第11話



 その後、私たちはドーム状の会場へとやってきていた。

 受付の人にチケットを見せると、なにやら少し揉めた後に護衛の兵士が席まで案内してくれることになった。小娘二人組が特別待遇の招待券を持ってきたので、本物かどうか疑われたというところだろう。

 その席は最上部に設けられた個室状の特別席で、会場内では既に開会式が始まっているところだった。


「すごい……どこでこんな席のチケット手に入れたんだろう?」

「そこまでは聞いていませんわね……個人的な人脈からか国からのどちらかでしょうけど、あの方にそんな個人的な人脈があるとも思えませんし、国からではないかしら」

「なるほど……」


 つまり、アカデミーの一員として正式に認められれば、こういった優待もあるということだろうか。

 私はこういったイベントのようなものはかなり好きなので、ぜひともそうであってほしいところだ。

 そんな会話をしながら開催式を眺めていると、ふと十年前の記憶がよみがえってきた。


「そういえば、十年前に一回武道会を見にきたことがあるんだよね」


 それはかつて大金をはたいて家族で王都に旅行しに来た時の記憶だった。


「そうなんですのね」

「うん。その時優勝したすっごく強かった人がいたんだけど、出てくるかなぁ」

「出場者の情報なら、入場時にもらったパンフレットに書かれていましたわよ」

「ほんと?見せて見せて。たしか、剣と盾を使ってた人なんだけど……」


 シャリアさんと頭を並べながら、そのパンフレットに目を通す。

 しかし、剣と盾を使う人は数人いたものの、どれも年齢的に十年前にはまだ子供だという人ばかりだった。

 十年前に優勝したその人はその時すでに若いとは言い難いくらいの年齢だったので、今回の武道会には参加していないようだった。


「その人を応援しようかなって思ったんだけどなぁ……ただ見るのもつまらないしね」

「そうですわね……他に知っている方はいませんの?」

「全然。シャリアさんは?」

「私もですわね。人同士が戦っているところすらみたことありませんわ」

「私も、十年前に来た時だけだなぁ」


 困ったように笑いあう。

 結局これといった人も見つからず、ただただ試合を眺めるだけになってしまった。

 それでも同じ人間とは思えないほどの機敏な動きや試合の駆け引きは見応えがあり、会場内の雰囲気に乗せられて私たちでも十二分に楽しむことができた。

 結局優勝したのは軽めの武器をいくつか身に着けた機動力を重視したスタイルの人で、閉会式では国王自らの手から賞金が贈られていた。


「すごかったね。あんなに色んな戦い方があるなんて知らなかったよ」

「同じ武器でも、人によって使い方が違いますのね」


 そんな感想を言い合いながら、会場を後にする。

 ダーディマさんの思惑通りなのか、武道会を観戦している間はすっかりゲル島探索のことを忘れられていた。

 それを機に吹っ切れたというべきかヤケになったというべきか、まだゲル島探索に行ったこともない私にはそれがどのようなものかわかるはずもないと思えるようになり、どこか荷が下りたように感じていた。

 解決したわけではないが、まだ悩む段階でもないということだろう。

 そう思えたこと自体を、覚悟ができたというのかもしれない。

 とにかく、私はこの時初めてゲル島探索に向けて前向きな気持ちになれたのだった。

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