第6話 そんなこと俺が言えると思うか

「狂言誘拐によって居城を抜け出し、劇場でシヴァールの冒険譚を観劇したい」


 ミエル姫のささやかな(実態は非常に大掛かりな)願いを実現するべく、義賊集団ジャッジメントキングダムは王国の東側「剣の町」を再訪する。

 商業区画として繁栄してきた「剣の町」は、城壁を挟んだ街の外で戦闘行為があったにも関わらず普段と変わらない活気で一行を迎えた。

 ミエル姫が飛空挺内で主張したとおりである。


 到着早々にちょっとした買い物に出かけたラグが、ドワーフの道具商から聞いた情報と共に戻ってきた。



ラグ:店主に聞いてみたよ『橋の方で何か事件が起きたらしいけど、みんな随分落ち着いているわね?』って感じで。

ツヴァイ:それでそれで?

ラグ:ええと『橋の一部が崩れたらしい、まあ珍しいことでもないが。修繕作業が終わるまでは通行規制で少々不便さな。……いざとなれば隠れ橋はあるが』ですって。

ルシェド:完全に情報統制されてる……。

ツヴァイ:隠れ橋は公然の秘密って感じなんだね。

GM/ミエル:……あ、そうだ。ここからは「姫」は無くしますね。みなさんの仲間として「ミエル」と呼んで欲しい。

一同:はーい。


GM:で、ミエルは「ほーらね」という顔をしています。

ラグ:ちなみに『お姫様は無事に橋を渡った」ことになってるし、『その様子を目撃した』という住人にも会ったわ。逆に、飛空挺の話は影も形も無かったわね。

ツヴァイ:「君には双子の妹さんでもいるのかい?」とミエルに聞きます。

GM/ミエル:「私は顔を知られてないし、橋の上ではフードを被ってたもの。代役を立てるぐらいは簡単よ」とあっけらかんと言います。続けて「お姉さまのやりそうなことよ」とも。

ツヴァイ:「ま、影武者ぐらいいるんだろうな、暗殺の件も含めて」

ルシェド:「王族って大変っすね……」

GM:情報統制に関しては、それぞれの街を囲む城壁も不都合な情報を遮断するのに一役買っている、ということで。



ラグ:あ、買い物もちゃんとしてきたわよ。“受益者のシンボル”の材料を二つ買いました。共有金から200ガメル消費します。

ツヴァイ:ええと、所持者をドルイドの加護対象にするヤツか。ん? 材料?

GM:材料です。祝福された植物の束、シンボル作成キット。

ラグ:んふふ。

GM:別に完成品でも問題ないってラグさんには言ったんだけどね。



――シンボルの材料を買ったことは、ポーン《ミエル》には内緒よ? byラグ



GM:さて、街の状況についてはPT内で共有しましたね。以上を踏まえて、新たなシナリオ目的である、ミエルの三つのお願い……観劇も足すと四つかな。それを叶えてあげて下さい。

ツヴァイ:お姫様に満足してもらわないと、我々はただの重罪人になってしまうからな(笑)。

ルシェド:おお、こわいこわい。



<ミエル姫のやりたいことリスト(改訂版)>

①自分で自由に宿を取ってみたい。


②劇の主演俳優さんにファンレターを送りたい。


③「私を月に連れてって」の作家からサインをもらいたい。


④舞台劇「私を月に連れて行って」の最終公演を見たい。



ラグ:「さて、どこから攻めようか、リーダー?」

ツヴァイ:「宿屋だな、まず拠点を確保しよう」と言いつつ。GMに確認、ここ(剣の町)宿屋はあるよね?

GM:たくさんありますよ。

ルシェド:「空き部屋、あるかな?」

ラグ:「ああ、人の出があるか……成人式と最終公演が重なってるし……」

GM:(おっ)そうですね、空き部屋ゼロということは無いですが、どの宿屋も他の宿泊客との遭遇は避けられないでしょうね。あと……(ツヴァイを見る)

ツヴァイ:「?」

GM:ペガサス、目立つよ。連れ歩きは許可するけど。

ラグ&ルシェド:「リーダーさあ……(呆)」

ツヴァイ:「だって、俺キングだし」

一同:う~ん……。


GM/テンデ:じゃあ、ここでテンデが割り込んでくるね。「お悩みでしたら、移民街はどうでしょう?」って。

ラグ:「移民街ねえ、治安とかどうなの?」

ツヴァイ:「義賊やってる我々には丁度いいけどな」実際どうなのかな。

GM:良くは無いですね。

ルシェド:じゃあ、悪くもない?

GM/テンデ:「みなさんのように自分で自分の身を守れるなら問題無いかと。移民たちは、生活を脅かされるのが嫌いなだけで……ププップー!」

ラグ:ラッパを吹かずに喋れないのかしらこの人は。

GM:そういうルーンフォークなもので。

ルシェド:自分の近くには置きたくないな(笑)

GM:テンデの返答をまとめますと「いっぱしの冒険者であれば住人たちは脅威ではない」レベルの治安とのことですね。

ツヴァイ:「かえって良さそうだな、タレコミの心配も少なかろう」

ルシェド:「正規兵を呼び込むとは考えにくいっすかね」

ツヴァイ:と、言うことでピエロ君の案を採用して移民街に行きます。……正直、ミストキャッスルみたいなところだったらどうしようかと思ったけど。

一同:(笑)



 ここで、ツヴァイとラグのヒソヒソ話が始まる。頭に疑問符を浮かべるルシェド&GMに対して、密談を終えたツヴァイが放った言葉は……。



ツヴァイ:「ビショップ、小遣いをやろう」と彼に100G渡します。

ルシェド:「なんすか?」え、なんなんすか?

ラグ:プレイヤーとPCがシンクロした。

ツヴァイ:「姫様の自由時間は限られている。俺とラグが宿の手配に行ってる間、そのあたりで遊ばせてやれ」GM、事後承諾だけど問題ない?

GM:歓迎しますよ。もともとこのシーンでは、ミエルと仲良くなってもらうため、プレイヤーにイベントを提案してもらおうと思っていました。

ルシェド:「へえ? それで、俺が? そ、それはリーダーとしての……」

ツヴァイ:「命令だ」ここぞとばかりにリーダー面をしよう。

ルシェド:ご命令とあらば……と言いたいすけど、どうしたらいいんだ。


ツヴァイ:ええと、じゃあねえ「彼女が小うるさいようなら、屋台のものを食わせて口をふさいでやれ」とか言ってみる。

ラグ:「キング、その言い方はどうなの(笑)」

GM:あ、でも屋台いいですね。では屋台村がマップにょきにょきと生えました。

ツヴァイ:で、改めてルシェドに100ガメルを押し付けよう!

ルシェド:「あ、あぁ、それもそうっすね。じゃあ会計はこっち持ちで……」ちょっと緊張してます。慣れてない!

GM/ミエル:「ロマンティック! ”俺の奢りで”っていうヤツね! シヴァールに食事に誘われるヒロインみたい!」……いつもの鼻血です。

ルシェド:「お前なぁ……そこら中でロマンを撒き散らすんじゃないぞ」

ツヴァイ:「まぁ、よろしくやってくれ」(笑)。

ラグ:「テンデはどうするの? 姫様のほうに残るのかしら?」

GM:彼は移民街に同行します。宿屋の下見も兼ねて。



――わが王国の年表にもロマンス要素は必要だからな。 byツヴァイ

――珍しく気の利いたことをする。いつもこうなら尊敬されるのに。 byラグ

――プパパパッパパー。 byテンデ



GM:さて!では屋台で遊びましょう!

ツヴァイ:心なしか、わくわくしてますね、GMが。

GM:はい!具体的にどんな屋台があるかは、プレイヤーの発想にお任せします。期待してますよ!GMは。

ルシェド:ソードワールド世界の屋台なぁ。どんなのが売ってるかな?

ツヴァイ:世界中どこでも焼き鳥的なものは売ってるもんだ。

GM:ちなみにスフバールの名物はハチミツですね。

ラグ:そういったお菓子はあるかも?パンケーキとか。

ツヴァイ:豚肉のハチミツ煮とか。

ルシェド:そんな物もあるんですか?

ツヴァイ:中華料理だったような……知らんけど(笑)

ラグ:困ったならビショップの好きな食べ物を言ってみればいいんじゃない?

GM/ミエル:ミエルは適当にその辺のものを指差して「これ、何ていうの? こっちのは?」っていちいちルシェドに聞きます。

ルシェド:「じゃぁ、それくれよ……豚肉に水あめかけてある奴?」って感じで。

GM/ミエル:「豚肉に水あめ……そんなのあるのね」

ルシェド:「そのまんま、ブタアメって言うらしいぜ」

一同:(笑)

GM/ミエル:「へー、なんか舐めた名前ね」

ルシェド:「名前はふざけてるけど、美味いんだぜ……多分」これ二本買いますね。一本はポーンミエルに。

GM/ミエル:「お姉様のぶんも買いましょう、他の三人のぶんも」

ルシェド:「ちょいちょいストップ! これなぁ、時間経つと溶けるんだ」

GM:ミエルは残念そうに肩を落としてます。ルシェドさん、何か他にあります?いったん、宿屋組にシーンを変えてもいいですよ?

ルシェド:も、もうワンチャンください!ビシッと決めたいんです!

ツヴァイ&ラグ:我々はいいよー(笑)。



 ルシェドのPCがここでまさかの長考に入る。出番を待っていたキング&ナイトも、期待を込めてルシェドの発言を待つことに。果たして彼の答えは……。



ルシェド:あ、そうだ……「型抜き」ってありますかね?



 突然の縁日気分に、ツヴァイとラグは爆笑。

 一方でGMは一人ポカンとした表情を浮かべる。



GM:か、型抜きってなに?(真顔)

ツヴァイ:なんと、GMは型抜きを御存じない? 

ラグ:ジェネレーションギャップを感じる。



ツヴァイ:薄い砂糖板に絵が描いて有って、それをカリカリ削って、割らないように絵の部分だけ抜き出すんですよ。難易度に応じて景品がもらえることもあるよ。

ルシェド:削るのには針を使うんだけど、ソードワールドですからね。型抜きの針も小さな剣の形だったりして。

GM:(検索してきた)へー、楽しそうですね! じゃあ、型抜きの屋台を登場させます。丸々と太ったタビットのおっちゃんがぁ……あー……。

ラグ:どうしたの?

GM:ふぬぅ、型抜きの呼び込みの感じがわからない。

ツヴァイ/おっちゃん:「ぼっちゃン、じょうちゃン、寄っておいでィ! 楽しい型抜きィ~割れたらァ~終わりだよォ~」みたいな。

ラグ:やめて(笑)お腹痛い。

GM/ミエル:呼び込みに惹かれたミエルは、出店の前でしゃがみこんで絵柄の刻まれた砂糖板を見つめますね。「これも食べ物……なの? かわいらしい形ね」と目をキラキラさせます。

ルシェド:「砂糖菓子だぞ。でも食べる前に遊ぶんだ。」というわけで、彼女と型抜きをしますよ!

GM:OK、針と砂糖板を渡します「まいどありィ~」

ルシェド:「この絵を針でうまく削り出す。結構、夢中になるんだぜ」



――自分ではすごく綺麗に抜いてると思っても、虫眼鏡なんかで見て「ここ荒いね」って言われる。景品を貰った記憶が無い。 byラグ

――わかる。 byツヴァイ



ルシェド:ここはダイスロールですかね?

GM:手先の作業ですよね。器用度のみを適用して振ろうか。

ルシェド:目標値は?

GM:とりあえず9で。で、ミエルが先に振ってみよう……。


コロコロ……【1・1=ファンブル! 大失敗】


一同:あっ!

GM/ミエル:「大変よビショップ、大変!」

ルシェド:「どうした!?」

GM/ミエル:「私の選んだハートが、真ん中から割れていくわ!」

ツヴァイ:(笑)

ルシェド:なんというGMの独り相撲。



GM/ミエル:「どうにかしてー! 元に戻してー!」と泣きます! GMも!

ルシェド:「分かった。ちょっと待ってろ」余裕の態度で言っちゃいますよ。

ラグ:お、言い切った。

GM:ん? ルシェドさんに秘策あり?

ルシェド:ふっふっふっ……GM、ここでリペアラーを使います!

一同:おおー!

ラグ:素晴らしい、その手があったか!

GM:では、修復する描写はセルフでどうぞ。ダイスロールは省略で。

ルシェド:あ、そうなんだ?

GM:本来はもっと高度なものを修復する技能ですからね。

ルシェド:よしきた。では抜き針の先を軽く湿らせて、破損した部位を飴状にして……元通りにくっつけます。

GM/ミエル:「ビショップ、何をしているの? 直るの? ねえねえねえ……」 

ルシェド:「しっ、店の親父にバレる。静かにしてろ……」

GM:ではミエルは両手で口を押さえて言われたとおり静かにするよ。なので、店の親父は気づきません。

ルシェド:修復は成功で。このままルシェドがハートの型を抜こうと思うんですけど、またダイスロールかな?

GM:成功でいいよ、失敗してもまたリペアラーするでしょ。商売上がったりだよ!

一同:なんということでしょう(笑)



ルシェド:「ふぅ、できたぞ」と自信満々に出します。俺、本当にソードワールドで型抜きやってる、すげぇ(笑)。

GM/ミエル:「こんなの、見たことない」ミエルは愛おしそうに手の中のハート型の砂糖菓子を見つめています。

ルシェド:「良かった、喜んでくれたなら」

GM/ミエル:「これ、思い出に持って帰るわ。とても楽しかったこと、お姉様にお話してあげたい」と型抜きをしまいますね。

ルシェド:食い物だけどいいんかな?

ラグ:腐らないだろうけどね、割れそう。

ルシェド:じゃあ「はしゃぎすぎて、失くすなよ」と声をミエルにかけます。

GM/ミエル:笑顔になって「うん、大事にするわ。だから特別な場所にしまっておくの」

ルシェド:「特別な場所?」

GM/ミエル:「テンデのお腹は開くようになってるからそこにしまうわ。そうすれば安心よ、テンデは頑丈だから」と、こうしましょう。それまでは大切に持ってます。

ルシェド:じゃあ、そろそろ宿屋組にタッチしよう。ミエルに「あまり、派手に走り回るなよ。相当に危ない橋を渡ってるんだからな……楽しいのは俺もわかるけどさ」と伝えておきますね。

GM/ミエル:くるくると回りながら上機嫌な返事を返します「平気よ! ビショップが私の事を守ってくれるんでしょう?」

ルシェド:「あー……善処は、する」

ルシェド以外の全員:(笑)

GM:思いがけないドラマになって、GMも楽しかったよ。

ルシェド:まあそれなら……いいか?いいんだろうか?


GM:では、少し時間を戻して、宿屋組のほうに場面を移してみましょうか。

ツヴァイ&ラグ:はーい。



――型抜きの一件のあと、「シヴァールみたいに格好つけてくれてもいいじゃない!甘い声で『キミを守ってみせるよ』って言ってくれなくちゃ。それこそ夢よ! すべての乙女の夢なのよ!」…なんてことを、屋台村のど真ん中でミエルにまくしたてられちまった。 

 例えナイフを突きつけられても、そんなこと俺が言えると思うか! byルシェド

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