第9話 私がお姫様じゃなくても
GM:さてさて。現在の進行度合いとしては、クライマックスの手前くらいです。
ラグ:結構来たのね。
GM:手元のチャートに従うなら、このあとダンジョンに入り、クライマックス戦闘になりますが……。
ラグ:いや、ヒロイン放置は無いでしょ。それはPCの心理としても納得できない。
ツヴァイ:ですよねー。
ルシェド:え、そういう感じなの。
GM:そうですね、シナリオを作ったGMとしてもNPCは大切にして欲しいところです。機会はちゃんと作ってあるので、あとはどのように演出するかですね。
ツヴァイ:普通ならここから、ミエルを探すシーンになると思うんだけど。
GM:その必要は無いです。彼女は自力で宿に帰れますので。
ルシェド:あ、そうなんだ、じゃあ安心すね。
ツヴァイ:……ラグさん、作戦会議!
ラグ:よしきた。
ルシェド:あれ、俺は?
GM:ルシェド君さあ……。
ルシェド:なんで!?
ツヴァイ:えーGM、ミエルが宿屋に戻るのであれば、ルシェドとミエルが一対一で対話するシーンとか……できる?
GM:なるほど、良いですよ。
ルシェド:えっ何やればいいんすか?
ラグ:あのね、女の子が落ち込んでんのよ?
ルシェド:ああ、はい。
ツヴァイ:良い流れでお膳立てできていると思いますよ。実際、一番ミエルと交流が深いのはルシェドだと思うし。
ラグ:物語的にもルシェドがやった方が面白そうだし。
ツヴァイ:わかる。
ルシェド:うう、外堀が埋まっていく……!
最終的に、ルシェド自身のRPを引用した「自分の行動に理由を求めろ」というツヴァイPCの説得と、「ミエルにとってルシェドは外界への架け橋。それは未熟な姫と、未熟な義賊という、同じ目線だからこそ成立する」というラグPCの説得が決め手となった。
GM:ここ、再度シーンを整理させてください。
一同:はーい。
GM:イベント的には他の二人も並行して行動していることにしたいので……本屋の出来事のあと、どうしたかを教えて欲しい。
ツヴァイ:自分はまず、通り一帯をペガサスで飛んで探し回ります。ミエルが宿に戻っている可能性も考えてるけど。
ラグ:じゃあ、私は飛んでいるペガサスを見かけて地面から手を振るわ。それに気づいたツヴァイと合流して、かくかくしかじかで。
GM:あー……良いんですが、ううむ。
ラグ:ん、問題?
GM:いえ、ラグさんには公衆浴場でアルテミシア座長と出会うイベントがあったんですが、処理の順番をどうしようかな? って。
ラグ:アルテミシア嬢はキャラクター設定とかある?
GM:ありますよー。
ラグ:じゃあ、それ、もらえませんか?
GM:はーい了解です。
ラグ:脳内補完になるけど、出会って会話したという体裁でツヴァイと合流する。
GM:なるほど、でしたら登場シーンのRP例も一緒に送りますね。
ツヴァイ:ラグのPCさんなら大丈夫でしょ、うまいことそれらしい感じにしてくれるはず。
こうして卓外での相談の結果、真っ赤な顔で泣きはらしたミエルが、宿の外で本を読んでいたルシェドの傍らを駆けていく場面からセッションは再開となった。
ルシェド:GM、ミエルは部屋に行きましたか?
GM:あなたに声をかけるそぶりも見せず、バタンと戸締りの音が乱暴に響きます。
ルシェド:「なんだってんだよ……クソッ」って感じで、部屋の方へ。鍵ってどうなってます?
GM:閉まってますね。
ルシェド:「どうしたミエル、何かあったのか?」って感じで声をかけます。
GM:では、ピヨピヨと頼りないラッパの音がして、代わりにドアの向こうでテンデが返答します。「ミエル様、たいそう傷ついておられるご様子ですが……いかがなさいましたか?」と、あなたに尋ねますよ。
ルシェド:困ったな、PCはさっきの出来事知らないんだよなぁ。
GM:どうしましょう?こちらからアクションしましょうか?
ルシェド:助かる! 取っ掛かりが見つかれば!
GM:では、何か言いかけたテンデをさえぎるように、涙交じりのミエルの声が聞こえます。
ルシェド:ふー……深呼吸して備えよう、リアルでも。
GM/ミエル:「放っておいて! 一人になりたいの。静かにしていれば、すぐ収まるから……」
ルシェド:「どうしたんだ、また、どっか気晴らしに外歩くか?」
GM/ミエル:「いいの、しばらくここにいる。公演が始まるまで出ない」……かすかな旋律を背景に、そのような返答が帰って来ます。
ルシェド:ん?旋律。
ツヴァイ:蓄音機かな、描写があった。
ルシェド:「そんなこと言われてもな。流石に心配するよ。お姫様なんだし」
GM/ミエル:「それは私がお姫様だからってこと? お姫様じゃなくても心配してくれるのがシヴァ―ルなのよ」
ルシェド:やべ、地雷踏んだかこれ。
GM/ミエル:「お姫様が自由を求めてはいけないの? どうせ成人式を終えたとしても私が隠れ暮らすことに変わりはないわ!」
ルシェド:「そんなことないって。成人式で皆にミエルのことが知られれば、きっと自由になれる」
GM/ミエル:「そんなの嘘よ! スフバールの王家は血の能力を重んじるもの。命をも狙われる……そう簡単に自由に生きてはいけない……」
ルシェド:「ミエル……」
GM/ミエル:「あなたがホントに王子なら、私を連れ出してよ。シヴァ―ルみたいに月に連れてってよ……彼みたいに、私がお姫様じゃなくても」……そう言ったきり、ミエルは次の言葉を失ってしまったようです。重い沈黙。
GM:(あ、お二人、ちょっといいですか?)
ツヴァイ:(なんだろう?)
ラグ:(はいはいっと。)
GM:(そちらでも同じように時間が流れているので、このタイミングでそちら視点の描写を伝えておこうかと。テキストで出します。)
ツヴァイ:(ほほう。)
《テキストが専用のチャット窓で二人に対して公開される》
ツヴァイ&ラグ:(……!?)
GM:(このような事態になっていてですね。)
ツヴァイ:(そうかあー、これ、ツヴァイも宿屋に行くべきだった?)
ラグ:(どうかしら、でもイベントでしょ? 干渉はできないんじゃない?)
ツヴァイ&ラグ:(うーん……)
ルシェド:沈黙に耐え兼ねて、口火を切ります!「俺もさ、シヴァールの本読んだんだぜ」と話します。
GM/ミエル:「……ホント?」と、どうやら扉のすぐ向こうまで移動してきたらしいミエルの、か弱い声が聞こえます。
ルシェド:「まだ1巻しか読んでないけどな」
GM/ミエル:「……ふーん」
ルシェド:釣れてるかなこれ。
ラグ:そんな魚釣りみたいな……。
GM/ミエル:「じゃあ、教えてあげる。私ね、シヴァ―ルのお話で好きなのは1巻なの。特に最初の出会いのシーン」
ルシェド:「へぇ、そうなのか」
GM/ミエル:「でも、さっき大きな声で言われたの。作り話を本気で信じるなんて、自分をお姫様だと思ってるバカな女だ、って」
ルシェド:「他の街でもそんな人をよく見てきたさ」
GM/ミエル:「……そうなの?」
ルシェド:「そんなもんだろ」
GM/ミエル:「そう……なのね……」
ルシェド:「いいじゃんか、本に夢見ることくらい」これで、どうだろう?
GM:では……。
ルシェド:頼むぞ……。
GM:返事は……ない。
ルシェド:へえ……ええ?
GM:まず、シーンは成功です。ルシェドさんのRP自体は素晴らしいものでした。なのでミエルの負った心の傷も和らぎ、まさに、扉が開こうとしたところでした。
ルシェド:で? で?
ラグ:ああ、ここで、私たちのほうの視点から見ることになるのね。
ルシェド:???
ラグ:GM、さっきのテキストはもう共有してもいい?
GM:どうぞ、共有したら、イベントシーンの描写を行いますので。
ラグ:じゃーん。
ツヴァイ:悪いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?
【GMから公開された描写のテキスト】
ミエルを探して奔走するあなたたちの頭上を、例の怪しげな飛空挺が飛んで行くのが見えた。その飛空挺の外見には以前には無かった装飾が施されており、どことなくあなたたちの船、ムーンライトマイル号に似せてあるように見えた。
船体下部に奇妙なカギ爪のような部品をつけたそれは、獲物を見つけた猛禽のように、音も無くまっすぐに『犬の舌なめずり亭』に向かっていった。
ルシェド:はい?
GM:ミエルが沈黙してから、わずかな時間ののち、返答を待つあなたの耳にまず「ガチャコン」という金属の連結音が聞こえます。あ、ツヴァイとラグさんは、飛空挺を追った?
ツヴァイ:モチのロンですよ。
GM:でしたら「犬の舌なめずり亭」の近くで、イベントに居合わせてください。
ルシェド:イベント? 何が始まるんです?
GM:強奪です。
ルシェド:えっ。
GM:ミエル姫の強奪です!
――ふざけたものを見せられた。「犬の舌なめずり亭」の外壁には奇妙なリング状の装飾品が取り付けられていた。我々が入った時には、あんなものは無かったはずだ。してやられた、例の”改装業者”の仕業だ。
そう気づいた時には、全てが遅かった。 byツヴァイ
――飛空挺から湧いて出た魔導機が、生えたカギ爪を外壁のリングに取り付けていた。すぐに何をするつもりかわかった。
ツヴァイを叱責し、ペガサスを先に行かせる。だが、間に合わないことは一目で見て取れた。奴らは「部屋ごと」ミエルを奪っていった。
岩石の断裂する音が響き、瓦礫が降り注ぐ、私は、その瓦礫の中に飛び出すルシェドの姿を見た。 byラグ
――扉を破った。そこから先のことは……。 byルシェド
ルシェド:はっ、そうだ「ポーン、いや、ミエルーッ!」って、ドアを壊したい!
GM:許可します! ダイスロールは必要ありません。
ルシェド:「開け! このぉーーーッ!」で、ぶっ壊した!
GM:では、あなたがドアの向こうに見たのは奇妙な光景でした。描写、続けます。
「犬の舌なめずり亭」のスイートは、部屋全体が遠ざかりつつあった。
窓の先には巨大な金属のカギ爪がぎらつき、その先にはムーンライトマイル号に似たシルエット飛空挺が浮かんでいた。
スイートルームは今、その中のミエルごと奪い去られようとしていた。
ルシェド:何だこりゃ……! 一体……?
GM:ミエルは魔導機によって拘束され、その周りをくるくると回りながら、ピエロがラッパを吹いています。
ルシェド:「ッ!? テンデーーーッ!」
GM:ピエロ……テンデですね。彼の顔は上下が反転し、普段の笑顔が一転、怒りに歪んだ顔を見せています。現実感の無い悪趣味なサーカス、そのような光景です。
ツヴァイ:うお、民芸品みたいな奴だな。
GM:彼はルシェドさんに気づくと、小ばかにしたようにお辞儀を送ります。
ルシェド:GM! 助走をつけて飛び移ります! 届かなくてもいい!
GM:許可で。
ツヴァイ:後のことを考えてペガサスで控えておきます。ここは自分もルシェドを支持したい。
ルシェド:恩に着ます! 「この……道化野郎!!」で、跳躍!
GM:がしっ! と、ルシェドさんは床板の端にしがみつくことに成功しました。そこに、逆立ち歩きでテンデがトトトっと、近寄ります。
ルシェド:腹立つな、こいつ。ミエルはどうなってますか?
GM:縄などで荒々しく拘束されてます。そっちを見て、ぽろぽろと涙を流してる。
ルシェド:「クソッ、今助けてやるからな!」
GM/テンデ:「お前らアホ義賊どもさえ出てこなければ、万事上手くいっていたものを。よくも、俺のシナリオのジャマをしてくれたな」と、普段とは打って変わったドスの効いた声であなたをなじります。
ルシェド:睨み返します。
GM/テンデ:「だが、多少の筋書きの変更で済みそうだ。この飛空挺、手間をかけただけあって、お前らのふざけた船にそっくりだろ?」
ラグ:まずくない?
GM:「姫を殺す名誉ある役をお前らに譲ってやろうと思うのさ!」と。彼はミエル殺しの罪を、ジャッジメントキングダムに擦り付けるつもりのようですね。
ラグ:やっぱりまずいじゃないの! なんとかしなさいよリーダー!
ツヴァイ:できるならやってるが、相手がイベントシーンじゃ分が悪い。
GM/テンデ:「おぼっちゃん、王子様ごっこはおしまいだよ! こそ泥がおとぎ話に首を突っ込むから」と、くるりと背中を向けて……「無惨な結果になるんだなあ!」と、股の間から顔を覗かせています。逆さまになった彼の顔はいつもの笑顔に見えます。
ルシェド:「この野郎……!」
ラグ:もっと言ってあげなさい!
GM:瓦礫とともに、テンデの罵倒が降り注ぎます「公王陛下には、後日、姫の身体の一部をお送りいたしますよ……移民どもによって、穢された痕跡とともにね! そのあとに訪れるスフバールの内乱を、せいぜい楽しむがいいぜ!」彼が上機嫌でそう語ると、傍らに控えていた別の魔導機が床板を破壊します。
ルシェド:落ちる?
GM:落ちるよ。
ルシェド:……ウィンドボイスを使おうとしますが、できますかね?
GM:許可します、魔法発動判定どうぞ。
ルシェド:2d+8……頼むぞ。
コロコロ……【1・1 = ファンブル!】
ツヴァイ:ファンブル―!!
ルシェド:ファンブル?ここで?
ラグ:持ってるのか、持ってないのか……。
GM:ファンブルですねえ……じゃあファンブル演出は、ウィンドボイスが制御できずにこの国全域に広がります。
ルシェド:なるほど! じゃあ、なおさら精一杯叫びます。
ルシェド:「君が望むなら、月まで連れて行こう! だから、諦めるな!」
GM:引用したなぁ!
ラグ:ここで言った!
ツヴァイ:捻り無しだのどストレートだ!
GM:それでは、上空の敵の飛空挺から光が弾けます。
ツヴァイ:え? 砲撃とか?
GM:いえ、デッキから上方向に、ドーム上の光の壁が。
ラグ:一体、何事!?
GM:……その光の壁は、やがて赤いカーテンに姿を変え、飛空挺の姿はその赤いカーテンに包まれるようにして消えてしまいました。
ラグ:呆然と見つめてます……いや、もしかして魔剣かなこれ。
ツヴァイ:我々の方からは、何かわかるのかな。
GM:消滅の間際、困惑するテンデの叫び声とかすかなミエルの声がカーテンの向こうから響くよ。赤いカーテンは飲み込んだあとも消えずに空にはためいています。
ツヴァイ:困惑? これは連中にとっても予想外の出来事か?
GM:「シヴァール……」という祈るような、救いを求めるような声が聞こえました。同時に、空から小さな桃色の物体が瓦礫と一緒に落ちていきます。
ルシェド:桃色?
GM:ウィンドボイスを使ったけど、落下まではあと1回だけ何かしてもいいですよ。
ルシェド:ここはキングを信じる、手を伸ばしてその物体を掴もうとします。
GM:では、あなたはそれをつかむ事が出来ました。ハート型の砂糖菓子、型抜きの戦利品です。
ツヴァイ:そろそろ彼を拾いますね。空中でキャッチします。
ルシェド:あっぶねぇ……ナイスキャッチ!
ツヴァイ:では、ルシェドを無事救出したところで。頭をぺちん、とやろう。
ルシェド:「あいてっ」
ツヴァイ:「真っ当に損得を考えろ、死んだらどうする」
ラグ:お、リーダーらしい。
ツヴァイ:「助けを求める声は聞いたな? それは依頼料だ。受け取ったのはお前だ」
ルシェド:「……うっす」
ツヴァイ:「スフバールの全てが証人だ。やれるな?」
ルシェド:「連れて行くっすよ……月まで、ミエルを攫いに……」
GM:あなたの手には、思い出の桃色の型抜きが握られています。
ルシェド:型抜きか……軽く握って「大事にするって言ったじゃないか…」と。
ラグ:かっこつけてないで、二人とも降りてきてよ。こっちとも合流して。
ツヴァイ:あいあい。では、一旦ラグさんと合流します。
GM:合流OK。じゃあ、公開しちゃお、上空に出現したのは迷宮の入り口です。
(マップに迷宮の入り口のアイコンを追加)
GM:ミエルはこう言っていました”報酬は迷宮を作る剣だ”と。
ツヴァイ:ああ、ミエルの持ってた剣の効果か、じゃあ剣の迷宮か!
GM:なお、突入には飛空挺が必要になります。
ラグ:幕が降りた、いえ、上がる前? 舞台の形をしてるわね。
GM:そうです。迷宮剣の力で生まれたダンジョンです。
ラグ:ここが文字通り、決着の舞台になるのね。
GM:このシナリオのクライマックスとなる場所……名づけて『
――分をわきまえない連中に足元を払われてしまったが、この落とし前はつけさせてもらう。あの我儘なお姫様は、何せ我が国の賓客だからな。
”酔狂を解せぬ不貞の輩め、目にものを見せてくれよう”……全ての行動には、責任が伴うということを、連中に教えてやらねば。 byツヴァイ
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