第4話 先輩の過去

「先輩ともう一度暮らす?・・・でも俺と先輩が一緒に過ごした時間は数時間しかなくて・・・それでも先輩は俺を嫌っています。・・・それなのにもう一度暮らすことは不可能ふかのうに近い気がします。」


「分かっています。・・・しかし、有馬くんにしかお願いできないんです。」


俺が何度も無理と言っても澪さんはめげずに頭を下げ必死になって訴えるようにお願いしていた。その姿に俺は澪さんがとてもあせっているように見えた。


俺が想像していた澪さんは先輩に強要させるほど怖い母親だと思っていた。しかし、実際の澪さんは娘のことをとても心配しているようも見えた。


「・・・なんで俺なんですか?」


「有馬くんなら玲の気持ちがよく分かると思ったからです。」


「先輩の気持ち?・・・でも仮に俺が先輩の気持ちを分かったとしても先輩は俺を嫌っています。これでは気持ち以前の問題だと思いですけど。」


「・・・玲は有馬くんだけを嫌っているわけではありません。・・・玲は有馬くん含めすべての男性を嫌い、そして恐れているのです。」


「男が嫌い?どういうことですか?」


誰にでもへだてなく接する先輩が男を嫌い、そして恐れている。これには俺の中で引っかかるものがあった。


澪さんは神妙な面持おももちで話し始めた。


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これはまだ玲が小学2年生の時の話です。玲は生まれながらに活発な子でした。だから小学生の時は男の子と一緒に遊ぶことも多かったのです。


クラスではその時からみんなの人気者でした。しかし、高校生の玲とは一点だけ異なることがあるのです。


・・・・・それが男嫌いになってしまったこと・・・・


私と父そして娘の玲の3人家族でした。今思えばはとても幸せでした。


私たち両親は共働きで帰りが遅く、18時までは玲一人でお留守番をしてもらい、18時になると父が帰り面倒を見てくれていました。私の帰りは遅く、21時を余裕で過ぎる日が多かったのです。そのため、玲と父は一緒にいることが多く、玲も私より父になついていました。


しかし、そんなときにあることが起きました。


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玲はいつも通りに学校から帰宅し、父の帰りを待っていた。


「まだかな~、お父さん。今日は何して遊ぼうかな~」


ガチャっ、18時になり、玄関のドアを開ける音がした。お父さんが帰ってきたのだ。


「あ!!お父さん帰ってきた!!おかえり~~、お父さん!!ねぇねぇ、今日は何して遊ぶ~?」


「・・・・・」


玲が元気よくお父さんをお出迎えしてもお父さんは返事を一切返してくれなかった。


「??お父さん聞いてる??何して遊ぶの~??ねぇねぇ~~」


玲はお父さんがいつもと違う気がして戸惑っていた。そして、二人は会話もせずにリビングに歩いて行った。


すると、いきなりお父さんは玲を押し倒し両手の手首を片手でがっしりと鷲掴みし、玲を動けないようにした。


「い、痛いよ!お父さん!離してーーー!!」


訳も分からず押さえつけられ、離してと言ってもお父さんは一向に玲の手首を離してはくれなかった。


「・・・・・・」


父は何も言わずただ叫んでいる玲を見ているだけだった。玲は必死になりながら叫んでいると右頬に強烈な痛みを感じた。


父は玲の右頬を殴ったのだ。


「・・・黙れ・・・」


帰ってきた父から初めて聞いた言葉がこれだった。


玲は痛みと恐怖を感じ、顔をくしゃくしゃにしながら泣きわめくしかできなかった。























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