コイノハナヒラク
甲斐瞳子
コイノハナヒラク
「これは?」
僕が差し出した仮装グッズにちらりと視線をやると、君は小さく首を振る。
正直何でもよかったんだ。ただ君と二人で買い出しに来ていることが嬉しくて、舞い上がっているだけ。
だめだったかと思うけれど、君の顔をよく見ればほんの少しだけ笑ってる。
「ああ、じゃあこれとか」
今度は蛇のおもちゃ。君は少し困った顔をして、また首を振る。ああ、これは完全にハズレ。
使うのは僕たちじゃなくて担任なんだから、正直どれでもいい。文化祭の余興に上手いこと先生を引っ張り出せればそれで僕たち実行委員の役割は全う出来るのだから、何かしらアイテムさえあれば勝ったも同然だ。
でも、今は真剣に選んでいるフリ。なるべく君と二人の時間を引き伸ばしたいからなんて、自分とは思えないような乙女な思考だ。
と、彼女が手品グッズを手に取った。
「こんなの、ダメかな?」
黒いステッキ。よくあるやつだ。一見ただの棒がスリー、ツー、ワンであら不思議、花束に大変身!
今どきの高校生にタネが判らないはずもないけれど、彼女が選んだのならそれだけで価値がある。手渡された商品のパッケージにある説明を読むと、あの不器用な担任でもどうにかなりそうだと思えた。
「いいね。先生になるべくキザにやってもらえたらウケるかも。候補だね」
商品をとりあえず棚に戻すと、すぐ横にサンプルとして実物が置いてあることに気付いた。
「あ、試せる」
「本田君、やってみて」
僕はステッキを手に取り、勿体ぶって構えてみせた。彼女がこちらをじっと見ているから、急激にテンションが上がってくる。
「ああ、美しい人よ」
僕はいかにも紳士です、といった風に気取ってポーズを取ると、彼女の目の前にステッキを差し出した。
「僕の愛を受け取ってください」
さっきの説明書きの通り操作すると、ステッキは花束へと姿を変えた。
「……はい」
彼女は花束を微笑んで受け取る。
その姿を見て、それから一拍後に己の言動を思い出して、ものすごい勢いで自分の顔が赤く熱を持つのを感じた。
彼女の目が見開かれる。
やってしまった。ここで赤くなんかならなければ冗談で済んだのに。勢い余って告白とか格好悪すぎる!
視線が泳ぐ。何とかごまかせないかと手の甲で頬を押さえるけれど、ああだめだ、めっちゃ汗出てきた。
「……ふふ」
小さな笑い声に彼女を見れば、花束を抱え、同じように顔を赤くして笑う君。
ああ、花ひらく。
〈了〉
コイノハナヒラク 甲斐瞳子 @KAI_Toko
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