「そうなんですか!教えてください!」


「・・・えっと、昨日、寝ようと思って自分の部屋に行ったのだけど・・・まだ、ベットだけがないことに気づいて・・・」


「そうだったんですか。」


「えぇ、それでソファーは有馬くんが使ってたけど、有馬くん、端っこで寝てたから私も端っこで寝ればいいかな~って思って座ったまま寝てたのだけどいつの間にか寝っ転がって寝てたみたい・・・その、ごめんなさい」


「な、なんだ~。そういうことか~、安心した~。」


「怒らないの?」


先輩は起きてからのことの数々を申し訳なく思っているのかオズオズと聞いてきた。


「んー、怒ってないと言えば噓になりますけど・・・」


「ご、ごめん」


「そんなに謝らなくていいですよ。男嫌いの先輩が俺に膝枕されるほど大丈夫だったのは大きな成長だと思いますし。」


「っ・・・!?む、蒸し返さないで!やっぱり根に持ってるでしょ!?」


「そんなことないですよ~」


この頃の俺は先輩と一緒にいると楽しくそして安らぎの場になるなんて思いもしなかったのだ。


















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