第3話 先輩の本音

「結論から言うとこの家から出て行ってほしいの。」


「・・・?、どうしたんですか?先輩、いきなり」


いきなり先輩の態度が急変きゅうへんし、さらには俺をゴミを見るかのように睨み付けている。これにはさすがに戸惑うしかなかった。


「別にいきなりではないわ。だって私・・・同居生活することが決まってからずっと思っていたもの。」


「っ!それじゃあなんで同居生活することを受け入れたんですか。」


「なぜ、か。簡単よ。母がそうするように言ったから。」


「母が、言ったから?」


「ええ、そうよ。今回、この提案をしたのはうちの母親とあんたのとこの母親、私は母には逆らわないと決めてるの。」


「逆らわない?先輩には自律性はないんですか?そんなことのためにアパートまで借りてなにがしたいのか・・・訳が分からない。」


「訳が分からない、それは私も思ってることよ。」


「それなら、親に聞けばいいじゃないですか。」


「言ったでしょ。私は母には逆らわない。理由なんて知っても意味なんてないわ。」


「・・・そうですか。しかし、奇遇ですね、先輩。俺も共同生活は面倒くさいって思ってたんですよ。」


「あら?そうだったの。なら話が早いわね。私のお願い聞いてくれるのね。」


「ええ、いいですよ。」


俺は少し先輩に歯向かおうとも思ったが両者の意見も一致しているので素直に聞くことにした。しかし、一つだけ疑問になったことがある。


「でもいいんですか?このまま俺が出て行ったら先輩は母親に逆らったことになるんじゃないですか。」


「いいえ、そうはならないわ。だってあなたが言い訳を考えて伝えてくれればいいもの。」


「俺がそこまですると思っているんですか?」


「えぇ、思っているわ。でも、しないのなら私が言い訳を考えて話を通しておくけど。」


先輩が考えてる言い訳は俺にとってロクなものじゃないことだけはわかる。


「ちなみにどんな言い訳を?」


「うーん、パッと思いつくのはあなたにいきなりになって逃げてきたとか。これでも言うことを聞いてくれないのなら学校にも言いふらしちゃおうかしら、襲われそうになったって。」


(やっぱりロクでもない言い訳だな。しかも逃げ場なしか。)


先輩のわがままに付き合わされてイライラしていたが、以外にも俺は冷静に物事を判断していた。


(母さんは俺のことを信用してくれるだろうけど、学校の奴らは流石に先輩を信じるだろうな。)


「分かった。母さんにはうまく言っとく。」


「ふふ、素直に聞いてくれてありがとう。短い間だったけど楽しかったわよ。有馬くん。」


「嘘つけ、猫かぶりの先輩が。」


______________________________________



それからは、最低限の荷物だけ持ち足早に家に向かった。


(先輩との同居生活、少しはうまくいくと思ったんだけどな。まさか先輩の方から拒絶されることになるとは・・・)


家までの帰り道はずっと先輩への苛立いらだちとほんの少しだけ悲しみを覚えながら家まで歩いていた。


家につき、玄関を開けるとそこには母さんが俺の帰りを待っていた。


「おかえり。有馬。」


「た、ただいま。母さん。よくわかったね、俺が帰ってくるの。」


「えぇ、ある人からもうすぐ帰ってくるって聞かされてたから。」


「ある人?」


俺は”ある人”に疑問を持っているとリビングの方から一人の女性が姿を現した。


「??」


「初めまして、有馬くん。浅葉玲の母、浅葉澪あさばみおです。」


俺は見知らぬ女性に疑問を覚えていると女性は自己紹介をし始めた。


「先輩のお母さん?」


先輩の母もとい澪さんは黒髪を腰まで伸ばしており、背が高くスタイル抜群で顔立ちも美形だった。確かに性格が豹変ひょうへんした先輩と雰囲気が似ている気がした。


「ごめんね、有馬くん。あの子にアパートを追い出されたんだよね?」


「!!なんで知ってるんですか?」


まだ俺は誰にも話していないのになぜか先輩のお母さんは知っていた。澪さんは雰囲気は似ていたが話し方には優しさがにじみ出ていた。


澪さんはいきなり俺に深々と頭を下げて驚くべきことを言い放った。


「お願い、有馬くん。もう一度だけチャンスをちょうだい。・・・あの子ともう一度暮らしてほしいの・・・」



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